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Design & Art|フィンランドのアートと人を巡る旅 〈16.色彩と認識の授業から見えたカラフルな世界〉

アアルト大学院でアート教育やアート思考を学ぶまりこさんが、フィンランドのアートにまつわるおすすめスポットやイベント、現地に暮らす人々の声をお届けします。

10月中旬には紅葉が終わり、いよいよ冬の訪れを感じ始めたフィンランド。そんな郷愁的な雰囲気が漂う中、私は修士論文が佳境を迎えています。そして先日には、卒業前最後の授業を受けました。

在学中にどうしても受けたかった授業、「色彩と認識(Colour and Perception)」。アアルト大学ではワークショップと呼ばれる、このような実際に物を作る授業はとても人気で、参加するには志望動機書を書くか、抽選に当たる必要があります。私は何度も落選しましたが、最後にしてやっと受けることができました。今回は、こちらの授業をご紹介したいと思います。


色彩のグループワーク

「色彩と認識(Colour and Perception)」は色彩の基礎を学ぶ、10年ほど続く人気の授業。参加した理由について他の学生に聞いてみると、デザイナーだけど色についてしっかりと学んだことがないから、建築学科で色に興味があるからなど、専門分野と選択理由は実に様々です。

課題に関してレビューをしているシニ

担当教授はアーティストでもあるSini Vihma(シニ・ビフマ)。抽象画を中心に描く彼女の展示会では、自然の中で色を探索する写真やメモとともに、作品を描く過程をわかりやすく展示していて、色へのこだわりが感じられます。優しく繊細な印象の彼女の授業は、常に自由で朗らかな雰囲気で行われました。

キャンパスの色探索

最初は、色の歴史を生物学的観点から学ぶ講義。猿は繁殖期になると唇が赤くなるなど、様々な視点から色と生物の関係性を教わります。

そしてその後に、NSC(natural colour system)という色彩パレットを使って、大学キャンパス内の色探索に出掛けました。無我夢中でどんな色がパレットの色に近いかを探っているとあっという間に時間が経ちます。

色探索を終え、発表の場では「人工物はパレットから色が探しやすく、有機物は探しずらい」など、全員で気づきをシェア。分析型の人、美的感覚の強い人、アーティスト目線の人など、同じ課題でも全く見方が違い、学びが多くありました。

その後も、様々な課題を通じて色に親しみ、色相、色合いについてを学んでいきます。色の組み合わせ作りでは、色で遊んでいる感覚に。

上の写真は、色紙だけで色が透けているような色の組み合わせを探すというもの。これだ!という色の組み合わせが見つかった時は、パズルを終えたようにすっきりとした気分になりました。

最終課題のプレゼンテーションの一部

最後の課題は製品パッケージのカラーデザインです。デザインの経験がない私は少しドキドキ。前職での香りの知識を活かして、私は香水のパッケージをデザインすることにしました。まずは雰囲気を描き、そこからそれに合う香料をイメージしていきます。そこからトップ、ミドル、ベースノートを考え、色の組み合わせに落とし込んでいきました。

他の学生は、バーのロゴをデザインしたりロボットのキャラクターを作ったり。それぞれのクオリティーが高く、発表はまるで新製品発表会を聞いているようです。

お茶のパッケージをデザインしたのは、建築学科のヤスミーナ・クナッピ(Jasmiina Knaapi)。四季の自然風景を絵画に描き、色分析をした後に、その一部をパッケージデザインに落とし込んでいました。とてもフィンランドらしい優しいタッチのデザインと色合いで、製品化して欲しい!と思うほどでした。

最後に、授業をどのようにデザインしているのかをシニに聞いてみると、「初心者から上級者までが楽しめるように課題の幅を広く設定している」とのこと。課題の幅が広いことで、それぞれのアーティスト活動に寄せることができますし、初心者であっても迷うことがありません。教育者としての彼女の細やかな気配りを感じました。また遊びの感覚を取り入れながら、色について学ぶプロセスはとても参考になりました。

この授業を終えた私は、アルヴァ・アアルトがデザインした美しい校舎を歩きながら、最後がこの授業でよかったと幸せを噛み締めていました。


授業を受けてから、周りの色についての認識が変わり、落ち葉の色も黄色、赤色、橙色など多様なことに気づきます。修士論文でパソコンに向かうことが多いこの頃、自然にはこんなにも色で溢れていたのですね。みなさんも秋の色付いた街へ、色探索に出掛けてみてはいかがでしょうか。


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