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心が動いちゃった。

先週末は、ものすんごく久しぶりに体調を崩した。心当たりは何もない。さっきまでピンピン、ぴょんぴょんしてたのになぜ。2023年唯一の謎。家でぬくぬくと引きこもって、本を読んでました。年の瀬は人と会う予定が(私にしては)立て込んどるし、今のうちにたっぷり休んで、体調整えておこう。だって、いっぱい美味しいもの食べたいじゃない?健康って大事ね、ほんと。


最近の私は、良い本と良い言葉に恵まれている。と言っても、「良い」という表現は、ただ「好きだな」「いいな」「面白いな」「この感覚、分かるな」っていう感じで、私の心が動いたかどうかという、自分勝手な定義の仕方なんだけど。

前回の記事でも触れた通り、12月の初めにJessica Auの「Cold Enough For Snow」を読んだ。疎遠になっていた母娘が長年の空白を埋めるため、一緒に日本を旅するお話。娘の視点から淡々と語られる。娘自身の名前も、お母さんの名前も、何も出てこない。母親に対する苛立ちや、淋しさ、愛情、気遣い。あっちこっち、ゆらゆら、ふらふらと巡る娘の思考。ゆったりとした雰囲気が全体を漂いつつ、どこかにピリッとした緊張感がある。単館上映のロードムービーのような、なんとも形容しがたい不思議な作品でした。

絶望もないけど、希望もない。でも、それでいっか、たまには。読んでいた時の私の心境がヒリヒリしていたからか、じんわりと救われた。

Maybe it's good, I said, to stop sometimes and reflect upon the things that have happened, maybe thinking about sadness can actually end up making you happy.

"Cold Enough For Snow" Jessica Au

I wanted not to speak to anyone, only to see and hear, to feel lonely.

I had one vague, exhausted thought that perhaps it was all right not to understand all things, but simply to see and hold them.

日本語に対する感動と、英語に対する感動は違うなぁ、やっぱり。日本語の場合は、私が日本人だからこそ、言葉の意味や、輪郭がはっきりくっきり、スパッと脳内に直接入って来る。良い意味でも、悪い意味でも。反対に、英語の場合は、隙間にふわりと入り込んでくる。曖昧に、感覚的に捉える方が、私にはしっくり来てしまう。学校の授業で、和訳や英訳をする時は「自分の感覚でやらないこと!」って言われてたけど。言語に1個だけの答えなんてないし、ひとつひとつ完璧に訳すことで見えなくなるものだって、あるような気がする。

そういう考えが私の中にあるからか、翻訳された本があまり得意ではない。翻訳される途中で、作者が伝えようとしてくれた大切な感覚が消えてしまったのではないかと、気になってしまう。邦訳された海外文学を読んでも、英訳された日本文学を読んでも、私の中でどうもしっくり来ない。出来れば、いつも原書で作者の感覚、息遣いをまるごと味わいたい。と言ってもさ、今の私には日本語と英語を理解することしか出来ないので、全ての原書を読むなんて不可能やねん。悔しい。

でも、ジュンパ・ラヒリ 中嶋浩郎訳の「わたしのいるところ」を読んで、私の価値観はちょっぴり変わった。この翻訳は美しい。中嶋さん、ありがとう。日本語だけど、日本語じゃない。遠回しで、ちょっと硬い。そこが良い。心の隙間に素知らぬ顔でちょこんと居座る。作者が選んだ言葉の恩恵をそのまんま受け取れている感じ。しっくり来る。

ジュンパ・ラヒリがイタリア語に対して抱いてる気持ちと、私が英語に触れる時の感情はどこか似ている、上手く表現出来ないけど。って、1人で勝手に共感してしまっている。「わたしのいるところ」が美しいと思った理由の一つはこれかも。

孤独でいることがわたしの仕事になった。それは一つの規律であり、わたしは苦しみながらも完璧に実行しようとし、慣れているはずなのに落胆させられる。

わたしのいるところ ジュンパ・ラヒリ 中嶋浩郎訳

誰もこの季節の情け容赦ない日陰や自分の家族の影から逃れることはできない。それでも、わたしには優しく守ってくれる誰かの影がないのが寂しい。

わたしの片思いが終わり、存在しないわたしたちの恋愛関係を慕わしく感じなくなるまで、一歩一歩すべてが危険から遠ざかるのに必要なのだ。

まず、「わたしのいるところ」っていうタイトルがいいのよね。オール平仮名というセンス。翻訳家はもちろんのこと、本に関わる全ての人間に憧れと尊敬と嫉妬を抱きながら、私は生きていく。


最近の言葉との出会いはこんな感じかな。自分の意志とは関係なく、心が動いちゃったかどうか。一種の本能といいますか、勘といいますか、直感といいますか。大事にしたい。みんなも素敵な言葉に巡り合えますように。



今日のお昼は、母がお蕎麦を茹で、私が卵焼きを作る。
おっと、忘れちゃいけない。
Happy Birthday, Taylor Swift<3

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