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Trip|私のフィンランド探訪記 〈04.キッチンから紐解くフィンランドの暮らし〉

フィンランドの美しい自然とデザイン、そこに暮らす人々に魅了され、その魅力を発信する活動を行うイラストレーター・フォトグラファーの入海ヒロさんがお届けする、“読む”フィンランド旅。 食欲の秋!ということで、前回に続き、ヒロさんに食にまつわるお話をご紹介いただきます。

フィンランドでホームステイをした一週間。家の中で私が一番長く過ごしたのはキッチンでした。ホストマザーと一緒に料理をしたり、キッチンそばのテーブルで朝食をとったり。「ふつうの暮らし」に興味があった私にとって、キッチンはその象徴。

キッチンにいる私があまりに嬉しそうだったのでしょう、ホストマザーが1冊の古い本をプレゼントしてくれました。今回はこの本と一緒に、想い出いっぱいのキッチンをご案内します。


引き継がれる暮らしの基本

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プレゼントしてくれたのは、こちらの本。苺の写真と「Ole Hyvä!(どうぞ)」のタイトル。料理本かと思い開いてみると、なんと30年以上前の「家庭科の教科書」でした。レシピ、食材の栄養と切り方、キッチンの使い方、洗濯のしかた、クリスマスのテーブルセッティングまでたくさんの暮らしの知識が載っています。ここには私が知りたかった、フィンランドの「ふつうの暮らし」が詰まっている!興奮気味の私に、ホストマザーは笑っていました。


フィンランドのキッチン事情

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ホストファミリー宅のキッチンは、白を基調として、壁側にシンク、窓際に小さなテーブルと食器棚がありました。朝食はいつも、この小さなテーブルで軽めにいただきました。

小さなサイズのシンクが2つ並んでいて、片方で洗って片方ですすぐようです。シンクの真上の戸棚は下が網になっていて、洗ったお皿をそのまま乗せると水がシンクに落ちる仕組みになっています。洗い物は目隠しできるし、水気も切れる、とっても便利そう。

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シンクに三角コーナーは見当たらず、生ごみはシンク下の戸棚にあるフタのないゴミ箱へ。日本より湿度の低いフィンランドだからこそですね。洗い物も生ごみも、目隠しできてスッキリしています。日本とちょっと違うキッチンのつくり、その全てが新鮮に映りました。


家事は楽して自分時間

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ある日、ホストマザーがキッチンで「フィンランドの料理は切って入れてオーブンで焼くだけよ」と笑いながら教えてくれました。またある日は、私がお皿を洗おうとした時に、食洗器を指さして「お皿はこれが洗ってくれるものよ。その間に私たちは本を読みましょう」と言いました。

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フィンランドの人たちは、家事に時間をかけるよりも、できるだけ家事は楽にして、自分たちの時間を少しでも多く確保することを大切にしていると知りました。30年前の教科書にも既に食洗器が載っていて、普及率の高さがうかがえます。

同時に、日本での私たちの食卓は、手間暇かけた料理、品数の多さ、彩りも計算されていて、もう充分頑張っているんだな、と自分を含めて日本のみんなを褒めてあげたくなる瞬間でもありました。


定番の家庭料理を体験

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滞在中に私がホストマザーにリクエストした料理は、サーモンスープ、シナモンロール、リンゴのパイです。レストランやカフェでも食べることができるけど、家庭の味を知りたい。作っているところをこの目で見てみたい。

●Lohikeitto(ロヒケイット)

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まずは、ロヒケイット=サーモンスープから。材料は、サーモン、玉ねぎ、じゃがいも、オールスパイス、生クリーム、塩、とシンプルです。お刺身でも美味しそうなサーモンを大きめにカット。この光景だけで期待値が上がります。ホストマザーが、「オールスパイスが欠かせないのよ」「クリームはラクトースフリーを使っているわ」など、料理のポイントを教えてくれます。

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出来上がったサーモンスープ。ホストマザーと一緒に、料理に合う器やペーパーナプキンを選ぶ時間も、私にとっては至福の時間です。この日は優しいブルーのスープ皿。ディルは入れないのがこの家のレシピのようです。お味噌汁の仕上げにネギをのせるように、サーモンスープにディルは欠かせないものだと思っていたので、少し驚きでした。コンソメを使わずに素材の出汁だけで作るサーモンスープ、滋味深く優しい味でした。

●Korvapuusti(コルヴァプースティ)

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続いてホストマザーにリクエストしたのは、コルヴァプースティ=シナモンロール。教科書にもその作り方が載っていて、国民的プッラ(菓子パン)であることが分かります。

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「パンを作るときはこれ!」と、戸棚の上から出してきた黄色く深さのあるコロンとしたボウル。パン生地作りをした後も洗わないそうで、この日も使う前から前回の粉が着いたまま。なんでも、パンを作るためのいい微生物が残っているからだそう。一度家族に洗われてしまって、ショックを受けた思い出を口惜しそうに話してくれながら、パパっと生地を作っていきます。

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シナモンロールは孫が大好きなので、孫が遊びに来ると必ず作るそう。私は映画「かもめ食堂」に登場するシナモンロールをイメージしていたのですが、このお宅ではねじねじと巻く「スウェーデンスタイル」の巻き方でした。

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私たちがよく目にする「ビンタされた耳」の形のシナモンロールよりも、この巻き方だと数がたくさん作れるそうで、もっぱらこちらの巻き方なのだそう。


●Omena-kaurapaistos(オメナカウラパイストス)

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またある日は、オメナカウラパイストス=リンゴとオートミールのパイを焼いてくれました。切ったリンゴの上にシナモンシュガーを振り、オートミールとシュガーとバターを混ぜたものをのせて、オーブンで焼くだけ。ホストマザーの言う、まさに「切って入れて焼くだけ」の料理です。

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ザクザクとした食感が楽しいオートミール、爽やかな甘みのりんご、ふわっと香るシナモン。フィンランドの定番の味が詰まっています。この日は、バニラアイスとあわせていただきました。最近は、フィンランド産のオーガニックオートミールが日本でも手に入るようになりましたね。これからちょうどりんごが旬を迎える季節、作ってみてはいかがでしょうか。

ちなみに、ホストマザーはお菓子作りの時、北欧の砂糖ブランド「Dansukker」のレシピをよく参考にしていました。色鮮やかなお菓子がたくさん載っていて、見ているだけでも楽しめます。よかったらご覧になってみてください。


キッチンから見る「ふつうの暮らし」

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ホームステイをするまで、家で過ごす時間を大切にするフィンランドでは、料理も凝って作っているのだろう、と思っていました。でも実際は、家事にはあまり時間をかけないことをキッチンを通して知りました。サーモンスープのディル、シナモンロールの形、切って焼くだけの料理。「フィンランドの人はきっとこうだろう」と抱いていたことが、本当は少しずつ違っていて、発見の連続でした。

キッチンが映し出す「ふつうの暮らし」。もしフィンランドの家庭にお邪魔することがあったら、ぜひキッチンものぞいてみてくださいね!


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