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ロング・キャトル・ドライヴ  第三部 連載1/4 「フラッシュ・バックする幻影」

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これまでのあらすじ

フェルディナンドとユーレクの
献身的な看病により、傷を負った老人は
回復していく。

孤独な老人の壮絶な過去の生い立ちを知り、
涙する二人の少年の純真無垢な心に触れ
老人自身も心に負っていた傷が
癒されていく心を交流を果たしたのだった。


第三部



日曜日は教会で祈りを捧げる__ 。

敬虔なカトリック教徒である
エリザベスにとっては
ごく当たり前の習慣である。

最近、入ってきたオリヴィアも
すんなりと人の輪に溶け込んでいた。

彼女は気配りが効いていて、
面倒見が良い姐御肌の雰囲気があった。

エリザベスもいつの間にか、
他愛のない話しや身の上話をする間柄に
なっていった。


「息子さんはお元気なの?」
とオリヴィアは訊ねる。

「ユーレクね?ええ、もちろんよ。」
エリザベスは答えた。

「今は少し離れて暮らしているけどね。」

しかし、多くは語れない。

ユーレクとランスキー氏の息子からは
旅に関することについては
固く口止めされているからだ。

「オリヴィア、ありがとうね。
私の息子は元気にしていると思うわ。」

「そう?なら良かったわ。」
オリヴィアも深くは聞き出そうとしない。
しかしながら、言葉の端々から巧みに
情報を引き出しながら、考えを巡らせる。

(ユーレク・ボリセヴィチ. . .
たしか宝石鑑定の名簿にあったわね。)


オリヴィアはこの界隈で消息を絶った
フェルディナンドの情報収集をするために
教会のコミュニティに潜入したのであった。

彼女の頭の中には、ある考えが
確信に変わりつゝあった。

1.フェルディナンドの消息を追うにあたり、
このウォーターフロント界隈から馬車で
旅立ったこと。

2.ユーレク・ボリセヴィチは
宝石鑑定に来店していたこと。

3.ユーレクもこの街から居なくなったこと。

(おそらく、フェルディナンドさんとユーレク
は何らか関係があるに違いないわ。)

オリヴィアは勘が鋭い女だった。

(ご主人様に報告しなければ. . . 。)
 



「ハックション!」
俺は鼻水が垂れるくらいの
大きなクシャミをした。

「アハハハ!
誰かに噂されているんじゃないのかい?」
とユーレクが茶化してきやがる。

「ごあいさつだな?きっと良い噂だよ!」
と俺はヒョイと肩をすくめてみせた。

晴れ渡る空の下、調子が良い時は軽口も弾む。

「よし!ユーレク?
この川を渡ればナッシュビルにつくぜ!」
とまだ見ぬ街並みに俺たちは
期待を寄せていた。

「フェルニー?どうやら問題がある
みたいだぜ?」
とユーレクが遠目に進路の先を窺っている。

ナッシュビルへ到着するには
ケンタッキーとテネシーの州境の南にある
カンバーランド川を渡らなければならない。

ユーレクが云ふには
どうやら"ウッドランド通り橋"の上で
渋滞が起きているようだった。

Woodland Street Bridge  TN, U.S.A


「様子を見に行ってみようぜ!」
俺たち二人は橋の欄干に馬を繋ぎ留め
渋滞の橋上を進んで見ると、橋の真ん中で
牛の群れが動かないでいた。

立ち往生している馬車の馭者ぎょしゃ
「F××k off ! 」と
汚い言葉で怒鳴り散らしていた。

「一体どうなちまったんですか?」
馭者に訊ねて見ると

「坊主!見てみなよ。どこかの牛追い業者が
干草ごと牛を置いていきやがった!」
と呆れ顔で教えてくれた。

橋の上は、干草が散乱しており
牛が脱糞したのか、至るところに
糞が踏みにじられて酷い有り様だった。

「こいつは酷いな?天下の往来が台無しだ。」
俺とユーレクは
立ち込める悪臭に耐えながら
向こう岸の橋のたもとまで
向かおうとする時だった。

すると、「おい⁉︎」と云って
ユーレクが一瞬立ち止まる。

「どうかしたのか?」
俺はユーレクの挙動が気になった。

ユーレクは茫然と橋の先を眺めて立ち尽くす。

「おい!ユーレク?大丈夫か?」
と声を掛けると

ユーレクはハッとした表情で
我にかえった。

そして
「フェルニー?お前には見えたか?」
と訊ねてくる。

「なんだってんだ?何も見えやしないけど。」
と橋の先に目を凝らせてみても
ありふれた街並みが遠くに見えるだけだった。

ユーレク曰く
「橋の向こうに白い人影が居た。」
と云ふのだ。

「小さな双子の女の子だった。
まるで記憶がフラッシュバックしたように
一瞬、時間が止まったみたいなんだ。」
とユーレクは説明してくれた。

「橋の向こう岸まで行ってみよう。」
俺たちは幻影の跡を追うように
橋を渡ることにした。

すると、そこには幌馬車が横転していた。

放馬したようで馬は居なかった。
倒れた幌馬車の中に馭者達が倒れている。

俺とユーレクは声を掛けた。
「おい!大丈夫か?」

だが返事がない。
どうやら気を失っているようだった。

幌馬車の中に閉じ込められている馭者達を
二人掛りでなんとか外に引きずりだした。

一人は痩せ型の中年男性で、
もう一人は背の高い青年だった。

「おーい!大丈夫か?」
と身体を揺すってみると、青年の方が
先に目を覚ました。

「イタタタ. . . あれ?君たちは?」
青年は事態を知るまで呆気に取られた様子で
キョトンとしていた。

「一体、何があった?」
と訊ねてみると

青年は
「橋を渡っている最中に、橋の真ん中に
白い服を着た二人の少女が居た。」
と云ふ。

「すると、突然に馬達が荒れ狂うように
駆け出し、手綱をしごいても言うことを聞かず
御しきれなくなってしまったのさ。」

ユーレクは青年の云ふ内容に耳を傾ける。

そして、確信したように
「君にも見えたんだね?
白い双子の女の子たちが。」
と訊き直していた。

俺には見えてなかったもの__

不思議な出来事の予兆がしてならなかった。





          《つづく》
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