旅の記憶を宿す器
JUNKO UMEHARA。
陶芸家。
通称うめちゃん。
拙サイトにて8月10日まで(記載は7月31日なのですが延長しました)、ONLINE EXHIBITIONとしてご紹介しているアーティストさんです。
この地球の悠久の歴史に、トロバドゥールとして、占い師として、旅芸人として、ダンサーとして、祈祷師として、はたまた一国の主人として、おそらくはその名を刻んできたであろう、
大胆で繊細で、仙人で少女で、ああ、そうだ、時に少年のようでもあるその人の器が、私は大好きで、折に触れて少しづつ集めてきました。
この器は特に好きなひとつ。
この鉢に盛ると、食物の本来の姿がググッと引き出されて、内から発光するような、そんな魔法を感じさせてくれます。
この器を買った時の、2018年の日記。
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うめちゃんの展示へ。
既知のうめちゃんの器と久しぶりに会う感覚で、「またあの世界に浸れるの楽しみだな」などと気軽に行ってしまったのだけど、しばらく会わぬ間にうめちゃんが到達していたエネルギーの深度の、その深さに面食らってしまって、自分の調整に数分集中しなくてはならないほどだった。
地球と宇宙を土の中に練りこんで、練りこみ続けながら自分の核へと深く入り込み続け、濾過し続けた最上の一滴のような器だった。
民藝の域を超えアートピースに達していたと思う。
良い意味で軽やかさが排除された、だからこそ器に盛られた食材の命の根元がグッと前面に現れてくるような器。大事に大事に盛り付けていこう、と思います。うめちゃん、この制作はかなり疲れたろうなぁ。」
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後日その思いをうめちゃんに伝えたらば、
「あの時はもうこれ以上陶芸はできないと思ったし、ほんと死ぬかと思った。徹夜で火を見つめて、土と話してた」
と言っていて、やっぱりそうだったのか……と思いました。
器のポテンシャル
うめちゃんの器は、家にいながら旅をしている気持ちになります。
行ったことのない中央アジアの大地の真ん中で風を感じているような気持ちになるし、モンゴルの移動式住居ゲルの中で火を起こして煮炊きをしているような気持ちになります。
すてきな器、何気なく入ったお店で出会った使いやすい器、ビンテージの器、ヨーガンレールの器、大好きな器は様々ですが、
うめちゃんの器は、食そのものの方向を力強く指し示してくれる、ナビゲーターのような存在で、
それはおそらくうめちゃんの魂が、今生だけでなく、はるか昔から、火と土と植物と動物と、深く関わり対話してきたからなのかもしれないと思っています。
うちにいながらにして旅をしているような気持ちにさせてくれるものが私は大好きではあるけれど、それはなにも、旅行に行った時に買った土産物、というようなものではなく、
純粋な「旅情」そのもの、
郷愁という概念そのもの、
そういったことに心を惹かれます。
うめちゃんは間違いなく、その純粋な「旅情」そのものを誘発させてくれる器作りの名手、なので、今回「器」という括りも飛び越えて、
いつかどこかで体験したことを魂が覚えている、そんな空気に満ちた、
アートピースの気質が強い個性的な作品をチョイスしてみました。
ぜひぜひ可憐な野の花やワイルドな野草たちと一緒に飾ってみてほしいと思います。
ちなみに、みたいな話になりますが、JWAVEの日曜深夜のラジオ番組、ナビゲーター野村訓市さんのtraveling without moving。
旅の記憶から溢れ出す音楽の渦に身を浸す1時間番組なんですが、
この番組がとても好きで、
リスナーの皆さんの旅にまつわる音楽の記憶を共有させてもらいながら、
音楽との新しい出会いを楽しんでいます。
「記憶」を辿って音楽を楽しむ、
「記憶」を辿って物を慈しむ、
「記憶」を辿って食を楽しむ、
一段味わい深い楽しみ方のような気がしています。
今回ご紹介する器たち
今回は6点ご紹介しています。
●「こらそん」
ここにグリーンを植え込んで、お庭におくのもよし、室内グリーンの居場所にするもよし、普通の植木鉢とは違う趣に身を委ねてみると、新しい心の世界が広がると思います。
こらそん、ってひらがななのが、好きです。
●始まりの玉ねぎ(おひとりさま用土鍋)
