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資本主義の罠が見え隠れする!『バンクシー アート・テロリスト』(毛利嘉孝)

バンクシーのシュレッダー騒動。『美意識の値段』の指摘では、少なくともサザビーズは知っているはずとのことで興味を持ちました。

この騒動や小池知事が発端となった東京都のネズミの絵の発見で、日本でも一気に市民権を得たバンクシー。

著者は00年代初期の頃からバンクシーに関する本の翻訳を手がけ、日本の紹介者の一人。

故郷とされるイギリス・ブリストルからバンクシーのキャリアをおさらいし、象徴的なエピソードとあわせて紹介。バンクシーのガイドブックにあたる一冊です。

パンク資本主義とバンクシー

映像の表情や反応を見る限り、会場の人々はまったく予想しなかったといえます。ただ、本書の著者もサザビーズは知っていたはずだと推測します。

それではサザビーズとバンクシー側で事前の打ち合わせがあったのか?というと、それは考えにくい。そもそもバンクシー側にはメリットよりも危険性の方が高いはず。

一ついえるのは「作品をシュレッダーにかける行為によって、かえって作品の価値が上がるだろう」サザビーズとバンクシー側ともに確信があったのではないか。つまり利害関係は一致していた。

ここに、アート・マーケット批判を根底に置いて過激でより皮肉なことをしても、市場のほうが回収してしまうという一種の諦念が見え隠れします。

現在の資本主義は、資本主義や社会から逸脱しているように見えるあらゆる過激なもの―政治的なものであれ道徳的なものであれ―を素早く資本主義の中に回収し、商品化のプロセスに組み込んでいきます。

ジャーナリストで音楽批評化でもあるマット・メイソンが、『海賊のジレンマ』の中で「パンク資本主義」と呼んだこの新しい資本主義が現在の資本主義の主要な様式になっています。

バンクシー自身、資本主義の気に入っているところは敵の場所につくれることとインタビューで言葉を残しているように、システムそのものを完全否定しているわけではありません。

対象がわかりやすい記号的な皮肉になりすぎている批判もあるバンクシー。事実、グラフィックが描かれた壁が何者かに切り取られ転売され、やがてブルジョア層向けの美術館に展示されるようなケースもある。

まさに資本主義の真ん中に引っ張られているバンクシーの今後の展開には、やっぱり関心があります。

チーム・バンクシー

メディアもバンクシーの匿名性に乗っかり夢を見ていたい気持ちがあるのだろうし、生活者もどこかロマンを感じずにはいられません。

しかし、本を読むとディズマランド、ニューヨークのレジデンシーなど大掛かりで多くの人数を必要とするプロジェクトばかり。

なぜばれずにここまで発展できているのか?

よくアニメや漫画の設定にある正体不明の「あの方」的な存在を思い浮かべました。トップの顔を誰も知らないけれど組織としての統率がじつによく取れている。

そもそもバンクシーを支えたい人はたくさんいて、その道のスターたちがPRなども手がけています。

ダニー・ボイルによるパレスチナでの演劇プロジェクトのエピソードを読むと、前日に予告なしにバンクシーが現れて自分でいくつか絵をこしらえています。

もちろん指示を出すのだけど、ストリート精神で作品自体は自分でやっている。だから信頼も厚いのだろうと思うのでした。

「バンクシー展」は横浜開催が10/4まで、来週からは大阪で開催とのこと。

というわけで以上です!


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