見出し画像

Culture|フィンランドのカルチャーガイド〈06.エッセイ〉

フィンランドカルチャーにまつわるあれこれを、シンガーソングライターのゆいにしおさんが独自の視点でご紹介。今回のテーマは、フィンランドにゆかりのある人達が書く「エッセイ」です。フィンランドの文化を日本人ならではの感性で綴るその内容は、共感することばかり。みなさんもぜひ読んでみてくださいね!

行きたいところへ行けない状況が続いていますね。前回は、フィンランドに住む人のVlogを紹介し、現地の暮らしぶりや旅気分を味わっていただきました。今回は、フィンランドの旅や文化をテーマにした様々なエッセイをご紹介。手に汗にぎる体験談からほのぼのエピソードまで、フィンランドのカルチャーをゆるりとお楽しみください。


1.

無題124_20210728172600のコピー

〈 あらすじ 〉

映画「かもめ食堂」の撮影のためフィンランドを訪れ、クランクアップ後はひとりでフィンランドのあちこちを巡った、女優・片桐はいりさんの旅の記録。撮影シーンのひとコマやフィンランドの食べ物(以前取り上げたサルミアッキについても!)、牧場でのファームステイなど、滞在時のアグレッシブなエピソードが盛りだくさんです。マトカ(matoka)とは、フィンランド語で旅という意味。タイトルの通り、はいりさんの旅を存分に楽しめるエッセイです。


無題116_20210724111501

〈 もう一度映画が見たくなる!かもめ食堂の裏話 〉

前々回のコラムでもご紹介したお話。はいりさんがフィンランドの俳優マルック・ペルトラと会った時のことです。彼の出演作『過去のない男』について語っている間中、マルックの表情はどう見てもそっけない。ところが、一緒にいた通訳の人から「そうは見えないでしょうけど、この人、今すごく舞い上がっています!」と聞かされ、はいりさんはもうびっくり!フィンランド人の驚くほどシャイな一面を表す印象的なエピソードです。

「かもめ食堂」はすでに5回は観ています。劇中、日本好きな青年トンミ・ヒルトネンに「僕の名前を漢字で書いて」と頼まれ、「豚身昼斗念」と達筆に書いてみたり、折り紙で折ったカエルを飛ばし合う微笑ましいシーンは私のお気に入り。

なので、本の中でもトンミを演じたヤルッコ・ニエミさんと、はいりさんのやりとりは、読んでいるとニヤニヤに近い笑みがこぼれてしまいます。撮影の合間に、2人でキル・ビルごっこをしたり、キアヌ・リーブスそっくりの友人を持つヤルッコさんに、「いつキアヌを紹介してくれるのさ」と絡んだりと、舞台裏もとても仲良しだったみたいですね。

他にも、もう一度映画を観たくなるような裏話も語られていて、「かもめ食堂」ファンにはぜひとも読んで欲しいエッセイです。


2.

無題123_20210728172008

〈 あらすじ 〉

フィンランド人の男性と結婚し、ヘルシンキへ移住したのち、出産、子育てを経験した筆者の暮らしがリアルに綴られたエッセイ。「フィンランドってかわいい!」というイメージをよくも悪くも覆します。読んでいると「フィンランドってこういうところがいいよね」とうなずく場面もありながら、「実際はこんな感じなのか…」と、驚かされるエピソードも。だからこそ、フィンランドの生活をよりリアルに感じられ、日常とは違う世界へ想いを馳せる一冊です。


無題118_20210723230222

〈 国からのありがたいギフト!ベビーボックス 〉

フィンランドでは、政府から妊婦さんにギフトボックスが与えられる制度があります。中には、衣服やタオル、絵本やぬいぐるみなど、育児に必要なものが全部詰め込まれているため、はじめての出産でも必要なものを買い揃える手間を減らせるのが魅力。箱自体は赤ちゃんのベッドとして使うことが出来ます。昔は赤ちゃんと両親が同じベッドで寝ることが多く、それを止めさせるための仕様なのだそう。

そして、ベビーボックスを受け取るためには妊娠4か月までに出生前診断を受けなければなりません。必要なものを与えるだけでなく、妊婦や赤ちゃんの健康を守るためのシステムになっているんです。乳児死亡率が世界一低いというフィンランドの子育て政策って、すごいですよね。

出産を控えた芹澤さんが、そんなベビーボックスの中身をあける場面には私もワクワク。中身は、フィンランドの極寒にも耐えられるモコモコのつなぎや、靴下、ぬいぐるみ。母親向けに、ナプキンや母乳パッドも入っていたりと多様です。年によって寒色系が多かったり、ボーダー柄のものが多かったりと、歴代のデザインを比べるのも楽しみなんだとか。

日本でもフィンランド直送のベビーボックスが購入できるのだそう。気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。


3.

無題125_20210728173005

〈 あらすじ 〉

日本サウナ大使であり、昨今のサウナブームの火付け役でもあるドラマ「サ道」でもおなじみのタナカカツキさんのコミックエッセイ。フィンランドの北部・ルカへ、サウナ以外の観光は一切なし、1日に3店舗を巡る、ただサウナだけを巡るツアーの様子が描かれています。水風呂の代わりに雪や湖の上へのダイブする様子は、見ているこちらまで鳥肌が。サウナが好きな方はもちろん、あまり好きでない方もフィンランドの自然を大いに感じられる作品です。


無題120_20210723230936

〈 フィンランドのバスはサウナつき!? 〉

とにかくサウナだけに入りまくるシーンが多い中、衝撃なのはサウナつきのバス!日本ではお座敷列車のような感覚なのでしょうか。(ちなみに『サ道 1巻』では、サウナ室だけでなく、食事処や漫画コーナーの椅子にもテレビがついているのは日本ぐらい、という話が出てきます。マンガとアニメの国・日本ならではですね)。

フィンランドのサウナバスは、停車中の利用に限られているそうですが、今回のツアーバスのみ、走行中の利用が認められていたのだとか。バスの揺れで、不安定なサウナストーブに見ているこちらもヒヤッとします。それにしても、停車してそのまま雪にダイブなんて、フィンランドならではの醍醐味ですね。

人気作家であるタナカカツキさんですが、快適な室温と一定の明るさを保つ仕事部屋でデスクワークを続ける日々に「感覚というものが置き去りになっている」と感じることがあるそう。「思考の世界から解き離れて感覚の世界に溺れてみたい」という、そのつぶやきにジーン。表現者としての苦悩が垣間見える印象的なひとコマでした。

最後に、本の中で見つけたサウナ名言を紹介します。「サウナは生きているというだけの楽しみ、喜びを思い出させてくれるのだ」「生きている実感、人間になって帰ってくる」。

サウナでは、何も考えず、無になって、ただ感じることが大切。心と体で味わうものだよなぁとしみじみ。いつの日か私もサウナバスに乗って、この言葉をさらに体感できるのを楽しみにしています。もちろん雪ダイブも!


スクリーンショット 2021-04-23 14.33.07

instagram:@_yuinishio_
twitter:@_yuinishio_

この記事が参加している募集