食卓にこの子がいるだけで、場の空気を変えてくれるような土鍋。
土と釉薬のその場限りの融合で作り上げられた色のグラデーション、
金彩で描かれた、平行の葉脈を持つ植物、
時も場所も超越したようなフォルムを持つこちらの土鍋、何世代にも引き継がれていってほしいな、と思います。
●取手のない土鍋
取手が……ない……土鍋。
そう、これは取手がない土鍋。
どうしましょう、ということなのですが、
直火にかけることもできる器、と考えると幅が広がって楽しくなります。
こちらでお米を炊くことも、豚汁を作ることも、はたまた、炊いたお米をおさめるおひつとして、パクチーをたっぷりのせたクスクス料理を盛り付けても。
取手がなくなった途端に広がる世界もあります。
蓋をお皿にすることもできますし、調湿機能のある陶器は、保存容器としても秀逸です。
●森からの手紙
原初の植物をモチーフにした立体作品で、まるで小さな森の滋養を室内に持ち込んだかのような感覚を味わえます。他の植物と一緒に飾ったり、 リビングやデスク、ベッドサイドに置いて、日常生活にアートのエッセンスを取り入れたり。
ワサワサ森に住む、芽の子たち。
そんな物語が始まりそうなこちらの作品。
ナウシカのようだなあ、ああラピュタでもある……と、いつか遠いどこかで知っていたであろう世界に、タイムトラベルしたような感覚を味わえる立体絵画です。室内グリーンを育てている方、ぜひおそばに置いてあげてほしい。緑がよく育つかも。
●森からの手紙02
原初の植物は都会のコンクリートジャングルにおいても、密やかに、そして力強くその生命を謳歌しています。
植物のエネルギーを伝えてくれる手紙を題材にした、卓上のアート作品です。他の植物と一緒に飾ったり、 リビングやデスク、ベッドサイドに置いて、アートのエッセンスを取り入れたり。
日常に寄り添いながら心を豊かにしてくれる存在です。
誰が……誰に……この手紙を送ってくれたの?
こんなかわいい切手まで貼って……
わたしはアーティストの創造性が形となって現れる瞬間が本当に好きで、
この作品をうめちゃんが、
「みようちゃん見て。コンクリートを突き破ってお花が咲いたの。」
と説明してくれた時、もうなんでしょう。うめちゃんごとこの作品を抱きしめたくなりました。
これですよね、アーティストって。
効率性、合理性を重んじる資本主義ロボットには、とうてい、もう本当にとうてい、陶芸の世界でこの作品を作ろうという発想は持てないでしょうし、ましてやその作品をなんとかして売ろうとするでもなく、うめちゃんの手によって生まれた陶器の花をうめちゃん自身が愛でて愛して、誰に喧伝するでもなく、ある日ふと訪れた私にそっと教えてくれる、それくらい静かで秘めやかなのです。
こちらも、グッと来た方の元に旅立ってくれたら嬉しいなあと思います。
●金彩の醤油差し
この鈍色に光る金彩を見ていただきたくて、写真あえて明度を下げております。
幽玄の世界にスッと伸びた金彩の植物、
タージマハルの如き醤油蓋、
モロッコティーポットのような長い口
この姿全体が、西の彼方から東への旅の歴史の凝縮図のようで、たまりません。
SENSE OF WONDER
センス・オブ・ワンダー(英語: sense of wonder)とは、一定の対象(SF作品、自然等)に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、または不思議な心理的感覚を表現する概念であり、それを言い表すための言葉である。
この地球で、命と響き合い、火を見つめ土を練り、こんな作品を作っている女性がいる。
私は今くるりの『ばらの花』や『ワールズエンドスーパーノヴァ』を聴きながらこの文章を書いているけれど、
日本って最高です。
最高な音楽があって、最高な陶芸があって、それを最高って言いながらNOTEワールドの片隅で、病気のワンコを介抱しながら、子供たちのご飯作りながら、夫と夜のドライブに繰り出しながら、言葉に残そうとしている人がいる。
みんなでこの世界を大切に楽しみたいなと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました!
こちらのEXHIBITIONは8月10日まで。
よかったらのぞいてみてくださいね。
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