母の背中
先日、久しぶりに帰省した。
毎回帰るまでは、それなりに楽しみなのだが、
一目両親を見ると、どうも涙が出て仕方ないことが多くなった。
ひたひたとやって来る「老い」が、高齢の両親を更にがっちりと囲い込む。
できないことが増えてきた両親を、帰省するたびに否が応でも認めなければならないことが、つらい。
とりわけ母は、10年以上前に患った病のために、右手の自由が利かない。でも、時には自分自身に苛立ちながらも、左手で何でもやってしまう。我が母ながら、あっぱれだ。
そんな中で、母の入浴介助をした。
「え?こんなに小さかったっけ?」
浴室で驚くほど小さくなってしまった背中を見て、またもや密かに涙ぐむ。
昔、私をおんぶしてくれた、あたたかくて柔らかかった背中。
母の背中に自分の指で、名前を書いて遊んだな。
家族のために、台所で料理をする凛とした後ろ姿。
小学生の私のスカートを縫うのに足踏みミシンをうまく操る様子は、けらけらと笑っているかのような背中だった。
その時々で、いろいろな表情を見せた母の背中。
その一瞬一瞬で、私にメッセージを送り続けていたのだった。
「今、お母さん、笑ってる。」
「あれ?なんかあったんかな?ちょっと背中が震えてる感じ」
一方で私も、母の背中を見たら、手に取るように母の気持ちが読みとれた。
でも・・・
すでに母の背中は、昔のとは全く違うものとなってしまった。
そこには、ただ痩せて小さくなった背中があるだけだ。
そっと背中に手を置く。
ゆるやかな温かさが伝わってきた。
「ああ、これや。」
あの頃の優しさと、ぬくもりは変わっていなかった。
母の背中は、あの頃のままだったのだ。見た目は大きく変わっていても、その奥にある優しさと愛情は、そのまま。
「お母さん、同じやな。あの頃と、変わってないな。」
浴室で母の背中に手を置きながら、安心と嬉しさで、また涙ぐんでしまった私は、母に悟られないように、そっとシャワーの栓をひねってお湯を出した。
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