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国内旅行をしようとしたら辿り着かなかった話

 もう数年前のことになるでしょうか。
 友人と2人で観光した鳥取・島根旅行が意外と面白かったので、少しだけその時の話をしたいと思います。
 また、島根県の観光名所である「津和野(つわの)」へと旅行しようと思われている方の参考になれば幸いです。

(島根県鹿足郡津和野町、太鼓谷稲荷神社にて)

 出発する前に、少しだけ一緒に旅をした友人を紹介したいと思います。
 友人は身長が高く顔も整っており、元体育会系ということもあり体格にも恵まれているのですが、頭が絶望的に悪いせいでその全てを台無しにしている人物です。その友人は過去に2度UFOを見た事があり、何とそれは同一のものだったと言っていました。多分、大手宇宙船メーカーが人気モデルの宇宙船を販売しているのだと思います。

 かく言う自分もあまり頭の良い人間じゃないのですが、かつて週刊少年ジャンプ誌上で連載されており、最近もアニメのリメイクが放送された『シャーマンキング』の聖地巡礼をしたいという自分のワガママに快く付き合ってくれたので、基本的に旅館などの予約は自分がやることになりました。自分も友人も旅行のプランは現地で考えたいというズボラな旅行スタイルというのもあってか、島根県内の旅館ならどこでもいいとあまり深く考えずに「津和野」と呼ばれる町の旅館の予約を行っていよいよ出発です。


 ちなみに、自分がこの友人と仲良くなったきっかけが『映画』です。
 新幹線なんて乗らずに青春18切符を利用してパソコンで映画でも見ながらゆっくりと旅行先に向かおうというコンセプトで計画した旅行なので、お互いに観たかった映画を何作かレンタルして持ってこようという話になっていました。
 友人が2本、自分は長編映画を1本借りてきていたのですが、そのことだけ記憶のポケットに突っ込みつつ続きをお読みくださると幸いです。肝心の旅行内容は軽く読み流していただいて大丈夫ですよ。国内旅行なのでトラブルなんて起きるわけがないですから。


 トラブルが発生しました。このままでは本日中に旅館まで到着できません。
 兵庫県はJR姫路駅に集合し、とりあえず南下していこうということでアプリで乗車する電車の検索を始めた瞬間、事件は現場で起きました。


自「どうする? 先に鳥取砂丘行ってラクダでも乗る?」
友「ありやな、でも旅館は島根やろ? 今日中に到着するか心配やわ」
自「鳥取と島根は隣だから大丈夫やって、それよりお前の借りてきた映画がどういう内容なんかの方が気になるわ」
友「マジで? 結構直観で借りたから分からん」

 こうした会話すら全てがフリとなっていました。

 自分と友人の血の気が一気に引いて行くのが分かりました。
 安いホテルを予約しようとした時に限ってああちょっと遠いな…、なんて思った経験が一度はあるかと思います。

 ですが、アプリで目的地を指定して、到着時間がどうあがいても明日の午前中にしか表示されないという経験は中々ないのではないでしょうか。

 そう、あの時自分が予約した『津和野』と呼ばれる土地は島根県内は県内でも、島根南西の終着駅とされる場所で、島根県内の最奥地にある場所だったのです。

 単位を全部落としてしまったかのようなテンションで自分たちは立ち尽くしていました。
 嘘だろ…嘘だろ…、とか二人して言いながらひたすらアプリを操作する大人2名。

 とは言え、いつまでも駅のホーム内で立ち止まっているわけにもいきません。そう、なんたって自分たちは大人ですから。


 というわけで、JR姫路駅の駅員さんに泣きつきに行きました。


 着かんのです、このままでは予約した宿まで辿り着かんのですと言いながら泣きついてくる二人組がそんなに面白かったのでしょうか。最初は一人で相手してくれていた駅員さんは、まるで極上のクロスワードパズルが落ちて来ましと言わんばかりに増え続け、最終的には窓口の駅員さん総出でA4プリント2枚にも渡る津和野へ辿り着くためのタイムスケジュールを組み立てて下さりました。
(ちなみにこの内容は、兵庫県から岡山県、広島県へと左に新幹線を多少利用しながら移動し、そこから島根県は津和野町へと移動するというものでした)

 こうして何とか夜中には到着することが分かって安心し、鳥取県の観光は諦めることになったものの各駅で降りては特産品を食べたりなんかしてこの旅行の肝である映画鑑賞を行うことになったのです。

