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空にあこがれて 探究に遊ぶ

かつて マレーシアに住んでいた私たち家族は「水ロケット」にっていました。スーパー等では炭酸飲料を2リットル~4リットルのペットボトルで売っていて、日本では考えられない水ロケットが作れるのです。
 
ペットボトルの形も硬さも飲料メーカーによって異なりますから、組み合わせ次第で実に多様な形状をデザインできます。しかし、30年前のことです。日本で売っている「水ロケット」専用のキット等は入手できないので、全て現地調達の材料を活用した手作りです。
ホームセンターだけでなく、スーパーやバイク部品の店などを覗いて回っては使えそうな物を入手し、「ああでもない、こうでもない」と意見を出し合って “試作と改良” を重ねていく作業は、私たち家族にとって最高の幸せな思い出になっています。
 
海外では、日本と同じ物が入手できないために不自由を感じることがありますが、創意工夫により、いくらでも楽しくできる実例としてご紹介します。 


左から 4号機(2段結合型)、3号機(スペースシャトル型)、2号δ機、1号機(原型)

子どもでも作って飛ばせるロケット

長男のT雄は、幼い頃から “動くもの” に興味があって、玩具おもちゃや壊れたカメラ、時計などを分解して遊んでいました。また、科学図鑑を見るのが好きで、とくに乗り物や動物の構造を食い入るように見ていました。
T雄が6年生になった時、「水ロケットを作りたい!」と言い出します。今のようにインターネットで情報収集はできませんから、図書館や本屋を回わって調べてみると、確かに、小学生でも十分にこなせそうな内容です。
 
一方、私はそれまで、T雄があまりに機械の構造やメカニズムにのめり込んでしまい、物理的な側面や周囲への安全面を考えなくなることを恐れていました。将来、技術者に育つとしても、基礎の理論や社会的な側面も一緒に考える機会にして欲しいと願っていたのです。また 「水ロケット」専用のキット等の購入はすぐには無理ですが、マレーシアで調達できる物だけで手作りしていけば、家族や友達がいっしょに楽しむことできそうでした。(注 1)
 
もちろんT雄には、一人だけでは遊ばないことを約束させます。さらに、落下した際に地上の人や物に危害が及ばないよう、ロケット本体に金属を装着しないことを約束させました。
当時の資料では、金属の突起が露出したものが散見されましたが、どこに落下してくるかわからない物を上空 100mも打ち上げるわけですから、怪我人けがにんが出たりすることは絶対に避けなければいけません。「自転車タイヤのバルブとナットを本体に使わない」という独自の自主規制も設けました。
 
注 1)「水ロケット」発射の瞬間の動画。500cc のペットボトルを1本使用したものです。下の写真は、2000cc のペットボトルを使用しています。

発射台がない場合は、このスタイル。兄が1号機を2気圧で発射体験(近所迷惑!)

誰が炭酸飲料を飲むの?

肝心かんじんのペットボトルは 3気圧以上の圧力をかけるので、炭酸飲料専用の容器を使用します。ところが 我が家では、虫歯予防と健康上の理由の観点から、それまで(ビール以外の)炭酸飲料は飲む習慣がありませんでした。
中身を捨てることは論外ですから、健康に配慮しながら適正に消費していかなければなりません。「体に良くないから」と言っていた私が 「さあ、飲もうか!」と言い出して、家内も子どもたちも半分呆れていました。
 
いったんせんを開ければ、3日目には気が抜けて美味しくなくなりますが、それでも捨てないで飲み切ることは、最低限の節度でした。
2リットルのペットボトルなら家族で何とかなっても、3リットル以上のペットボトルとなると、お泊り会かパーティを開かないと消費できません。
それに店では、冷蔵庫の場所を取るので常温でしか売らず、自宅で冷やしておくのも大変です。スイカを何個か冷やしているようなもので、「四角いボトルだと ロケットにならないんだよねぇ」と家内がぼやいていました(笑)
 
週末は家族そろってスーパーなどに買い出しに出かけますが、目的は “変わった形のペットボトル” を探すことです。「このボトル、い形をしてるねぇ」「いや、こっちも飛びそうだよ!」などと言い合いながら店内を巡るのが、恒例こうれいになりました。
困るのが、中身が私たちには とても飲めそうもない代物しろものの時・・・・・「あの人なら飲むんじゃない?」「こんど聞いてみようか」などと話し合うことも多かったです。
 
それと 1機の「水ロケット」を作るために 普通、2本のペットボトルが必要・・・・・ 1本はタンク本体、もう1本は分解して 噴射ふんしゃノズルのカバーや安定よく、機首部分などに使います。つまり2リットルボトルでも、通常は 1週間に1機分しか入手できないのです。
ともあれ、3リットル以上のペットボトルは 入手できる幸運に恵まれることを祈りつつ、開発のメインは2リットルボトルに絞りました。日本では 最大で1.5リットルのサイズのものまでしか売られていないので、それでも特異な経験ができます。(注 2)
 
