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Design&Art|デザインを覗く 〈04.旅への空間〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。


物語に起承転結があるように、旅にも始まりと終わりがあるものです。

まだ見ぬ大地へ旅立つこと、見慣れた土地へ帰ること。そのどちらも、少なからず感情の揺らぎを伴うもので、本質的に旅とはそのような情動を楽しむためのものかもしれません。

旅の行方は人それぞれですが、空・陸・海を繋ぐ空港や駅、そして港では誰かにとっての始まりと終わりが、そして誰かとの出会いと別れが絶えず生まれては消えてゆきます。空港とは、駅とは、港とは、そのようなドラマチックな空間なのです。


また、都市の要となるこれらの空間には土地の特徴が随所に散りばめられており、来たる旅人たちにその土地を紹介する「玄関口」としての役割も果たします。例えば、海外から日本の空港に戻ってくると公共空間の清潔さに改めて驚かされたり、地方の駅ではその土地ならではのグルメや土産物を楽しむことができます。

このように、空港を覗けばその国の美意識が、駅や港を覗けばその地域の空気感がじんわりと伝わってくるものです。それは日本に限った話ではなく、フィンランドでも空港や駅の空間にはその土地らしさが点在しています。2022年第1回目となる今回は、フィンランドの玄関口に焦点を当ててデザインの種を覗いてみます。


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フィンランドへの旅の始まりはいつも、ここから。玄関口はもちろんヘルシンキ空港ですが、フィンエアーの機内では一足早くフィンランドが感じられます。白、青、シンプルに。限られた色彩と要素がすっきりとまとめられているこの空気感は、まさにこの国のシンボルとも言えるものではないでしょうか。眼下に広がる雲と空の風景は、まるでフィンランドの雪景色のようです。


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フィンランドの玄関口、ヘルシンキ空港。トーンや色彩が機内のデザインとも似ていて、落ち着いた雰囲気を感じます。中東系の空港だとこれでもかいうほどのゴージャスな装飾が施されていたり、空港内に電車が通るほど大きかったりもするのですが、それと比べるととにかく控えめ。そして何よりちょうどいい。日本からはるばる来ても、どこか日本と似た空気を感じる方も多いはずです。

※ヘルシンキ空港はターミナル2が大幅に改装され、昨年末からリニューアルオープンしています。今よりさらにフィンランドらしく、自然溢れる空港がとても魅力的です。
https://www.finavia.fi/en/helsinki-airport-development-programme


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空港の次に出会う玄関口といえばここ、ヘルシンキ中央駅です。欧州の駅は改札が無いことが多いので、街と駅の空間が連続しています。そのため、出発時間まで周辺をぶらぶらと歩いていられたり、電車を降りてそのままトラムに乗れたりと何かと気持ちがよいものです。

また、大きな駅が終着点として作られることが多く、駅のエントランスが都市の顔になりやすい特徴があります。日本だと、北口と南口のように線路を隔てて入り口が分かれてしまうのですが、終着駅だとエントランスがひとつ。時計台やモニュメントが待ち合わせ場所や写真スポットとなり、結果として人々のイメージに残りやすいのです。

空港のモダンな雰囲気から、中央駅でがらっとクラシックな空気に変わり、そこで「ヨーロッパに来たんだな」と強く実感することもあるでしょう。ちなみに、この駅の設計はエリエル・サーリネン。チューリップチェアで有名なエーロ・サーリネンのお父さんです。


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街の地下では小さな旅が絶えず繰り返されています。ヘルシンキ市内を繋ぐ地下鉄の駅も、日本とはちょっと違った空気が漂います。東京の地下鉄を見慣れた人からすると、足元の案内の少なさと、壁面の広告の少なさに驚くことかと思います。それは電車内部でも同様で、電車の色自体は派手なのですが、目や耳から入る情報が少ないためか、落ち着いた移動の時間を過ごすことができます。(もちろん乗車人数が少ないことも理由の一つです)


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それだけでなく、一部の駅ではライティングによって美しい装飾が施されていたり、大学やショッピングモールと直接繋がっていたりもするので、地下も連続した街の一部として楽しむことができます。“短い日照時間が北欧のインテリアデザインを発展させた”と言われることがありますが、半屋外空間の地下すらもこの国ではインテリアとしてデザインされているのがおもしろいですよね。


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地上での旅ももちろん魅力的です。街中に彩りを振り撒きながら走り抜けるトラム。外から走る姿を眺めるのも、中から車窓をのんびりと眺めるのも、どちらも心躍るものです。


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最後は海の旅へ。船に乗って、どこまでも。フィンランドの海沿いを歩いていると、大小様々な桟橋をよく目にします。大海への入り口と捉えるか、大陸への帰り口と捉えるか。遠い場所と場所とを繋ぐ架け橋であることに変わりありません。


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2022年へ向けた出発の1月ということで、今回は「旅への空間」をテーマにフィンランドの風景を覗いてみました。

まだ車や飛行機など存在もしていなかった平安時代、日本では出会いと別れの一期一会に想いを馳せる美しい和歌が数多く詠まれました。行きたくても行けない、会いたくても会えないことが当たり前の時代です。

モビリティが進化した現代にはそれほどの不自由はありませんが、それでも旅立つことはいつでも特別で、その旅立ちを包み込む空港や駅、港の空間はとてもドラマチックです。

そんな劇的な空間に色を添えるその土地らしさ。まだちょっと、大きな旅に出かけるのは難しそうですが、今年は日常の小さな旅を通して新たな発見がたくさんあるといいですね。

掛川原さん

instagram:@lumikka_official

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