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【エッセイ】地獄から天国
先日、私は詐欺に遭った。ネット通販詐欺だ。人生で初めてのことである。さすがに根明の私でも落ち込み、詐欺に遭った当日の夜はぐしゃぐしゃっとした気持ちだった。
何よりも、彼に申し訳なかった。購入手続きフォームに今の家の住所を入力した。住所には「〇〇〇〇(彼の名前)方」と入れたのだ。電話番号は私のものだが、彼の情報までも漏れてしまった。本当に申し訳ない。
この事実を彼に話した。
すると、彼は落ち着いて「しょうがないよね」と言った。
全く動揺していない彼に驚いた。人によっては怒るだろう。けれど彼は至って平然で、私を責めもしない。なんていい男なんだと、密かに惚れ直した。
とはいえ、ぐしゃぐしゃした気持ちに変わりはない。心は晴れない。曇り空だ。こういうときは憂さを晴らそうとただただ話したくなる。多分、この日の私はいつもに増して話していたと思う。でも、何を話したのかあまり覚えていない。どうでもいいことを話して発散しないとやってられなかった。
支離滅裂だが、なぜか頭に結婚の2文字がよぎった。
彼と付き合って3年目、私は38歳。同棲し、子どものような愛猫もいる。
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結婚しているも同然の生活で、お互いバツイチということもあり、結婚に対する焦りはない。
けれど、やはり結婚はしたい。事実婚でも良いっちゃ良いが、私はやっぱり正式にこの人の「妻」になりたい。40歳までには入籍してと彼に伝えている。そのとき「明日でもいいよ」と言ってくれた彼を最高にかっこいいと思ったのは言うまでもない。
話がズレたが、既に私の希望を彼は知っている。だけど、なんとなくまた言いたくなった。ぐしゃぐしゃして話しまくってるときは、その勢いに乗って真面目な話をしたくなる。
「来年か再来年、入籍してね」
いきなし何を言うんだという顔で私を見る彼。まぁそりゃそうだよな。いきなり話変わりすぎだよな。
「それ、自分から言う? それは俺が言うもんでしょ」
おおお?
それはつまり、
「プロポーズしてくれるってこと?」
「そのときになったらそりゃするよ」
意外だった。
この人は決してロマンチストではない。ましてや、こういう類のことは疎い……と思っていたが、そうではないらしい。彼なりに私のことを喜ばせようとしているのだ。
プロポーズをするとプロポーズしてくれたおかげで、ぐしゃぐしゃだった私の心は一気に柔らかくなった。地獄から天国に突き上がる。そんな感覚だった。
こんなこともあるんだなと、少し心がほっこりした。
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