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ピアノのレッスンと言葉

日本で暮らしていた頃の私は、校則とか制服とかがずっと苦手な子供でした。

そうは言っても、もちろんまぁ大抵のことは守っていたわけですが、、。
でも、制服のリボンがしっかり結べていないとか朝からチェックされると「今日一日のスタートが台無しだよ!」なんて憤慨したものです。(笑)

でも自分がドイツの音楽学校で、初めて自分のクラスを持つようになった時、「ああ、【クラスの決まりごと】というものは必要なんだな。」とわかりました。

同じ舟に乗ってる感というか、クラスのオリジナリティを感じることによって、一種の特別感を持ってもらうというか、、、。

生徒の一人一人に、一つのクラスとしての自然なまとまり、ヘルシーでワクワクするようなグループ感を持ってもらうのには、クラス独自の何かが必要だな、と思ったのです。

でも、何せ校則が嫌いだった人が【先生】な訳ですから、、。(笑)
そこで、やはりと言いますか、、、クラスの規則も少し変わったものになりました。

私が最初に作った【クラス・Shibaの守りごと】とは、【練習をしなくても良い6つの正統な理由】でした。

それは

1)病気やケガをしている時
2)難しい筆記試験などにトライしている時
3)喪に服すなど、悲しみが深すぎる時
4)恋に落ちた時と失恋した時(ただしどちらも1カ月間でメンタルを整えること。)
5)バカンス中
6)その他、先生と相談。

です。

この6つのどれかに当てはまる場合、正当な理由と見なされて練習が出来ていなくても【良し】とされます。(もちろん、1〜6の場合でも練習したい人はして良い。)

自分のクラスを持って、まず一番最初に作った規則がコレでした。

最初のクラスから35年くらい経ちますが、今もこの規則はそのまま。

とはいえ、私の勤務する学校も何校か代わり、クラスも生徒のジェネレーションも代わり、それにつれて【クラスの決まりごと】もだんだん増えていきました。

今日のテーマの【言葉の使い方】も、その一つです。

例えば「今日はツイてない日だ。」は絶対に禁句。

「自分でツイてないって決めたら、そりゃ〜もう悪いことばっかり起こるでしょ〜!自分で悪いことを呼び込んでど〜するのよ?」が、その理由です。

「練習したんですけど、出来ませんでした。」も絶対に禁句。

次のレッスンまでに出来なかった場合は、「まだ新しいことが小脳まで到達してないようです。」と言う。(笑)
(小脳まで到達すると、新しい動きも自動的に出来るようになるので。)

そもそも、新しいことを練習し始めて、2日経ってもこれっぽっちの進歩の兆しも見えない場合は練習方法が間違っているので、 
①練習方法を考え直すこと。
それでもわからない場合、②神頼み。
それでもいい案が浮かばない場合は、③私にSMSを入れること。
(↑これも一応規則なのですが、大抵の生徒は即、③に行くようでSMSが頻繁に来ます。笑)

「私はアガリ症で、緊張してしまうんです。」も禁句。

何故なら、ドキドキしたり不安になったり緊張するのは【当たり前❗️】だから。

「ドキドキも不安感も緊張もしないような人なら、【鈍感極まりない!】ということなので、そういう人はそもそも音楽には向いてないってことなんだよ。」
と説明しています。

「『メンタルが準備運動、始めたぞ!』って思いなさい。」と言っているので、生徒はコンサートの3週間前くらいから「私のメンタル、もう本番準備スタートしたようです!」などと言っています。

私の返事は、毎回「ヨシヨシ、順調、順調!着々と準備が進んでるね!」です。

そうそう、コロナ禍のレッスンでも【言葉の使い方】は大事でした。

ミュンヘンでも何回か繰り返されたロックダウンでしたが、ロックダウンになるということは感染者数がボーダーラインを超えて増えてしまったということ。

世の中はシンっと静まりかえっているのに、緊迫感で何かが爆発しそうな雰囲気。
人々の気持ちは暗く、会話も沈みがちでした。

学校でのレッスンはロックダウンの度、教室での対面式からオンラインに切り替わったのですが、私のクラスでは「オンラインレッスンに切り替えます。」とは言わず、「来週からプランB、発動です。」という風に言っていました。

生徒たちもいつしか【プランA=対面式 プランB=オンライン】と普通に使い分けて言うようになり、私のクラスでは【ロックダウン→オンラインレッスン→気持ちが沈む】という否定的な公式にはならなかったのです。

まるでゲームのように映るかもしれませんが、「言葉って大事なんだな。」と私が改めて気づかされた、忘れられない出来事です。

さて、コロナ禍が終わった今でも、レッスンでの言葉のコントロールは大事です。

というのも、日常、私たちが会話で喋る言葉より、頭の中で考えている言葉の方が全然多いんですよね。

外には発せられない独り言というか、、、、頭の中で生み出されて、頭の中だけで発せられている言葉。
咄嗟のリアクション、思い出とリンクしている感情や、トリガーによって呼び起こされる感情、静かな思考だったり、激情とミックスされた過激な思考だったり。

これら全て、私たちが目を覚ましている間中、頭の中で間断なく発せられている言葉なわけですから、この【頭の中の言葉】が否定的だったら私たちは一日中、毎日毎日、何かを否定しまくって生活していることになってしまいます。

でも、こういう【思考の悪しき習慣】は、ピアノの上達の妨げにもなってしまうんですよね。
だって【上達】というのは、【前進する】ということですから。
後ろ向き、否定的な思考や言葉は、前進しようとする力を妨げるんです。

それを防ぐには、、、。
まず、自分が外に発する言葉を意識的にコントロール、修正することから始めよう!ということで、私のレッスン中は言葉に気をつけてもらうようにしました。

最近では、楽譜を開くなり「いや〜、まだ小脳まで行ってないんですよ〜。」と言う生徒も多くて、私も苦笑してしまいますが、、。

先日は「先生、私の場合、新しく習ったことが小脳に到達するのが遅くて!寄り道してるんじゃないかと思います。」と言った生徒がいまして、思わず吹き出してしまいました。

すぐさま「いやいや、練習が足りないだけだと思うけど?」とツッコミたかったのですが、それを脳内で変換しまして、、。(笑)
「ZARAとかピザハットとかに立ち寄ってるって、言いたいわけ?」と言いました。

生徒も大笑い。いい雰囲気でレッスンが始められました。

でも、これでいいと思います。

【困難なことが起こっても、落ち込み続けてしまうことがなく、一旦冷静に立ち止まって考えることができる、可能ならばユーモアもどこかの隙間に入れて、、。】という、そんな人間のベース作りのトレーニングにしてもらえればいいかな、と思っていますから。








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