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晩期マルクスの思想にヒントがあった!『人新世の「資本論」』(斎藤幸平)

人新世それは、人類が地球を破壊しつくす時代。そんな現代の唯一の解決策は、晩期マルクスの思想に隠れていた「脱成長コミュニズム」である!本書の主張です。

反資本主義、マルクス回帰。唱える前提だとか理由も多種多用あるのだろうけれど、著者のそれは明確です。

人新世における気候変動がこのまま続くと、地球環境は破壊する。その気候危機の原因(二酸化炭素の排出量)とは、産業革命以降に本格化した資本主義である。

著者からすればフリードマンのグリーン・ニューディールやSDGsは、それ自体は必要だけど、十分でないと指摘します。

その一つは惨事便乗型資本主義といった言葉があるように、資本主義自体は反動的な動きも包摂して飲み込んでしまうから。バンクシーの罠にも通ずるものを感じます。

むやみに緊縮するのも生活レベルがただ下がるだけ。ゆるやかな経済成長、緑の経済成長よりも、もっとラディカルであるべき。そこで挙がるキーワードが「脱成長」です。

マルクス研究にも取り組んでいる著者は、マルクスの一般イメージとおさらいしながら、

生産力至上主義→エコ社会主義→脱成長コミュニズム

これら思想の変遷を丁寧に解説しています(けっこう紙面を割いています)。では、脱成長コミュニズムって何なのか。

脱成長コミュニズム

まず著者による以下の四象限における位置づけから理解したい。

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引用:ハーバー・ビジネス・オンライン記事

非常事態時では優れたリーダーシップを人々は求めるけれど、トップダウン型、権力型、中央集権のような「権力」の軸ではない。

で、権力は不要とした上で、機会の「平等」を目指すのが「脱成長コミュニズム」。もちろん自由を犠牲にはしない。

その自由は即物的で刹那的な消費そのものを指すのではなく、物質欲求からの解放の自由も含まれる。なんとなく見えてきた。

一筋縄にいかないと思うけれどワーカーズ・コープだとかデトロイトの事例などが紹介されるけれど、大きく括ればコモンズの復権に可能性があるという示唆だと思います。

共同体=コモンズとするならば、そこから離れて縁ではなくお金で関係をつくるのが資本主義。だからこそ、生産によってコミュニティをつくり、使用価値のみで経済を回す。贈与に近いのかもしれません。

著者が掲げる柱は5つあります。

①使用価値経済への転換
②労働時間の短縮
③画一的な分業の廃止
④生産過程の民主化
⑤エッセンシャル・ワークの重視

もしかしたらそれは『シン・ニホン』の安宅和人氏の風の谷プロジェクトクルミドコーヒーの影山知明氏の無料クルミの負い目共感資本社会や新井さんの地域通貨にヒントがあるかもしれない。

いや、宗教的な観点からも逃げられなくてたとえば『ハイパーハードボイルドグルメリポート』のシベリアン・イエスの隔離された街では、自給自足の生活を目指しているからにして角度を変えれば立派なコモンズをつくっている。

そういえばスープストックの遠山さんは『新種のimmigrations』という国に見立てたデジタル上の新しいコミュニティを立ち上げていました。こういう萌芽が見られるわけでして、まずは片足だけ参加してみてもいいかなと思うのでした。

というわけで以上です!


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