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会計500年史のダイナミズムを感じる!『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』(田中靖浩)

先日ふれた『会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか』と本書は、会計×世界史という大きな流れに関しては同じです。

その点でも読みやすかった。でも同じテーマでも掘り下げる深さは異なるし、光を当てる場所もそれぞれ。歴史は編む人の色が出るからおもしろいですね。

本書は帯で「会計エンターテインメント」と銘打っており、アート・芸術に関わるヒト・モノがところどころ登場するのが特徴です。

たとえばイタリア時代ではルカ・パチョーリとダヴィンチのエピソード、モチーフとしてのシェイクスピア『ヴェニスの商人』。

オランダ黄金時代では当時の時代性と重ねながらレンブラントの浮き沈みの多い人生が語られます。

会計からファイナンスへ

本書でもっとも興味深かったのは、イタリア・オランダ時代の「自分のための帳簿」から、イギリス・アメリカ・グローバル時代となり「決算書を読む会計」「未来を描くファイナンス」へとシフトしていく流れです。

20世紀の初頭からジョー・ケネディはインサイダー取引で財を成す。やがてルーズベストの大統領選への資金援助によって初代証券取引委員会(SEC)委員長に就任。いかがわしさが渦巻く株式取引を引き締める。

さらに数字の強いデュポンのシステムによって投資効率へ光が当たり、ROIが生まれて、経営分析が進んでいく。マッキンゼーような会社も出てくる。

このあたりのエピソードひとつひとつがおもしろい。で、いずれにしても財務会計では過去の稼ぐ力しか見られないし、企業のブランドやノウハウは数値化できない。

そこでM&A・ファンドの台頭によってこれから稼ぐ力が重要視されるようになった。じつはファイナンスってここ数十年の話なんだなあ。

本書では象徴的な出来事として、ビートルズの楽曲権利の話を取り上げます。ここにもエンターテインメント性が垣間見える。

ビートルズとマイケル・ジャクソン

ポール・マッカトニーは、若手時代の失敗で自分たちの権利を手放してしまっていた。

ようやくチャンスが巡ってきたとき、オノ・ヨーコに共同購入を掛け合うも金額が折り合わず破談。

なんと気がつけばマイケル・ジャクソンがもっと高値を付けて権利を購入しました。

あくまで事例として当てはめるわけですが、オノ・ヨーコは費用=コストとしてPL脳的に考え、マイケル・ジャクソンはビートルズの曲が将来、いくら稼ぐかというファイナンス思考でとらえていた。

いや、たしかにビートルズの曲の将来価値は、財務諸表には現れないわけです。

「情報」が価値を持つことによって世界が変わっていく。会計500年史のダイナミズムを感じることのできる一冊でした。

一方で四半期決算やファンド重視の企業の在り方はこのままでよいのか?未来はどんな価値が重要視され、どんなモノサシが生まれるのでしょうか。

というわけで以上です!


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