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Design&Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈01.ディドリクセン美術館を訪ねて〉

アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をレポートする連載がスタート。今回は、ヘルシンキ郊外の知る人ぞ知る、隠れ家的な美術館を訪問。館長インタビューを交えてお届けします。

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ディドリクセン美術館に初めて訪れたのは、遡ること3年前。フィンランドに旅行で訪れた時でした。その時は残念ながら、展示替えの時期で中を見ることができませんでしたが、雪がしんしんと降る凍った入江の前に彫刻が美しく佇んでいたのをよく覚えています。


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ディドリクセン美術館は、美しい景観が広がるヘルシンキ西部の島、クーシサーリにたたずむ小さな私立美術館。1965年にマリエ・ルイーズとグナー・ディドリクセン夫妻が自身のコレクションを自宅公開するかたちでスタートしました。アートをこよなく愛した二人のコレクションを、実際に暮らしていた空間の中で楽しむことができます。

フィンランドで暮らす今、ここは、一人でゆっくりと考え事をしたいときに訪れたくなる、私にとって秘密基地のような場所。落ち着いた住宅街にある隠れ家のようなディドリクセン美術館を訪れると、空間に自然に馴染んだ絵を前に、気負わずゆっくりと鑑賞することができるのです。

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そんな美術館の現在の館長、マリア・ディドリクセンさんに、美術館のこと、開催中のトーベ・ヤンソンの展示のこと、ニューノーマルな現在の暮らしの中でのアートの存在についてお話を伺いました。


ディドリクセン美術館が目指すもの

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美術館がオープンした当初から、多くの人を迎え入れ、開かれた美術館をディドリクセン夫妻は目指していました。当時は、カーテンを隔てて建物の半分に家族が住んでいて、半分が美術館だったそう。

“ディドリクセン美術館のコンセプトは、「Cultural oasis in Helsinki(都会の中の文化のオアシス)」。義理の両親、ディドリクセン夫妻は訪れる人達に、アートを楽しむだけではなく建築も含めて楽しんでほしいという思いがありました。私もアートは建築があり完成するものだと思っています” 

設計は、フィンランドのパレスホテルやカナダのトロント市庁などを手掛けた、世界的に活躍する建築家、ヴィルヨ・レヴェル。彼は、コレクションとの兼ね合いを見て、イギリスを代表する芸術家であり彫刻家、ヘンリー・ムーアの作品を置くことを夫妻に勧めたそうです。抽象彫刻を得意とする彼の作品が建築を完成させる、と。彼もまた、「建築もアートがあり完成するものである」という思想の持ち主でした。今では、ヘンリー・ムーアの彫刻は、ディドリクセン美術館の見どころのひとつになっています。

5_Didrichsen Art Museumのコピー

こうして、建築・家具・景観にアート作品が美しく調和し、訪れる人がリラックスしてアートを楽しめる場所が作られていきました。企画展で一時的に展示する絵や彫刻であっても、ずっとこの美術館にあったように馴染んでいるのは、開かれた空間にしたいというディドリクセン夫妻の想いがあってこそなのだと思います。


“To paint is to be”
開催中のトーベ・ヤンソン展について

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ディドリクセン美術館では2021年8月末まで、ムーミンの作者で知られるトーベ・ヤンソンの展示が行われています。ディドリクセン美術館で行われたある展示会のオープニングにムーミン財団の方がきて、「ここにトーベ・ヤンソンの絵があったら素敵ね!」という話になり、この企画が実現したのだそう。

トーベ・ヤンソンは、著名な彫刻家の父親、母親はグラフィックデザイナーという芸術一家に生まれました。スウェーデンとフィンランドで絵画の教育を受けて、さらに画家として個展も行っていました。そのため、彼女にとって画家であることはとても重要なことでした。“トーベ・ヤンソンはムーミンの作家である以上に画家だったのです”。

今回の展示では、ディドリクセン美術館のスペースの特徴を生かし、トーベ・ヤンソンをムーミンの作家としてではなく、画家としての姿に焦点を当てています。展示では彼女の友人たちとの作品や、抽象画を描いていた1960年代の作品など、画家としての変遷を紐解いています。

“一番のポイントは彼女の自画像です。同じ年代に描かれているものでも全く異なる顔をしているんです。彼女が恋をしていた絵の先生と一緒にいる時の自画像と、また別の自画像では20歳位の年の差があるように見える。彼女の心境がそこから読み解けますね” 

家族やパートナーを描いた作品もあり、作品を通して彼女の画家としての人生を垣間見るような展示会でした。

展示の様子はこちらから。

彼女の姪であるソフィア・ヤンソンが、ディドリクセン美術館のポッドキャストでトーベ・ヤンソンとのエピソードを語っているので、ぜひ聞いてみて下さい。ポルボー近郊の島のサマーコテージで一緒に過ごした時間などを話しています。家族であるからこそ語ることのできる、トーベ・ヤンソンのユニークで面白いキャラクラーが浮かび上がり、彼女の意外な一面を知ることができますよ。


ニューノーマルな暮らしとアートの役割

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暮らし方が変化した今、アートが果たす役割にも変化を感じているのでしょうか。

“今、アート業界がとても厳しい状況なのは間違いありません。ただ、その中で一つ良かったことは、一度に入館できる人数制限をすることで、来館者がゆっくりと絵や建築を楽しめるようになったということです。インスタグラムでのライブ中継やポッドキャストなどをして美術館に来ることができない方もアートや美術館を楽しめる工夫をはじめました”

“ニューノーマルな暮らしの中で、どれほどアートが大切か多くの人が気づいたことでしょう。多くの調査機関も、今後は美術館だけではなく、演劇やコンサートなども含めたアート全体の価値がとても高まると伝えています。精神的にもアートは重要だという研究結果もあるほど、アートが私たちの精神にもたらしてくれる力はとても大きいのです”

私自身も他の美術館が空いていなかった今年の1月頃、ディドリクセン美術館で、アートに触れることができ、また美術館のあたたかい雰囲気に精神的に支えられました。


インタビューを終えて

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初めて館長にお会いした時に、私の着ていた東京で買った上着を褒めてくれたのがとても嬉しかったのを覚えています。ご縁が重なり、先日アートワークショップを開催させていただいたのですが、その際に参加者にシナモンロールやコーヒーを提供してくれるなど、みんながリラックスできるように気遣ってくれました。館長はもちろん、職員の方も快く迎え入れてくれて、ディドリクセン夫妻の「全ての人に開かれた美術館でありたい」という信念が受け継がれていることを体感し、“大きな美術館ではありませんが、印象に残る特別な体験を提供できると信じています”という館長の言葉を思い出しました。

バーチャルミュージアム(英語)

トーベ・ヤンソンの展示について(英語)

Instagram:didrichsenartmuseum

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Instagram: ma10ri12co

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フィンランドのテキスタイルブランド「ラプアン カンクリ」の表参道店から、さまざまなジャンルのライターを通して、フィンランドの暮らしや人、文化など奥深いその魅力を発信します。店舗で開催するイベントやワークショップ情報も要チェック!https://lapuankankurit.jp/