注 2)ペットボトルの寸法の目安は、500cc用は φ7cm×20cm、1000cc用は φ8cm×25.5cm、2000cc用は φ10cm×31cm、3000cc用は φ12cm×31cm、4000cc用は φ14cm×310cm。メーカーやブランドにより、ユニークな形をしています。また、加圧すれば 直径で数ミリ(mm)ふくらみます。 

噴射ノズルと発射装置の工夫

最初の課題は、噴射ノズルをペットボトルのキャップにどう取り付けるかです。今なら「100均ダイソー」でキャップの外径がそっくり入る「蛇口じゃぐちニップル」を売ってますが、30年前はありません。(注 3)
 
キャップに φ2cm くらいの穴を開けたら(半田はんだゴテを使用)、内側からニップルを入れて、エポキシ系のパテで固定します。
余談ながら、今の「100均ダイソー」のニップルを使う場合は接着剤を剥がす方向に力が働くのに対し、このやり方はニップルを押し付ける方向に力が働くので、気密性能は高くなります。
 
他方、自転車の「空気入れ針」に ゴム栓に貫通させ、「(散水)ノズルコネクター」に取り付けて、エポキシ系のパテで固定します。
空気入れ針の先に “虫”(弁)を付ければ、発射装置の完成!
…… と思いたいのですが、この部分をどれだけ頑丈に、気密性を高く作れているかで、何気圧まで耐えられるかが決まります。結局、何度も試行錯誤を重ねて、4気圧近くまで空気を詰めることが可能になりました。
 
因みに、発射台カタパルトは? 「水ロケット」の場合、リード(飛び出していく方向に導く棒)の長さが難しい・・・・・ 発射時に慣性速度(安定翼がき始める速さ)に達するまで支えたいけど、リード自体がロケット(の水)の重みで下に "たわむ"(お辞儀じぎする)し、それだけ摩擦抵抗も増えます。
 
500cc のペットボトルなら 発射前に搭載とうさいしている水は 200g未満ですから、リードは 60cm もあれば十分ですが(注 1 参照)、2000cc なら 発射前の機重は 1kg前後、3000cc だと 1.2kg 前後の重さがあるのです。
スチールパイプが理想(値段が高い!)ですが、結局 ホームセンターで かしの棒(約φ8mm×180cm)と 物干し台のあしを買って、発射台にしました。
 
注 3)庭や畑の散水用ホースの先に「ノズルコネクター」を付けておけば、蛇口に付けたニップルに「カチッ」とはめたり、外したり簡単にできます。この機能を発射ボタンに利用するわけです。しかも、噴射口の内径が2リットルボトルに最適ということも、後で判明しました。

左:蛇口ニップルをキャップに固定。右:ノズルコネクターの留め具が ニップルを挟む構造

安定翼など デザインや重心の工夫

発射装置や推進装置ができると、難題のデザインです。早く飛ばしたい衝動を抑えながら、全体のフォルム、噴射ノズルのカバーの形(あるいは付けない)、安定翼の形と数・装着位置、ヘッドコーン(機首)の形などを、機能面を考えながら構成していきます。
また、タコ糸を付けて グルグル振り回したりして、重心の位置や前後左右のバランス、安定翼の効果などを確認し、微調整していきます。いきなり飛ばしても、なぜ上手く飛ばなかったのかのデータ/経験が残せませんし、墜落破損がもっとも怖いです。
 
原型プロトタイプとなる最初の1機は「OYAMA 1」と呼んで、さまざまな実験に利用しました(ファースト・ペンギン…)が、飛ばした回数だけ地上に激突するわけで、とくに ヘッドコーンは何度も修復しました。
いつしか私は 松任谷由実の『ひこうき雲』(1973年)を口ずさみ、1号機を飛ばしに出かける車内には カセットテープで流すようになります。満身創痍まんしんそういのボロボロになりながらも、最後まで私たちを楽しませてくれました。
(注意:破裂はれつの危険もあるので 要注意です)
 
3号機のデザインに入った時、T雄が「落下傘パラシュートをつけないで、スペースシャトルのように滑空して戻ってこさせたい」と言い出します。(落下傘は信頼性がなく ロケットが地面に激突する・・・)彼独特どくとくの優しさから出た発想です。私も共鳴し、上空で水平飛行に移れる「スペースシャトル型」の開発に着手しました。
「発射の直後に半回転して滑空かっくう体勢に入らせるため、えて重心を(腹面側に)かたよらせる ⇒ 滑空体勢では安定飛行させる」と、それまでの安定飛行ノウハウと矛盾むじゅんする試みは、何度も壁に突き当たります。
 
ちょうどその頃、物理が専門の父と兄(T雄から見れば 祖父・伯父)がマレーシアに遊びに来て、現地で調達できる物品の活用アイディアや実験・調整のしかたなどを助言してくれたことも幸運でした。
兄は1号機の完成度の高さに驚くとともに、3号機(スペースシャトル型)の独自性に感心します。父は「スペースシャトルなら白だよなぁ」などと装飾にまで助言してくれて、初めてスプレー塗装を施しました。
 T雄は父のことを「監督!」と呼んで、いろいろ相談していました。背中に鮮やかに「OYAMA 3」と記された3号機を持って、本当に幸せそうでした。もちろん、それを見ている私も…(ウルウル…)。

