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拡大する害獣被害とワイン

一見、ワインと関係なさそうで密接に関係ある「狩猟免許」
害獣による被害は年々拡大する一方。

ブドウを脅かす各病原菌、対抗する各薬剤等、それらも大事だが、
ワインを学ぶ者として「害獣」も識っておくべき。
というより、WSET Diploma(ワインの世界的な上級試験)には普通に出てくる。
 
日本と海外ではまた違うのだが。
どれが何という害獣で、どのような被害をもたらすのか。
その人がどこまで踏み込んでワインを学んでいるか、というひとつの指標にはなる。

様々な視野を持って、ワインと関係なさそうなことまで学んだほうがむしろワインをより楽しむことができ、ワインへの姿勢も変わる。

まだまだ私も勉強すべきことは多いし、
「ワイン」で括る範囲は広い。

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狩猟は免許制度。
免許を持っていない人が勝手に狩猟を行うことは認められていない。

どんな害獣が出るかは地域によって全く異なる。
結構細かく、市の中でも町単位、畑単位で異なる。

私の圃場は「シカ」の被害が凄まじい。
ハクビシンはいないしイノシシもいないが、とにかく「シカ」が多い。

何度、シカにブチブチとキレたことか。

深夜、圃場に行くとどこから侵入したのかシカが10頭以上。
彼らも学ぶので、柵などほぼ意味がない。
そして人間は狩猟免許を持っていないと泣き寝入りするしかない。

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深夜にドメーヌミカヅキのリンゴ畑に侵入するシカ

畑を犯す害獣は、「ハクビシン」「イノシシ」「シカ」「ウサギ」「カラス」「サル」などなど。
「ハクビシン」「カラス」「サル」は、成った実を食べにくる。
「イノシシ」は、根を掘る。
「ウサギ」は、樹の幹をかじる。
「シカ」は、新葉が大好き。

ハクビシンが多い地域ではブドウに傘かけをする手間がかかる。
イノシシが多い地域では苗木が掘り返されてしまう。
シカは新葉を食べるので、葉を食べられては芽吹いてを繰り返し、樹体がエネルギーを使い果たして枯れてしまう。

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新葉を食べられて枝だけ残ったリンゴの木
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新葉を食べられて枝だけ残ったブドウの木

シカに対して様々な策を試したが、ほとんど効果なし。

臭いで撃退しようとしても、直後は効果があるが、雨が降ると臭いはすぐ流れる。
ネットを圃場の周りに囲っても、斜度があるので1.5m程度では飛び越えてくる。
新植した木そのものをネットで囲っても、今度はネットが草刈りの邪魔になり木周辺の草刈りが難しい。

新葉だけを食べていくが、たまに勢い余って苗木を折られたりもする。

本当に頭に血が昇る。

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シカに折られたリンゴの木
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木にネットをして対策

彼らも生きるためにしょうがないのだが、いくら自然との共生と言ったって、無理がある。
生きるか死ぬかの世界で、人間のエゴでしかないのだが、彼らは「害獣」扱いになってしまう。

ただ、私は猟師として在りたいわけではなく、そうした「害獣」たちを駆除しないと、本当に地域で誰も農業をやる人が居なくなってしまい、自らの事業にも甚大な被害が出るので、猟師免許を取得することにした。

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ワイン生産者として、害獣対策はカレーを作る際のカレーのルーぐらい必須。
というのも、ワイン生産者はワインを生産するだけの役割ではないから。
地域とともに在るのがワイナリー。
それはワインがテロワールを背負っていて、地域なしにはワインを語れないから。
地域とは関係ありません、というワイナリーはワイナリーでない。


深刻な害獣被害に対して、今のところは、ほぼ自分で農産物を守らなければいけない。
自治体が先陣きって何をするでもない。
全国的にそういう自治体が多いだろう。

害獣の被害が益々深刻になっていくのは目に見えているのに、害獣を駆除する人がいなければ、誰も農業をやる人がいなくなってしまう。
農業をやる人がいなければ耕作放棄地は増え、景観も損なわれ、街の産物も無くなり、街が廃れてしまう。
産業が廃れることは街が廃れることに直結する。

