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閉じない目には定点カメラを

 子どもの頃から、目が冴えて眠れない夜が年に数回ある。
布団の中で定期的に寝返りを打ちながら、夜明けごろにやっと眠りに入る。それが来るまでは、どうでもいい事をつらつらと考えてしまう。

 子どもの頃は、祖父母の家に泊まっていた時が多かったと思う。

 古いタンス。大きすぎるベッド。長さが足りなくて途中でつなぎ合わされた、柄も色もちぐはぐな絨毯。1人部屋にはちょっと大きめなブラウン管テレビ。タンスの強烈な防虫剤の匂いに悩まされながら、思考はマジシャンが出す万国旗みたいに全く別の事を繋ぎ合わせる。



何匹目かわからなくなった羊の数。


変な人が家の中に入ってきた時の逃走経路。


次の裁縫クラブで作るリスの毛皮の色。


お化けにあった時の言い訳。

結果、解決策を考えるのに一生懸命になってしまって眠りから更に遠くなる。


 いつからか、そんな時はテレビをつけるようになった。
大抵は砂嵐やカラーバーで、「ピーーーーーー」という甲高い音が聞こえないようミュートにするが、ある番組だけは音量を1や2にして聞いていた。ケーブルテレビに映る、定点カメラの映像だ。

4分割した画面には3カ所の場所が映る。

どこかの河川。
たまに行く駅前。
全く知らない町の役場。

あとの4分の1は市役所からのお知らせ。

 テレビには真っ暗な画面しか映らない。その画面に歌詞のない、ポップスでもクラシックでもない絶妙に気の抜けた音楽が張り付く。でも、それが妙に心地良くてつい聞いてしまう。
 何分、いや何時間か。ベッドの中でぼ〜〜〜〜っと見ていると画面の中の空の色が変わってくる。うっすら明るくなっていく画面に、ぽつぽつとヘッドライトが横切る。その光を見ながら、また勝手な思いをつける。

右に行く車は仕事を終えて帰るところ。

左に行く車は右の車とバトンタッチしてこれから仕事に行くところ。

あのトラックは配達の時間に間に合うかな。

あ、自転車。すっごいレア。頑張れー。

 明るくなっていく空と、窓の外から見える空が同じなのが不思議に思える。その時間軸にいる他人の中に自分がいるのが、何だか面白い。

 そうして、右へ行った車の人が家に帰って食べるご飯は『世界で1番早い朝ごはん』か『世界で1番遅い晩ごはん』のどちらだろうと考えているうちに眠りがやって来て、次に目を開けたら祖母によってテレビを消され「テレビも付けっぱなしでいつまで寝てるんだ」とお小言をもらう朝になる。(いや、昼前かな。)


 大人になっても眠れない夜が来るけど、眠りはあの頃より遥か遠くて考える事はずっと難しく、マジシャンが出す万国旗も歪曲していく。

 そんな時、ケーブルもテレビもない自室で思い出すのはあの4分割の定点カメラだ。

 そしてやっぱり、仕事が終わった人が家に帰って食べるご飯は『世界で1番早い朝ごはん』か『世界で1番遅い晩ごはん』のどちらだろうと考えているうちに眠りがやって来て、どちらにしてもそのご飯は美味しいものであって欲しい、と思いながら私の1日もようやく終わっていく。
















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