国の栄枯盛衰パターンが見える!『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』(大村 大次郎)
会計が世界を動かした!その典型的な例といえば、フランス革命のきっかけをつくったとされるネッケルの「国王への財政報告書」。以前、紹介した『会計が動かす世界の歴史』や『会計の世界史』ではど真ん中のお話です。
本書には「会計」も含むけれど、もうちょっと幅広い。世界史の中でお金、富、財がどう蓄積され、どう流れていったか。歴史を動かすのは政治、戦争。でも本質はお金と経済なのではないかというテーマ。
古代エジプトから現代のリーマンショックまで5000年の歴史をザーッと拾っていきます。たしかにお金や経済が「引き金」となっている事象を学べるし、何より楽しくて読みやすい。KADOKAWAの本にはそれが徹底されているような印象も受けます。
目次からワクワクしますのでご紹介。
第1章 古代エジプト・古代ローマは“脱税”で滅んだ
第2章 ユダヤと中国――太古から“金融”に強い人々
第3章 モンゴルとイスラムが「お金の流れ」を変えた!
第4章 そして世界は、スペインとポルトガルのものになった
第5章 海賊と奴隷貿易で“財”をなしたエリザベス女王
第6章 無敵のナポレオンは“金融戦争”で敗れた
第7章 「イギリス紳士」の「悪徳商売」
第8章 世界経済を動かした「ロスチャイルド家」とは?
第9章 明治日本の“奇跡の経済成長”を追う!
第10章 「世界経済の勢力図」を変えた第一次世界大戦 第
11章 第二次世界大戦の“収支決算”
第12章 ソ連崩壊、リーマンショック――混迷する世界経済
繁栄する国の特徴
古代エジプトや古代ローマなどを見て明らかなのは国の繁栄は徴税と生活の安定に依るところが大きい。
で、それを支える体制とは強い集権国家なんですね。国民は適正の税を国に納め、王が官僚・役人へ適切な給料を支払う。
栄枯盛衰ごとく、繁栄した国が荒む原因は腐敗政治。徴税役人が過剰な税を取り、私腹を肥やす。王は埋め合わせのためにさらなる重税をかけて、民が疲弊する。エジプト、ローマともに共通していてやっぱりお金が原因。
官僚制度が巨大化するほど、腐敗の危険性が高まるっていうのは共産主義のソ連にも当てはまります。
ソ連は究極の中央集権国家となりましたが、官僚の権力肥大化を避けられなかった。国民の給与体系も一律のイメージがあるけれど、数字をみれば実体は階層社会。
アメリカと新秩序
後半の第11章第二次世界大戦パートが骨太でオススメです。アメリカとの関係性において逆鱗にふれた二つの秩序を備忘録のために流れだけふれておきます。
ドイツのポーランド侵攻によって始まった第二次世界大戦。当時のアメリカは孤立主義で欧州戦争へは不参加の方針だった。
状況が一変したのはドイツが発表した欧州新経済秩序。かんたんにいうと、ドイツを基軸としたいまのEUのような計画でした。
金本位制から離れたいまの管理通貨制度を打ち立てる。これがアメリカにとって都合が悪かった。いまや当たり前の制度ですが当時は金本位制真っ只中、アメリカは世界の金の4割を持っていた。
新秩序を許せばアメリカにとっては金の持ち腐れ、産業界へのダメージも目に見えていました。それが戦争参加へ駆り立てたという考え方です。
事実、その発表の2ヶ月後にアメリカはイギリスへの武器供与の協定を結びます。なお、日本も同様で近衛内閣が発表した東亜新秩序がアメリカの逆鱗にふれたと。
繁栄モデルは過去の遺産
金本位制→ブレトン・ウッズ体制→ニクソンショック→ソ連崩壊→新自由主義の勝利→リーマンショック。
グローバル社会の台頭でタックスヘイブン的な逃げ道ができることで国は法人税や所得税をあまりかけられず、投資を推奨し、全体への課税(消費税)を引き上げる。
著者は現代の富の集中などの状態から、いまはフランス革命前のフランスに似ていると指摘します。「最後にこんな指摘をしたくないのだけど」と。
では強い中央集権国家ふたたび!なのか?かつてのロールモデルとされる国の在り方にそもそも寄せられなくなっている構造も見えます。
だとすると、新たな理想を模索していくしかないように思うのでした。話題の『人新世の「資本論」』でも読もうかしら。
というわけで以上です!
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