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ロング・キャトル・ドライヴ  第一部 連載4/4 「合流する夢」

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これまでのあらすじ

アパラチア山脈の峠越えで
手負いの子熊に遭遇する。

愛情に飢えていたフェルニーは
自身の生まれ育った境遇と重ねる。

傷ついた子熊を介抱する二人の少年に

グリズリーの親子たちとの心の
交流を経験し、ピッツバーグの町を目指す。


俺たちは、
ペンシルベニア州にある
ピッツバーグの街に到着した。

街の中心部には大きな二つの河川が流れ、
夕暮れ時には黄昏に染まる河川に
三角州の街並みが浮かぶようで印象的だった。

ピッツバーグの街は独立戦争の後、
急速に発展した。

幾つもの工場が林立し、
モクモクと煙突から煙を吐いている。


時代はまさに変わろうとしていた。
ゴールドラッシュの熱狂は収まり
鉄鋼業へと技術革新が進もうとしていた。

ピッツバーグの街にはヨーロッパから
たくさんの入植者が新天地を求めて
夢を追って集まってきている。

ダウンタウンの街は活気付いていた。

停泊するための馬宿が整備されており、
レストランやバー、ダンスホールもあった。

俺は旅に出る前、
親父が溜め込んでいたヘソクリから
ソヴリン金貨を5枚無心していた。(現在の価値で約27万円)

俺は、親父のヘソクリ金貨を
"LIFE"と名付けていた。

「なぁ、ユーレク。ここで一つ
"LIFE"を使ってご馳走を食べないか?」
と俺は提案した。

ユーレクは
「長い旅だから、無駄遣いはよそうぜ?」と言った途端、
「キュー」とユーレクのお腹が鳴った。

「アハハ!お腹は正直だな。
俺に任せとけって。
街中以外では"LIFE"の使い途もないし、
小銭に崩しとこうぜ。」

街の中心部である
メキシコ戦争通りと云ふ名の
メインストリート沿いにある
馬宿に泊まることに決めた。

カウンターの呼び鈴を押すと、
奥からは、厳つい面構えの主人が
出てきて、
「今夜はここで泊まるのかい?」と怪訝そうな顔で訊ねる。

「いくらだい?」と訊いた。 

「一人、14ペンスだ。」と主人は云ふ。

俺はソブリン金貨を一つ取り出して
手渡すと、
宿の主人は目を丸くして姿勢を正し

「ピッツバーグの街へ、ようこそ!」

と、丁重に案内してくれた。

俺は内心
(まったく世の中、現金な奴ばかりだな。)
と思っていると、

宿の主人の態度の豹変ぶりを見て、心なしかユーレクはクスッと笑っていた。





俺たちは部屋に着いて旅塵を落とし、
新しい服に着替えてから、夕食を共にした。

大きなステーキと山盛りのフレンチフライを
頬張ることで、ようやくお腹も満たされた。

この馬宿にはバーがあり、俺もユーレクも
お酒を飲んだことがなかった。

好奇心と云ふものは際限がない__。
「どうだ?バーに行ってみないか?」とユーレクに訊くと、

ユーレクは
「そうだな。ものは試しに行ってみるか!」
と云って親指をグッと突き立てた。

俺たちはカウンターに座ると、
「何をお飲みになりますか?」
バーテンダーが訊いた。

俺は生まれて初めてビールを注文した。

冷えた銅製のジョッキに注がれて
泡立っている。

一口飲むと、経験したことのないビールは
とても苦かった。

「おぇぇぇっ! ぺっぺっ!
これが大人の味なのか?
不味すぎるぞ!」
と経験のない味に悶絶していた。

バーテンダーは笑いながら、
「その苦味が解るようになれば大人になった
証でございます。」

「お連れの方は何になさいますか?」

ユーレクは俺の様子を見て
「ミルク. . . 。」を注文した。

(ユーレクの裏切り者め!)
あまりのビールの不味さに
俺は後悔していた。


すると、そのやりとりを横目で観ていた一人の若者が声をかけてきた。
歳のころは20歳くらいだろうか。

「お前ら面白いな!俺の名前は、マイケル
よろしくな。」


マイケルは西部で生まれ育ちカウボーイを
目指したものの
パシフィック鉄道が開通し、カウボーイの
仕事そのものが無くなったため、
新たにこの界隈の工場で働き始めたと云ふ。

「これからは鋼の時代だぜ!」が
マイケルの口癖だった。

「ところで、お前さん達の夢は何だい?」とマイケルが訊ねる。

(俺自身の夢って、何だろう?)
俺は何も答えられなかった。

ユーレクはじっと考えこんでいたが、
「俺はフェルニーと一緒に
大切な探しものを見つけるために
西部のある街に行くんだ。」
とだけ言った。

マイケルはうなづいて
「お前たちは良いバディ同志だ。
この先の旅の幸運を祈るぜ。」


次の目的地は
セントルイスかナッシュビル
どちらを経由するか?

マイケルのアドバイスによると、
「装備を充実させる」には
セントルイスが良いと云ふ。

「だかな、人間は選択を迷う時もある。
そんな時はこうするんだ。」

マイケルは
コイントスをやってみせる。

「流れに任せることも必要なのさ。そういうものなんだよ。人生ってヤツは。」

俺たちは明日の出発に備えて
眠りに着くことにした






あくる朝、ユーレクは少し散歩に行こうかと
誘ってきた。

俺とユーレクは小高い丘へと登り、
ダウンタウンの街全体を見渡す。

「なかなか見晴らしが良いな。」
と云ってユーレクは懐から後生大事に
不思議な石を取り出して風景の光を受けて輝く
色変化をしげしげと眺めていた。

(あいつには確かな夢がある__ 。)

それに比べて俺はどうだ?
俺が旅に出たのは、ボルチモアでは
居場所がなかったからだ。

常に金持ちの息子として、嫉妬の対象として
町の不良からは目をつけられていたし、
我が家に居ても、およそ愛情からは程遠く

子供の時から振り返ってみると
たれにも存在を認めてもらえない
透明人間のようだった。

そんな現実から逃げ出したかったのだ。

ネガティブな理由に端を発し
ユーレクやマイケルのように
自主的な意志がある人間とは違って、
俺は常に漠然とした不安に苛まれていた。

(生まれ変わりたい. . . 。)

そんな物思いに耽っていると、
ユーレクが声を掛けてきた。

「なぁ?フェルニー。この二つの川は
俺とお前みたいだと思わないか。

それぞれ考えは違ってても良いんじゃないか?

だけど川はひとつに合流するんだよ。
そして生きるための水沫が生じるんだ。

つまりは、お前の夢ってのは、
俺の見る夢と同じなんだよな。
きっと__。」とユーレクは微笑んだ。

昨夜のマイケルの問いに答えられなかった俺に
ここに連れてきて言いたかった意味を
ユーレクなりに伝えたかったのだろう。

(ユーレク。お前って奴は. . . 。)
俺の中にあるモヤモヤしたものが
少し晴れたような気がした。

人生の合流地点に
俺たちは今、居るのかも知れない。



      第一部 《おわり》
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この作品はフィクションであり、登場する人物は実在の人物と何ら関係ありません。















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