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[コロナからこころの健康を守る]4. てげてげのススメ

30歳Bさんのケース

私、病気の時は
「世の中の悪いことは全て自分がちゃんとしていないせい」
と本気で思ってました。
「今日雨が降ったのも、電車が遅延したのも、今新型コロナが流行っているのも、自分がきちんとしていたら起こらなかったかもしれない、やっぱり私のせいだ」と、思っていました。
今考えたら、可笑しい話ですよね…。
そもそも「ちゃんとしてない」って、誰と比べてでしょう(笑)。
それに100%ちゃんとしている人なんてあり得ないのにね…笑。
今はそれがわかります。
中途半端で、ちょっと意地悪で、感情的で…。
今はそんな完璧でない自分を受け入れられてます。
1日1回、自分を褒めて感謝する時間を持てています。

 これは私がクリニックで知り合ったBさんが、最後のカウンセリングで仰った言葉です。
 Bさんは、透明感あふれる美しさと優しいイメージが印象的な、とても素敵な女性でした。女性の私から見ても魅力的なのに、初回のカウンセリングでお会いした時は、この世の不幸を全て背負っているような、沈んだ表情をされていました。自信がなさそうで、話すとすぐに涙が溢れました。
 それもそのはず、当時彼女は「気分変調性障害」という、こころの病気と闘っていたからです。この病気は、軽めのうつが長く続く気分障害の1つで、自分を責める気持ち(自責感)が特徴的な、とてもしんどい病気です。病気のせいで、自分を大事にするのとは対極の行動ばかりしていたのでした。
 この病気の原因は様々ですが、Bさんの場合、優秀であることを強いる養育環境が、彼女に良い子を演じさせ、体調を崩し心が折れた事をも「そんな弱い自分はダメだ」と許してあげられなかったことでしょう。客観的には充分優秀で努力家であるにも関わらず、誰にも起こりうる苦手分野の挫折が許せず、長く苦しんできたのでした。
 幸いなことに、賢く努力家のBさんは周りの力を借りながら、少しずつ病を乗り越え、今では元気な毎日を送られています。

Bさんのケースが教えてくれること

 Bさんだけでなく私たちは多かれ少なかれ、厳しい環境で生活しています。生まれた状況(国、性別、時代)、養育環境(地域や家庭)、様々な人間関係、経済的事情などなど…。
 それぞれ状況の違いはありますが、どの境遇でも「何もかも平穏無事」という人はいないでしょう。そしてここへきて新型コロナの世界的流行とそれによる余波は、多くの人たちに精神的な「疲れ」をもたらしています。
そんなタフな状況下で、私たちがこころの健康を保つために必要なこと。
 Bさんのケースは、私たちに2つのことを教えてくれます。

 1.どんなタフでもコロナ疲れは起こりうる

 うつ病など「気分障害」と言われる心の病気は、いわゆる「気の弱い人」とか「気の優しい人」がかかるものだと思われがちですが、実はそうではありません。どんなに心が強くても、非常に強いストレス源(ストレッサーといいます)があれば、誰しもかかる可能性があります。
 「コロナ疲れ」も同じように、日頃どんなに強い心持ちの人でも、コロナ関連ストレッサー(例:大切な人が亡くなる、仕事を失う、居場所である自宅に居づらいなど)によって急性のストレス反応が出てしまうことは充分あり得ます。

  2.コロナ疲れは、減らす方法がある
 ストレス源が自分ではどうしようもないものである場合、その原因に働きかけ、解決を目指すのはなかなか難しいでしょう。でも私たちには別の解決策があります。
 ストレッサーの受け取り方を変えたり、物事の捉え方・考え方を、自分にとってちょっとだけ楽な方向に変えることで、疲れを減らすことができるのです。
 ここでは「がんばらなきゃ」という一生懸命な気持ちを、ちょっとだけ緩めて、疲れを和らげる方法を考えてみたいと思います。

マジメな人ほどコロナ疲れになる可能性

 クリニックや企業で患者さんと接していると、マジメな人ほど、こころの病気で苦しんでいる方が多いことを感じます。
 先ほどのBさんの例もそうですが、実直で何事にも一生懸命頑張る努力家、そして「こうしたい」という気持ちより「こうしなければ」と思って行動する方ほど、こころが疲れてしまう傾向にあります。

 例えば<コロナ関連情報に翻弄される、コロナ疲れの場合>。
今世間には、公衆衛生学的に根拠のあるものから、正誤不明なもの、国内外含め、ありとあらゆる種類の、数多くの情報があふれています。
 真面目であればあるほど「正しい情報を入手しなければ」と、一日中、それこそ時間の許す限り、情報をかき集め、真偽を突き詰めようとします。
 情報は次から次に更新されますし、真偽を見極めるのも難しいものです。
 そうすると「正しい情報を入手しなければ」と睡眠時間を削ってまで、
情報検索し続けることになるのです。苦しそうですね。
 また<休校延長や在宅勤務により家族全員自宅待機状態の主婦の場合>。
マジメな主婦の方ほど、家族の衛生管理や三度の食事に一生懸命奔走します。
家事だけでも大変なのに、子供の学習にも「私がガンバってサポートしなきゃ」と絶え間なく子供に目を配り、同時に在宅勤務する夫や、今後の経済的な不安にも「私がしっかりしなくては」と気を配る。
これではいつか限界がきてしまいそうです。

完璧は苦しい

 いくつか例を挙げましたが、これらに共通しているのは完璧思考です。
「マジメ」という表現も使いましたが、
完璧思考においては、いつも全力投球で物事を完璧にやり遂げようとします。

そのモチベーションは「やりたいからやる」というよりは
「完璧にこなさなくては」という強迫観念。

そのため、活気の低下や疲れ、不安や抑うつと関連があると言われています。
「100%」は非常に難しい状況にも関わらず、たとえ99%であっても容認できず、達成感は持てません。その結果できなかった自分を責め「もっともっと頑張らねば」と自分を追い込んでしまうことで、とてもとても苦しい気持ちになってしまいます。
 現代社会の少なくないストレス源に加え、コロナ関連の不安や悩みが加わるのが今の状況です。完璧を求めて頑張ると、すぐに苦しくなってしまいますよね。

”てげてげ”のススメ

「がんばりすぎること」が、コロナ疲れを引き起こす一因なのだから、
「ちょっとだけ自分を楽にしてあげて、がんばりすぎないこと」
これが解決策の1つになります。
そこで私のイチオシが「てげてげのススメ」です。

「てげてげ」は私の故郷である鹿児島県や宮崎県(南九州)の方言で
「適当」という意味。
「ちょうどいい加減」といった感じの、ポジティブな意味合いです。

 小さい頃から几帳面で、全ての宿題を一生懸命こなそうとがんばる私に、
母はいつも
「てげてげでよかが〜(適当でいいのよ〜)」
と言っていたのを思い出します。
 マルチなAIでない私たち人間は「完璧にこなすのは不可能」と割り切り、
自分が一生懸命になっているのに気づいた時には、
「”てげてげ”で」という呪文を唱えて、
少しだけ手を休めて、気を休めて、
自分にとって心地よいことをしていただけたら、嬉しいです。

次は「自分を可愛がる方法」について、考えてみたいと思います。

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