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ロング・キャトル・ドライヴ  第三部 連載4/4 「霧夜のワルツ」

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これまでのあらすじ

テキサスから来た若き牛追い業者
カルロスを助けたことで
御礼のしるしにナッシュビルで一番のホテル
マックスウェル・ハウスのディナーに招待され

カルロスとディナー・タイムで打ち解ける中、
パコ叔父さんのもう一人の人格:ソフィアも
自身の生い立ちを語り出す。

ガットリンバーグで生まれ育った
美しいアルビノの双子姉妹であることを
語り始めるのだった。


1859年
ガットリンバーグの天使と云わしめる
美しいアルビノの双子姉妹
アレクサンドラとソフィアは14歳となった。

アラバスター彫刻を彷彿とさせる
透明な白い肌__

彼女たちの存在は宗教絵画から
飛び出してきた天使と思える程に
その美貌はこの世の奇跡と云ってよかった。

ノックスビルはおろか遠くの都会からも
噂を聞いた人々がアレクサンドラとソフィアを
一目観ようとこの街に訪れるのだった。

しかし、双子姉妹は人々から好奇の目で
観られることに辟易としていた。

そんな日々を過ごす中で
ガットリンバーグの街に一人の紳士が訪れる。

彼の名はジェームズ・エイプリルレインという
ホテル事業で大成功を治めた
初老の大富豪だった。

ジェームズは保養目的の旅行で
グレート・スモーキー・マウンテン

散策するためにふもとにある
この小さな村に訪れていた。

このガットリンバーグの村を拠点に
広大な原生林が広がる景勝地へと
アクセスするのには丁度具合が良かったのだ。

彼はビジネス相手からの薦めもあり
この地に訪れた。

見晴らしの良い尾根から見渡す風景は
噂に違わぬとおり
山脈には常に雲や霧が薄らとかかっており
その幻想的な光景は感動的であった。

Great Smoky Mt.  TN,


その時である__ 。
ジェームズの視界に白い何かが見えた。

それは二匹の白い動物のようであるが
ジェームズにはそれが何か良く判らなかった。

二匹の動物は戯れるように山あいの草原を
駆け回っていた。
よくよく目を凝らすと人のように見える。

やがて、ジェームズの居る
この尾根まで近づいてくるではないか。

「こんにちは!おじさん。」
と声を掛けてきたのは
白く美しい二人の少女__
アレクサンドラとソフィアであった。

雪花石膏アラバスターのように透き通る白い肌
すみれ色をした美しい瞳
プラチナブロンドの髪が風になびいていた。



(この世でこんなに美しい少女は
見た事がない。)
と内心は思いつゝも、そこは海千山千の紳士

平静を装って
「お嬢さん達。ここには良く来るのかい?」
とさりげなく声を掛けてみた。

「私たち、ふもとの村で暮らしているの。」
と、少女たちは微笑んで答える。

その透き通るような微笑みに
ジェームズは一瞬で心を奪われた。

(こんなに美しい姉妹が、私の滞在している
村に住んでいるのか。)

ジェームズは
「マドモアゼル、私もふもとの村にしばらく
滞在している者です。

旅先で偶然にも出会ったことが嬉しくて
神の思し召しのように思います。

また、ふもとの村でお目にかかれるのを
楽しみにしておりまする。」

ジェームズの紳士的な振る舞いは
少女たちからすれば
いつもの野次馬のような来訪者と違い、
丁重に対応してくれるこの紳士の態度に
好感を持ってくれたようだった。

少女たちは何か相談しているようだが
少女の一人が
「あら?まあ!そうなんですか?
ふもとの村までご一緒しますわよ。」
と案内をすると言ってくれたのだ。

「メルシー、マドモアゼル」
と茶目っ気たっぷりに
ジェームズはひざまづいて敬礼をしてみせた。




ジェームズ自身は
事業では成功を治めたものの
若かりし頃は家庭を顧みないことが災いし、
一度目の妻とは離縁していた。

二度目の妻との間に一女を授かったものの、
病弱であった娘はわずか11歳で夭折し、
その後は子供を授かることがないまゝ
二度目の妻にも先立たれてしまっていた。

(この姉妹を家族に迎え入れたい__ 。)

