小山 和智 @EGS

50年余り「国境をまたぐ子どもたち」の教育に関わってきました。 ここ30年余りは、国内…

小山 和智 @EGS

50年余り「国境をまたぐ子どもたち」の教育に関わってきました。 ここ30年余りは、国内の教育現場に “国境” や “異文化” が流入することにより生じる混乱や変容について取材し、記事を書くようになってます。 若い人たちが頑張れる “よすが” になれば幸いです。

最近の記事

日本人学校等の開校の切り札

学校の体裁がある程度整った段階で、支援や浄財をどうやって集めるのか?・・・・・ その説明の後半です。「建学の精神/趣旨」や「教育理念」「運営方針」等が関係者に周知され、広範な支援体制が出そろってきたら、一気に展開する勢いをつけます。 つまり、学校の基本方針に向かって「ヒト・モノ・カネ」を集め、編集・統合していく作業です。とくに海外の日本人学校等の開校において、「シドニー方式」と「指定寄付金」は、決定的な方策となります。 だんだん「ああ、面倒くさい!」と感じられる方もおられるで

    • 寄付はどうやって集めるの?

      前回は、学校を創る際に、とくに補習授業校を立ち上げ 安定的に運営するために知っておいてほしいことを説明しました。しかし、学校の枠組や運営組織が整ってきて、やがて日本人学校・日本人高校を創りたいという機運まで生じると、新たな方策が必要になります。 その段階では、支援する人だって、趣旨に賛同し いっしょに “夢” が見たいから協力してくれるのです。その点は 国内校も海外の日本人学校等でも同じです。また、政府や企業・団体等であっても、その事業に対して「十分な公益性や必要性」が公に認

      • 海外に学校を創るためには?

        「ここに学校ができないかなぁ」と言う人は多いのですが、学校は自分たちで力を合わせて創り上げるものです。 学校にも「ヒト・モノ・カネ」は必要ですから、創りたい人たちが一生懸命 “汗” をかかないと、学校はできません。また、最初に「こういう学校を創りたい」という明確な意志/理想があり、実際に動き始めなければ、広く賛同を得られないし浄財も集まらないでしょう。 では、どうやって日本人学校・日本人高校を創っていったらいいのか、できるだけ易しく説明してみようと思います。 学校は自分たち

        • 海外の日本人高校の必要性

          かつては 海外子女教育の最大の課題は「帰国後の高校教育に円滑にアクセスできるか?」ということでした。しかし、「国内の中学・高校が グローバルなマーケットに投げ出される」時代になった今、高校教育はどこの国のものを受けても構わないのかもしれません。 「グローバルなマーケットに投げ出される」というのは、① 海外にいる生徒が「国内の学校も選択肢の一つ」と考えている、② 国内にいる生徒が「海外の学校も選択肢の一つ」と考えている、あるいは ③ 海外の大学に進学することを前提にした教育を

        日本人学校等の開校の切り札

          (3) ”日本人学校離れ” の内実は?

          前回、2018年に日本人学校に通っている海外子女(小・中学生)は 23%のみだったことを書きました。それにより 日本人学校は次々と経営難に陥って 授業料・バス代等を毎年のように値上げし、さらに在籍者が減るという悪循環になっていました。 総運営経費の約6割は日本政府の助成で運営されているので、授業料はインター校と比べたら 半額以下ですみます。しかも、その地域の海外子女数は年々増えているはずです。それなのに 在籍者が減っていくのは、なぜなのでしょうか? 今回は「日本人学校が進学先

          (3) ”日本人学校離れ” の内実は?

          (2) 海外子女教育に今、何が起こってる?

          「海外子女」という言葉は、40年前の法律論争を離れて独り歩きし、教育関係者でも、何が何だか分からなくなっています。 「海外子女」の概念は最初、① 義務教育年齢(小1~中3)の子どもで、② いずれは日本に帰ることを前提に保護者に帯同され、③ 1年以上滞在予定の者、と厳しく規定されました(『帰国子女教育の変容』を参照ください)。 しかし、その概念には、就学前の幼児や高校生は含まれていませんし、企業・団体等の派遣ではなく渡航している研究者や専門職・芸術家など、あるいは国際結婚や移民

          (2) 海外子女教育に今、何が起こってる?

          (1) 言語習得のメカニズムと 学力偏差値

          「海外子女」「TCK」というと、まず語学力のことに興味関心が寄せられるのですが、子どもたちは どうやって言語を身につけるのでしょうか? 別稿で『「継承語」を知ってますか?』を書いたのですけど、趣旨が上手く伝わらなかったようです。ここでは、教育の専門家ではない方のために、子どもの第二言語習得と成長年齢との関係について、簡単にお話しします。 言語習得の基本プロセス 零歳児(生後~初誕生くらい)の時期、子どもは泣いたり笑ったりすることで周囲の者、とりわけ母親に向かって欲求を伝え

          (1) 言語習得のメカニズムと 学力偏差値

          探究の “学び” に必要な方略

          【解説】 探究学習の最大の障害は、日本社会の “常識” です。「それは安全なのか?」「子どもに相応しいか?」「それで何が得られるか?」「無駄が多すぎないか?」など、とにかく “(できれば余計なことは)やらせたくない” を前提に 次々と確認が入ります。(注 1) しかし、不確実な未来を生きていく子どもたちのために “新しいこと” に挑戦する姿勢、あるいは “諦めないで続けること” の大切さを、周りの大人は見せるべきです。とりわけ指導に当たる教師やコーチは、“自分も子どもたちから

