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『武器としての「資本論」』(白井聡)を読んで

信頼できる知人の口コミの力をあらためて思い知りました。とくに本に関しては会話の流れでオススメがあれば基本は買うようにしていて、ここでまた大当たりが!

このまえ読んだ『現代経済学の直観的方法 』の「資本主義の本質」という点で関連性がありました。本を読む順番はこだわっていないけれど、縁ってあります。少なくとも長沼伸一郎さんの本がお好きな人はお楽しみいただける本かと思います。

さて本書のすばらしさから。マルクスの『資本論』の読み方なのだけど、当時の社会情勢だとか人物像だとか背景はなるべく削ぎ落としています。あくまで『資本論』の筋にフォーカスを当てている。

で、「現代にも通ずる共通性」が一貫しているので頭に入ってきやすいし、身近なテーマや事例も交えていて、いわゆるフツーにおもしろい。

まず『資本論』そのものが持つ二面性について、後半に宇野弘蔵のとらえ方を紹介してるのがわかりやすくかったので引用します。

①科学的な資本主義分析(マルクス経済学)
②革命のアジテーション(史的唯物論)

マルクスの『資本論』ってアジテーションの要素が強いのかと思っていました。本書の文脈は①であって、資本主義の構造・本質をとらえます。

そもそもマルクスは革命に失敗し、いろんな政府からにらまれてイギリスしか住めなくなってしまった。そこで研究に打ち込んでしたためたのが『資本論』ということです。

再読するし整理途中なのですがわかりやすく、ハッとしたところをかんたんにふれて終えようと思います。

千原ジュニアの養育費

千原ジュニアさんは20歳になったとき、親から1600万円の請求書が届き、「これまで養育費としてかかったお金を支払うように」と手紙がきたといいます。

よしあしは置いておいて、違和感をおぼえる人が世の中存在するのは感覚として理解できます。それはなぜか。

これまで贈与的な点でみていたのですが、マルクス的にいえばどこから資本主義が始まったかという話に直結します。それはずばり「商品交換」であって、商品は共同体の内部では発生しません。

で、さらにいえば商品交換はそれのみで完結するため売買の間には最終的になんの関係も残りません。

だから商品経済はしがらみがなくて(=無縁)自由ですし、家族という一つの共同体のなかで子育て(養育)をあとから商品交換的解釈が介在することに、人によってはモヤモヤする。

その意味で、著者の言葉を借りれば資本主義化の度合いが高まっていくことは、共同体世界の領域が狭まってゆくことほかなりません。

なんでも商品化する資本主義社会からみれば、教育の問題もデザインチャイルド的な倫理的問題も一つの線でつながっている。読むとふんわり浮かび上がります。

ホリエモンの指摘

かつてホリエモンが時間のかかる(のれん分けまで15年ほど)寿司職人の制度・風習について異を唱えました。著者いわく、この仕組は職人の価値の低落を防ぐものです。

限界費用ゼロ社会だとかコモディティ化とかそういったものがつきつめると資本主義の余剰価値の話になり、もっとミクロに寄れば労働価値と生産性という矛盾が見えてくる。ハッとしました。

たしかにそう考えると寿司職人業界しかり「生産の統制」は理にかなっているし、新自由主義的なグローバル社会は言うまでもなく、ここにメスを入れてきています。

ケインズは労働時間が減ると予測していたけれどハズレています。それを受けて山口周さんはクソ仕事が増えているといい、デイビッド・アトキンソンは生産性の向上を訴えている。

イノベーションが起きて、AIが増えて生産性があがって「本当に暇になるのか?」ここは注意した方がいい。

もちとん本来は労働とあわせて生活コストもぐっと下がるといいし、暇をどうつかうかという議論がもっと活発になった方がいいのもわかる。

何度も読みたくなる本で間違いありません。心よりおすすめします。

というわけで以上です!


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