しかし、この胸のときめきはどうだろう。

それは家族を失ったうら寂しさとは異なる
ある種の感情が芽生えていた。

男の性としての__
美しい女性を観た時に直情的に
我が手中に納めてみたいと云ふべき
性的衝動リビドーが沸々と湧き上がる。

それは美術蒐集家、或いは獲物を狙う狩人
と言っても差し支えないほどの
"狂"の情念がほとばしる。

アレクサンドラとソフィアという
この世の奇跡が現身うつしみとなった姿を
一目見ただけで__

ジェームズは自身の中で
晴天の霹靂へきれきに撃たれたが如く
体内に電流が駆け巡るのを感じたのだった。




ジェームズはガットリンバーグに滞在中は
ナッシュビルの都会から来た名士として
笑顔と紳士的な振る舞いを絶やすことなく、
高額なチップをはずむこともあり、
村中の人々からの尊敬と信頼を集め出した。

彼は人を懐柔することに長けていた。
もはや天稟の才と云っていい。

純朴な村人たちの心を掌握するのは時間が
かからなかったが、
彼は戦略的で用意周到な男であった。

ジェームズはビジネスの合間を縫って
三年の月日をかけて、
春と秋に長期滞在をする度に
村人が総出で歓迎するまでに信用を勝ち得た。

アレクサンドラとソフィアはもちろん
母のヴァレリーまでもがジェームズに心酔し、
彼が訪れる度に我が家に歓待するまでに
関係を深めていったのだった。

1962年
アレクサンドラとソフィアは17歳となり
少女と大人の境界にある過渡期ゆえの
美しさを讃えている。

(機は熟したであろう。)

ジェームズはヴァレリーに求婚をする。
「私と余生を供に__ 。」

決して裕福ではないヴァレリー一家としては
まるで夢のような申し出であった。

ジェームズは事業は成功しているものの、
妻に先立たれた寡夫やもめであり、
彼の元から幾度も幸せの青い鳥が
離れていった過去の打ち明け話を聴いて
ヴァレリーの母性本能に火を付けた。


ユニコーンの夢を見たあの時と
まるで同じような蒼白い月が輝く夜

人生に傷ついた二人は
お互いを求め合う

ジェームズとヴァレリーは
唇から伝わる電流に
湧き上がるような鼓動を重ね合わせて
心も身体も一つとなる

黄金色をした蜂蜜が溢れ出し
二人の間を隔てていたものを
甘く溶かしていく

お互いに背負ってきた
今までの悲しみを癒し合うように
ワルツを踊る二人を
グレート・スモーキー・マウンテンの
シルクのような霧が包み込む__




ヴァレリーはジェームズの求婚を受け入れた。

結婚式は、村のバブテスト教会で執り行われ、
村中の人々が総出で祝福に駆けつけるほどで
アレクサンドラとソフィアも
幸せの歓声に包まれたのであった。

その後、
一家はナッシュビルに移り住む。

双子姉妹はエイプリルレイン家の令嬢として、
都会的に洗練されたマナーや教育を叩き込まれ
美しいデザインのドレスや
身に付ける煌びやかな装飾品も
ソフィストケートされた物へと変化していく。

ほどなく双子姉妹は
その透き通るような美貌と
洗練された立ち居振る舞いで
出会った者を魅了する。

誉れ高き "サザン・ベルSouthern belle" 《南部の美女》の
名声を得るのだった。

物語りは第四部へとつづく__



        《第三部 完》
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この作品はフィクションです。
作品に登場する人物は架空の人物であり、実在の人物とは何ら関係ありません。







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