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ロング・キャトル・ドライヴ  第一部 連載1/4 「邂逅」

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1893年 米国メリーランド州
ボルチモア

俺の名前は
フェルディナンド・ランスキー

俺が
ユーレク・ボリセヴィチと知り合ったのは
ある出来事がキッカケだった。

17歳になったばかりの頃
港湾で働いていたユーレクは
親父の店ランスキー商会に
奇妙な石を持ち込んできたからだ。

みずぼらしい身なりをした
ユーレクに対し、
親父は明らかに蔑んだ目で値踏みしていた。

(俺は親父のこういうところが
大嫌いだった。)

ユーレクが言うには
「船の積荷作業をしていると、
船底に拳くらいの石つぶてが
ゴロっと落ちていた__ 。」
のだそうだ。

親父が鑑定した内容は
「これはガーネットだな。
しかし原石だから価値は乏しい。」

ユーレクは黙って聴いていたが、
内心は甘く見られていることに
勘づいていた。

原石の一部から露出している
煌びやかな箇所がある。

この鑑定士の前では
原石は紅い色を発していた。

(俺が日中に見たときは深い碧緑に見えた。
だか、この鉱石はどうだ?
今は燃えるような紅色を発している。)

(これはきっとすごい代物に違いない__。)

「で?いくらで引き取ってくれるんだい?」
とユーレクが訊ねる。

親父は、一瞬考えこんだ素振りを見せ
「ま、1ポンド45ペンスってところだな。」
※1890年代当時で約7万円程度

(この若造なら飛びつくだろうよ。)
と、たかをくくっていた。

ユーレクは微笑んだかと思うと
(この宝石商はかなり低く見積もっている。)
と悟り、

「ありがとう!
こいつはそんなに価値があるんだな?」
と言って、鑑定に出した石を
ササッと懐にしまいこんだ。

親父はユーレクが意外にも
飛びついてこないところを見て、

「坊や__ いいのかい?
至って良心的な見積りと思うがね?」
と親父は駆け引きをする。

ユーレクは
「またの機会にするぜ。オッサン」
と言ってテーブルを後にする。

親父は一瞬、気色ばんだが、
平静を装い
「あゝ またな。」とだけ応えた。

親父はユーレクが店を出ていくのを見届けると
「ちぇっ、ちぇっ、ちぇっ
 あのガキめ!」
と舌打ちをして罵っている。

(親父が強欲ばりだからだよ。
それにしても、あのユーレクって奴
なかなかやるじゃないか!)
と俺は内心思っていた。

最初に出会った時のユーレクの印象は
物事に動じないナイスガイだなと
俺は彼に好感を持ったのだった。




俺は常に街のチンピラに狙われていた。

親父自身は商売が繁殖していることもあって、
地元では名も通り羽振りが良かった。
その息子である俺は格好の
金蔓に見えたに違いない。

ある日のこと、
ボルチモアのウォーターフロント近くで
数人の不良に囲まれてしまった。

「おとなしく金を出しな。」
リーダー格と思われる少年が
あらぬ因縁をつけてきた。

相手は4人いる。
まずは勝ち目が無さそうだ。
しかし、生来勝ち気な俺は
泣き寝入りすることを潔しとしなかった。

俺は驚いて尻もちをついたフリをする。
奴らは無様な俺の姿を見て嘲笑った。

「判ったよ。金を払うから勘弁してくれ。」

俺が懐から財布を取り出した瞬間
奴らは凝視する。

その刹那__
握りしめた道端の砂を奴らの顔面にめがけ
投げつけてやった。

「や、やりやがったな!」
奴らが怯んだ隙に俺は逃げ出す。

曲がりくねった路地や
塀をよじ登り、時には屋根づたいに
逃亡する。

奴らも追ってくる。
(しつこい野郎たちだ。)

やがて、逃げこんだ先の路地で
大きなリヤカーに荷物を積んで曳いている
少年がいた。

親父の店に来たユーレクだった__。

「事情は後で話すから、かくまってくれ!」
そういって俺はユーレクのリヤカーの
荷物の間に身を潜めた。

ユーレクは何も言わずに
身を潜めた俺の頭の上に
大きな空のバケツを被せてくれた。

追手が辿り着く。

「おい!さっきこの辺りに人が
通らなかったか?」
と訊ねる。

ユーレクは返事をしていないようだ。

「おい!お前?耳が聞こえないってのか?」と奴らのたれかが尋問する。

「. . . . . 。」
ユーレクは押し黙ったまゝのようだった。

「ちょっと、リヤカーの荷物を調べさせてもらうぜ。」
と声が聞こえた。

緊張がはしる__。
俺は目を瞑って祈ることしか出来なかった。


          《つづく》 
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