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【読書感想1】「魔女に首輪はつけられない」

※軽いネタバレを含む点に注意。

 今回読んだのは、第30回電撃小説大賞受賞作の「魔女に首輪はつけられない」。イラストレーターのイラストが非常にハイクオリティでそれだけでも購入する価値があると言えるが、内容もそれに負けてはいない。 

 国を亡ぼすほどの力を持つがゆえに捉えられ、首輪によって魔力を制限された魔女たちのいる世界。そんな世界でローグ・マカベスタは魔術犯罪捜査局の捜査官として日々魔術による犯罪を取り締まっていた。ところがある日、存在しないはずの<第六分署>へ転属させられる。そこでは、災厄をもたらすとされる魔女が国家によって管理され事件捜査の協力者として利用されていた。そこは一般分署ではどうにもならない事件を扱う秘密の署だった。
 ローグはそこで出会った天真爛漫ではちゃめちゃながら、強力な能力を持つ魔女ミゼリアとタッグを組むことになる。
 そのころ世間では、<奪命者>と呼称される触れたものの時間を操り成人を一瞬で老人にしたり赤ん坊にしたり、はたまたその能力で人を殺害する犯罪者が世間を騒がせていた。
 ローグはミゼリアに振り回されつつも、強い正義感に駆られて<奪命者>の影に迫っていく。そしてミゼリア以外の捜査協力者である<第六分署>の魔女を助けたりしつつ、彼女たちの信頼を勝ち取る。だがやはり魔女である彼女たちの背後には暗い影があり、それが物語をさらなる深みへ引き込んでいく、といった物語。

 つづいて作品全体について見ていこう。
 まず本書の良さは何と言ってもヒロインミゼリアのかわいさにある。
「私が望んでいることはただ一つ、楽しさだ」という彼女のセリフからもうかがえる通り、ミゼリアはとにかくあらゆる人や物事を茶化したりいじったりすることで楽しもうとする。自らの精神干渉系魔術でさえ楽しむための道具にしてしまうという恐ろしい一面を見せる一方で、つれなくあたるローグをひたすら一途にいじり続けたりする人間味のある一面もある。

 いくつか二人の掛け合いを引用すると、

ローグ「……お前とはもうごめんだ」
ミゼリア「私がローグ君を休ませるわけないだろ? 短い付き合いでも、わかってもらえたと思ったんだけどねえ」

と、かまちょになったり、
(魔女の仲間を助けに行くかという場面で)

ローグ「……助けには行くからな」
ミゼリア「何度でも言うけど、おすすめはしないなあ。(中略)かわいい女の子の皮を引っぺがせば中身はただの獣だ。温情など必要ないよ」

と心配したり、

「いやまあ。私としてはそこまで想われて嬉しいのだけどね」

とデれたりする。多彩な反応を見せてなかなかにかわいいのである。

 キャラとして魅力があるのはもちろんヒロインのミゼリアだけではない。他の魔女も突然突っかかってくるかと思いきや豹変して弱みを見せたりと、とにかくギャップに富んだ魅力的なキャラクターがそろい踏み。
 とくにクライマックスの魔女たちの行動には強く引き付けられるものがある。様々な背景を持つ魔女たちは本当に人間のローグの力になるのか? そもそも魔女とはどういった存在なのか?
 本作の中盤まではやや退屈する場面も少なくなかったが、事件解決に向けて急速に物語が動き始めてからは特に面白かった。さすが大賞受賞作といった技量だ(と評せるほど私に才能があるかは不明だが)。簡素ながら必要な情報を的確に読者に与えてくれる語りもなかなか洗練されている。

 ライトノベルらしい美少女との絡みや魅力的なファンタジー世界が特徴の本作。中盤以降は引き付けられる場面も多く面白かったので一読の価値ありと言える。

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