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投資家レイ・ダリオおすすめの歴史エッセイ!『歴史の大局を見渡す ──人類の遺産の創造とその記録』

歴史家は往々にして研究が終りに差しかかると「自分の仕事は役に立っているのか?」と自問するのだそう。

変化の激しい現代において、歴史から未来を論じるのはリスキーだけど、現在の集積が過去になるわけで、

過去に目を向けることで現在を理解することができるのではないか。

著者であり思想家のウィル・デュラント&アリエル・デュラントはそう信じて、歴史を概観する13から成るエッセイをしたためた。

本書は、10巻の大著『The Story of Civilization』からエッセンスを抽出してまとめたもの。コンパクトで読みやすい一冊です。

目次
第1章 ためらい
第2章 歴史と地球
第3章 生物学と歴史
第4章 人種と歴史
第5章 人の性質と歴史
第6章 モラルと歴史
第7章 宗教と歴史
第8章 経済学と歴史
第9章 社会主義と歴史
第10章 政治と歴史
第11章 歴史と戦争
第12章 発展と衰退
第13章 進歩は本物か

これまで読んだ会計×世界史の切り口の本では、たとえばナポレオンの国家総動員法は、経済的観点でいえば僧兵を雇うよりもぐっとコストを下げて節約になっただとか興味深い話がいくつも出てきました。

銀行家とお金

ここでは経済にまつわる内容に少しふれていきたいと思います。第8章、さっそく著者が歴史から気づいたことにハッとします。

「人を管理できる人は、ものしか管理できない人を管理する。お金を管理できる人はすべてを管理する」

だから銀行家は、農業、工業、貿易の動向を探り、資金を流し、わたしたちのお金に2倍3倍の働きをさせ、融資、金利、事業をコントロールし、大きなリスクを冒して大きな儲けを得、経済ピラミッドの頂点に上り詰める。

著者は、こういいます。

フィレンツェのメディチ家からアウグスブルクのフッガー家、パリ、ロンドンのロスチャイルド家、ニューヨークのモルガン家に至るまで、銀行は国政に参与し、戦争のために資金を提供し、教皇に融通し、時おり革命の火つけ役となった。

価格変動について研究してきた銀行家は、価格とは上昇していくものであり、お金を退蔵するのは賢明なことではないと知っている。彼らの強力な力の秘密はこのあたりにあるのだろう。

お金に働かせる投資原則。本書はさすが、投資家レイ・ダリオのイチオシ本でもありまして、本質を突くような箴言がスッと飛び出してきます。

富の分配

自由主義がフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」的に勝利を収めたいまの世の中。機会が平等だとして、ひとりひとりの実務能力はそれぞれ。極めて高い能力を持つ少数が存在する以上、つまり富も少数に集中する。

集中の度合いは、経済的自由が認められているかで決まり、専制政治のもとでは集中はゆっくりと進行し、民主政・自由主義は集中を加速する。

格差問題の歴史研究者であるトマ・ピケティは2013年『21世紀の資本』で1%への富の集中を批判しました。

大局の視点で眺めれば、富の集中は避けようのないことで、革命などの暴力的、あるいは法律で定める平和的再分配によってときどき緩和されてきた。

つまり経済史とは、富の集中と強制的再分配という収縮・弛緩を繰り返す、ゆっくりとした心臓の鼓動だと。視座が高いっす。

いまに適したシステムは?

グローバル経済となった現代では、国は法人税と所得税をがっつり取りにくくなった。国の移動がたやすくなり、タックスヘイブンが象徴されるように他国へ流れてしまうから。だから政府は投資を推奨し、消費税といった税に頼らざるを得ない。

この数ヶ月前、億万長者の方たちが「お願いだからもっと課税して」と署名したというニュース記事が出たのも記憶に新しい。では経済システムはどうあるべきか。

著者はヘーゲルの弁証法を挙げます。テーゼを産業革命、アンチテーゼを資本主義と社会主義の対立とすると、ジンテーゼは資本主義と社会主義の統合ということになる。

社会主義は資本主義への恐れから自由を拡大し、資本主義への恐れから平等を目指している。東と西は相まみえる!って、じつはこの本が書かれたのはまだ冷戦時代。さて、これからをどう考えるか。

というわけで以上です!


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