          探究の “学び” に必要な方略

          空にあこがれて 探究に遊ぶ

          かつて マレーシアに住んでいた私たち家族は「水ロケット」に凝っていました。スーパー等では炭酸飲料を2リットル~4リットルのペットボトルで売っていて、日本では考えられない水ロケットが作れるのです。 ペットボトルの形も硬さも飲料メーカーによって異なりますから、組み合わせ次第で実に多様な形状をデザインできます。しかし、30年前のことです。日本で売っている「水ロケット」専用のキット等は入手できないので、全て現地調達の材料を活用した手作りです。 ホームセンターだけでなく、スーパーや

          空にあこがれて 探究に遊ぶ

          「継承語」を知ってますか?

          通常、生後数年間育つ間に習得した “家庭内の言語” は「母語(Mother Tongue)」と呼ばれ、その子の主軸言語です。つまり思考・感情の柱となる大事な言語なのです。 子どもの言語習得の段階から観ると、日常会話力(BICS)は 生まれた時から習得が始まりますが、学習言語力(CALP)は 6歳くらいから始まって、10歳くらいで日常会話力を越えていく段階になります。ちょうど小学4年生頃で、「読み・書きが辛くなった」「急に勉強が難しくなった」と子どもは感じます。 ところが、こ

          「継承語」を知ってますか?

          失敗・災難から学ぶ知恵

          海外生活が長かった皆さんには 「課題解決型学習(PBL)」や「アクティブ・ラーニング(AL)」は耳慣れない言葉かもしれませんが、新しい学習指導要領の基本にある学習観です。わが国では 2000年頃までの学習観が “知識や技術を教え込む” スタイルであったのを、“学習者が主体的に深く学ぶ” スタイルに変えようとしているのです。 知識伝達型から 不測の事態への対応力へ かつての知識伝達型の教育では、「人間が生まれた時は『Tabula Rasa(白紙)』の状態であり、教師はそこに

          失敗・災難から学ぶ知恵

          帰国子女教育の変容

          「帰国子女」とは “帰国した「海外子女」” ですが、海外に帯同されたり帰国したりする日本の子どもの教育は元々、旧 厚生省の管轄でした。日本人の海外移民・派遣者の子どもの教育は「海外在留邦人保護・支援」の政策に含まれ、旧 厚生省の仕事だったのです。そうした子どもの帰国後(引揚子女、残留孤児なども含めて)の教育も、同様でした。 ところが、1970年頃から日系企業の駐在員が急増するに伴い、「海外に数年間帯同される子どもに 国内と同様の教育を施す責任が日本政府にある」という機運が高

          帰国子女教育の変容

          教師の「知的リーダーシップ」

          最近は「双方向型学習」とか「アクティブ・ラーニング」、「学習者主体の学び」とかが 盛んに話題になっていますが、実は 1960年代にも この話題は盛んになったことがあります。 当時は「教師の知的リーダシップのあり方」などといわれて、大正時代に日本に紹介された「ドルトン・プラン」なども議論の的に…… 大学のゼミ演習などは その最たるもので、教授は毎週 学生の発表や報告をさせ、互いに議論させ、最後に教授が講評をする形で進んでました。 もちろん、依然として 古典的な一斉授業や講義形

          教師の「知的リーダーシップ」

          笑う門には福来たる(災難に備える)

          日本の正月の風物詩に、「三河万歳」があります。物事の繁栄を願い、めでたい文句をおどけて唱って舞うことで、ほんとうに幸せがやってくると信じられています。 起源は戦国時代の三河の国(現在の愛知県南部)で、当時は 戦に明け暮れていたうえ、毎年 水害にも襲われていました。「たいへんな災難に遭った時こそ、くじけない精神力や心のゆとりが 被害を最小に抑え、回復力を得る」という庶民の知恵が、この伝統芸能に込められているのです。 困った時こそ、笑顔は大事です。とりわけ駐在員家族は、旅行者で

          笑う門には福来たる(災難に備える)

          海外への単身赴任について考える

          海外への広義の「単身赴任」というと、①独身あるいは新婚の時期に独りで赴任する場合、②出張(旅券法上では3ヶ月以内)、③いわゆる「単身で赴任」、④先乗り赴任、⑤家族が一時帰国の場合、⑥単身残留、⑦逆単身赴任など、実に様々なケースがあります。このうち①独身・新婚、そして⑦逆単身赴任については 極めてまれですから別の機会に譲り、ここでは ②~⑥ について、とくに「家族や知人、周囲の方に何を知っておいて欲しいか」という観点から考えてみます。 単身赴任が 再び増加傾向に 海外での経

          海外への単身赴任について考える

          「国境をまたぐ子ども」の観点で

          渋谷真樹さんの『「帰国子女」の位置取りの政治』(勁草書房)が出たのは 2001年でした。「帰国子女」が他の日本人との間にどのような差異を見出し、それにどのような意味を与え、いかに対応しているのか、を丹念に掘り起こしてみせてくれました。その10年前くらい前から 渋谷さんは、「帰国子女」が各々 自らの “差異” をどう捉え、それをどんな操作によって、日本の学校において 子ども同士の距離感を図っているかを整理されてました。 「帰国子女」は、日本の高度経済成長期(1970年頃)に

          「国境をまたぐ子ども」の観点で