 お互いに全く見たことの無い映画を借りてこようという話になっていたのでかなりトリッキーなものを借りていて、
 例えば友人の借りた映画は『300』というペルシャ戦争を題材にした戦争映画と、『CHAOS』というカオス理論を題材にしたサスペンス映画でした。

『300』はスパルタ教育の語源が分かったりして大変面白く、『CHAOS』はまあお世辞抜きにそんなに面白くはなかったのですが、最後まであんまりテーマの『カオス理論』が関係してこないというB級映画感が結構楽しめました。
 そんなこんなでこの2本の映画を観終わる頃にはすっかり日も暮れており、もうすぐ新幹線は山口県から広島県へと差し掛かるという頃でした。


 そして再び事件は起こりました。台風の影響によって電車が突如ストップしてしまったのです。

 突然電車が一時停止してしまい、一体何事だと思いながら停車した駅のホームへ降りて空を見ると大雨が降っており更には雷も轟いていて、台風が直撃し電車がストップしてしまっていたことにようやく気が付くことになりました。

 これは不味いとお互いに頭を抱えながら一時間、二時間、三時間とただただ無為に時間だけが流れていきました。
 それでも一向に電車が動き出す気配はありません。せっかく駅員さんたちに作って頂いたスケジュールも完全に崩れてしまい、乗っていた新幹線の車掌さんに聞いてみたところ、当分動く予定が無いという悲報を告げられました。

 それは同時に、今日中に宿へは辿り着けないということを示していました。


 雷は鳴り止んだものの依然激しい雨音が激しく車体を打ち付け続けていました。
 嵐は止むことはなく、自分と友人の心を激しく撃ち付けているようでした。

「……」
「……」

 言いたい事は沢山ありました。

 何で島根旅行なんて言っていながらまだ山口県に居るんだ、とか。
 何で国内旅行で、ましてや北海道とかでもないのに移動に1日かかることがあるんだ、とか。
 何でカオス理論関係ないのにタイトルを『CHAOS』にしちゃうんだ、とか。

「…ああ、そうか。そういうことだったんだな」
「そういうことなんだな…」

 カオス理論をググって、自分たちは悟りました。
 カオス理論というのは、バタフライ・エフェクトというどこかで蝶が羽ばたけばそれが影響を与えて別の場所で災害が起こるかもしれないという有名な一説があるように、1つの物事が全く未知数の結果をもたらすかもしれないという仮説です。

 しかし自分と友人は、どのようにあがいても島根県に辿り着くことができませんでした。

 どのように電車を乗り継ごうとしても到着時間は明日の午前中に表示され、駅員さんに特製のタイムスケジュールを作って頂いた通りに新幹線を利用すれば台風によって電車は止まる。

 カオス理論なんて、ウソだったのです。


「――もしもし、はい、本日旅館を予約させて頂いたものですが」

「そうなんです、台風の影響で電車が停止してしまい――」  

「はい、本日中に到着しそうには――」

「――えっ、本当ですか!?」   

「――キャンセル料金は出せないが、日にちをズラすことはできる?」 

          「お、おい。旅館の人は一体何て……」 

     「聞いてくれ! 日にちをズラせば泊めさせてくれるって!」

          「おい、だったら明日にでも……」

「――あの! 宿泊日を明日にさせて頂くことって可能でしょうか? え、本当ですか! はい、それなら明日よろしくお願いします!!」


 というわけで前代未聞の2日かけて行く国内旅行、2日目のスタートです。というか1日目の深夜です。日をまたぐ時間帯に運行を再開した新幹線は無事に広島県へと到着しました。

 無論どこも開いてなかったので駅近くにあった屋台のおでん屋で腹ごしらえをして、恐らく二度と使う機会のないであろう漫画喫茶のポイントカードを発行して仮眠を取ることになりました。

 そして朝陽が昇り、自分たちは宿泊先に向かうため再出発を始めました。
 島根県を目指すには北上するのが一般的ですが、この旅先はあくまで”津和野"。ここへ向かうためには山口県を経由しないと遠回りになってしまいます。
 と、いうわけで崩れたスケジュールを調整しながら山口県を北上していよいよ山口県と島根県の県境の山口駅に到着することができました。