巡り巡って自治体が弱るのに、基本的に自治体から先陣きって何かをするということはしない。
結局、自治体そのものにも降りかかる事態なのに、全国各地域あまりにも当事者意識がなさすぎるとは感じる。

今現在、猟友会の構成メンバーは70〜80代がほとんど。
今はギリギリなんとか保てているかもしれないが、10年後どうなるか?
一人で狩猟可能な数は限られている。
一人の狩猟範囲が広がったから狩猟数も増える、という話にはならない。

単純に、新たな狩猟者を増やさないと、捕獲数も増えない。
つまり、特に対策を打たない今のままでは、本当に農業をやる人が誰もいなくなる。
都市部ではあまり関係ないかもしれないが、農業が盛んな地域であれば今後も益々被害は深刻になる。

専業では成り立ちにくい仕事なので、副業ででもやる人をサポートできる仕組みを作るべきなのだ。
副業で気軽にやるには免許を取るのにも維持するのにもお金がかかりすぎる。
高い技術も要り、地域のことをよく知っていなければいけないので、もう誰もやる人がいないとなった時には手遅れ。
声高に警鐘を鳴らしたい。

仕留めた害獣は、小型獣だと数千円、大型獣だと1万〜2万円で引き取ってもらえる。
ある一定以上獲れば、秋冬のいい小遣い稼ぎにはなるだろう。
ただ、やはり産業として昇華させたい。むしろ産業になるくらい獲らないと害獣被害は減らない。

ジビエにして流通させるには、加工処理施設が必要。そして検疫がとても厳しい。
自家消費であれば勝手に捌いて勝手に食べれば良いが、何十頭も獲ると量的に家で保管もできなくなってくるので、あとは捨てるしか無くなってくる。

加工処理施設問題の解消のために、実証実験が始まっている移動式の加工処理施設「ジビエカー」などはとてもいいアイデア。
投資も少なく済み、山奥から処理施設まで搬入するのにかかる手間もかからなくなる。

自治体による電柵や免許取得の補助も薄すぎて、結局ほぼ実費に近いし、
実証実験でもいいので、こうしたシステムを導入していくことは自治体として重要、と思う。

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そして、今回私が取得したのは「わな猟」。
最も簡単で、お金もかからないほう。わなの受験料と登録料だけで6万円ぐらいだが、交通費や宿泊代も含めれば約8万円かかる。さらに罠を本格的に設置しようとすると罠10個でプラス5万円はかかる。
銃の免許になると、さらにお金がかかるし、銃の購入も必要になるので、20〜30万円はかかる。
ちなみに領収証は出ない。

さらに、免許の試験は年に各県ごとに3回しか行われない。
試験は人気で、枠がすぐ埋まってしまう。
今回私も、申し込み日の翌日に申請書を届けに行ったが、申し込み開始日には8割方もう埋まっていたようで、滑り込みセーフだった。

個人的にはシカを駆除できればそれで良いのだが、試験のために他の狩猟動物の種類や足跡、銃の扱い方、法律なども学ぶ。

試験自体は1週間ほど前の事前の1日講習と、そこで配布される模擬試験を済ましておけばほぼ合格できる。
割と読み応えある冊子から、優しく、どこがポイントで試験に出やすいか教えてくれる。

後日、知識試験、適正試験、技能試験を1日かけて行う。
講習を受けていればほぼ落ちることはないが、少しは勉強していないと初見では落ちる内容。

試験会場では、おじいちゃんたちが多いが、若い女の子も目につく。
狩猟を趣味で行う女性たちも増えてきていると聞く。

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翌日には合格発表が県のHPに掲載され、無事合格。
晴れてシカを”駆除”する免許が取れた。
今まで溜まりに溜まった怨念は尋常じゃない。

ともかく、この狩猟免許を取ることが、地域の農業を守ること、産業を守り新たに創ることに巡り巡って確実に繋がっていく。

そしてワイン造りとは、8割方ブドウ作りのことなので、それはつまり害獣とは切っても切れない関係なのだ。

全てを自分で補うのは無理があるが、いずれは銃の免許も取得しなければいけないかなと思う。
もっと狩猟者数が増えてくれれば良いのだが、
銃まではまだ負担が大きすぎる。

獲ったシカをみんなで食べられる日を楽しみにしたいと思う。
よりよい農業の環境が整うことを願って。


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