 そしてここから終点の津和野駅へと向かう電車に乗車する予定なのですが、駅員さんに尋ねれば十分後にやって来る電車を逃せば2時間ほど待たなければ次の電車はやって来ないとのこと。これは絶対に乗り遅れるわけにはいきません。

 ふと隣を見ると友人が居なくなっていました。

 ホームへ行く前にお手洗いに行くと言っていたので先に乗り場で待っていたのですが、十分経っても友人は現れず、とうとう電車がホームへと到着してしまいました。
 まさかと思いながら急いでトイレへ向かったのですが誰も見当たらず、まさかと思って友人の名前を呼びかけてみると個室の方から返事が返って来ました。


 そして、案の定電車は出発してしまいました。


 というわけで、山口県の観光をしてきました。
(わりと気まずい空気の中での観光のため特にこれといったエピソードはありません)
 恐らく瑠璃光寺と呼ばれる五重の塔に行ったり、恐らく雪舟の別荘か何かに行ったりしました。


 ふと空を見上げれば、日が傾き始めていました。
 自分と友人はこれだけは逃してなるものかと急いで車内に足を踏み入れ、失われた時間を取り戻すかのように映画の鑑賞を始めました。

 だって津和野に辿り着くまで後丸々1時間ほど電車に揺られる必要があるんですもの。


 突然ですが、自分が借りてきた映画というのが誰もが不朽の名作ランキングで一度は目にしたものの「3時間もあるのか」と気付いて観ることを断念した経験があると思われる名作映画『ニュー・シネマ・パラダイス』です。

 そしてその『ニュー・シネマ・パラダイス』も終盤に差し掛かった頃、自分と友人を乗せた電車はようやく島根県南西の『津和野駅』へと到着しました。非常に澄んだ空気に包まれる津和野の清涼感を味わいながら自分と友人はようやく旅館へと辿り着き、チェックインを済ませると同時に早速津和野の飲食店を探そうと街へと繰り出しました。


 津和野の夜は早く、見渡す限りの飲食店が既に閉店していました。
 観光名所がほとんど閉まっていることに動揺を隠せないそんな自分と友人を、津和野の美しい街並みは優しく包み込んでくれました。

『山陰の小京都』津和野の風景

 それもそのはず。
 津和野は『山陰の小京都』と呼ばれているほどの美しい街だったのです。

 そして自分と友人の心を一番掴んだのは、日本五大稲荷神社に数えられる観光スポット『太鼓谷稲荷神社』でした。

「太鼓谷稲荷神社 表参道」

石段263段、鳥居約1000本(太鼓谷稲荷神社HPより)

「太鼓谷稲荷神社 新殿」

新殿では、願望成就・大願成就の大神様である、宇迦之御魂神(うがのみたまのかみ)伊弉冉尊(いざなみのみこと)の御前で、ご伊弉冉参拝のみなさまの願意に応じ、厳かにご祈念いたします。(太鼓谷稲荷神社HPより)


 様々な偶然が重なって訪れることになった津和野に大満足した自分と友人は、暖かく迎えてくれた旅館でゆっくりと休息を取り、明日の予定をしっかりと確認して最終日を迎えることになりました。


 最終日は逆に前日に反省を活かして予定をしっかりと立てすぎたのか、あまり言及することがありませんでしたので駆け足でお送り致します。

 素直に出雲大社を参拝し、素直に蕎麦を食べて目的の『シャーマンキング』の聖地巡礼を終えて大満足の自分と友人は長かった旅行を切り上げて帰路へ着きました。

 何度も確認したタイムスケジュールを正確に守り、電車に揺られながら島根へと別れを告げたのです。

 自分たちは、この旅の中で沢山のことを学びました。

 旅行の計画をしっかりと立てることはとても重要で、予約した宿の場所を調べないなんてもっての他です。不運によるハプニングもありましたが、そのどれもが努力次第で回避することができるものでした。その努力不足のせいでJRの駅員さんや旅館の女将さんにご迷惑をおかけすることになってしまいました。
 もちろんこれからはちゃんと宿の場所などを確認して可能な限り他人に迷惑がかからないように努力しますが、自分たちがしっかりとした旅行のプランを立てることはありはしないでしょう。何故ならそうしていれば自分たちは「津和野」に巡り合うことはなかったのですから。

 そして自分と友人は電車の中で『ニュー・シネマ・パラダイス』を観終えてようやく悟ったのです。


 これが自分たちの『ニュー・シマネ・パラダイス』だったのだと。

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