原型の1号機を参考にしながら、機体改良の研究中

空に憧れて 空を駆けていく

同じ時期に、2リットルボトルを縦に連結した4号機も開発していました。発射直前には1.5kg の機重になり、推進力がどの段階で機重を越えるのか、全くの未知数です。
そもそも装填そうてんする水の量をどれくらいにするか・・・・・ 少ないと推進力不足 ⇔ 多過ぎると速度不足、のジレンマ。また、接合部分の弱い部分が 何気圧まで耐えられるか?
自転車用の空気入れでは、炎天下で3気圧以上に届かないので、空気圧を示すゲージメーターが付いている「足み式ポンプ」を購入します。破裂の危険もあるので、このゲージで「とりあえず4気圧を上限」と決めました。
 
父と兄の帰国が迫り、1号機~4号機の揃い踏み飛行実験の日を迎えます。
まず1号機・2号機は、見事な放物戦を描いて、約70m先に届きました。後は、搭載水量と気圧の管理、そして安定翼を螺旋らせん状にしてみるくらいです。ここまではT雄も私も 想定通りで、まったくの不安はありません。
 
問題は3号機。開発責任者のT雄は、ポンプを必死に手で押しながら ゲージをにらんでいます。3気圧半くらいになった時、ノズルコネクターが悲鳴を上げて水が漏れ出したので、やむなくT雄に発射を告げました。
発射台を離れた3号機は、時計回りにゆっくり機体をひねりながら加速上昇 ・・・・・ その様子はスペースシャトルそのものです。全員が「ウァ~~!」と歓声を上げるなか、水平翼の揚力ようりょくで大きく左に旋回せんかいしながら、見事に滑空体勢に入りました。そして、そのまま左手後方の駐車場まで滑空して行って、見事に軟着陸しました。(推定飛行距離 120m)
 
続く4号機は ずっしりと重く「このノズルの口径で、飛び立てるほどの推進力が出るかなぁ?」と不安になります。破裂の危険もあるので、ポンプ役は私、発射役は兄が務めることになり、さっそく空気を注入開始。
リードを仰角ぎょうかく 60度にしても、機重でリードはお辞儀じぎしますから、飛び出し角度が 45度以上になってくれることを祈るのみ・・・・・。
 
やはり3気圧半くらいで、ノズルコネクターが悲鳴を上げて水が漏れ出します。とうとう ノズルコネクターの停止フックの限界となったのか、4号機は動き始め速度を上げていきます。
「ああ、速度が足らない!」と思った瞬間、4号機は(水の重さがあるため)機首を上げながら仰角ぎょうかく10~15度方向に飛び出し、そこから3次関数のグラフを描くように 上空に昇っていきます(ものすごい噴射!)。
全員が「行けーッ! 行けーッ!」と叫ぶなか、高度約30メートル(6階建ての家の屋根くらい?)で水が尽きて 落下しました(落下傘パラシュートは開かず)。落下地点は直線で 50mくらいの場所ですが、4号機は ヘッドコーンがつぶれるほとの衝撃ショックを受けていました。

飛行実験を終えて 記念撮影。右側は 4号機(上)・3号機(下) の発射シーン(動画はクリック)

飽くなき探究は続く・・・・・

この実験で「ノズルコネクターの改善」が喫緊きっきんの課題と判明しました。
他方で、接合部のない5号機「モグラ型」・・・・・ 弾丸に近い形をした4リットルボトル(加圧すると 直径は1リットルボトルのほぼ2倍)で、果たして「水ロケット」が作れるのか・・・・・ まるで 焼酎の4リットルボトルが飛ぶことを想像すると、実に愉快です。
4号機と違って連結部がないので 気圧を上げられること、垂直発射しか選べない(水がタンク中で動き、安定翼が効き難い)反面 バランスを取り易いことなど、制作上の苦労はありません。
      
残念なのは、ノズルコネクターの改善と噴出ノズルの改良が間に合わず、ぶっつけ本番の実験になってしまったことです。
実験(旧ノズル)では、5号機はたぶん上空 80mくらいに達したはずで、落ちてきた時の音の大きさに、私たちは怖いものを感じました。草の運動場に突き刺さって、もはや “爆弾” でした。(冷汗)
 
さらに並行して、3リットルボトルを2本を縦に連結した6号機「幻のジャンボ水ロケット」も試作を始めていました。課題は、ノズルコネクターの改善だけでなく、連結部の頑丈がんじょうさと噴射ノズルの口径を大きくすること、そして発射台のリードをどこまで伸ばせるか、といったものです。
いずれにせよ 飛行距離 100m以上ですから、かなり広い場所が必要です。幸い日本人学校には広大な運動場(芝生)があり、(本当はいけないのですけど)誰もいない運動場は 最高の飛行実験場でした。(笑)

3リットルボトル(底が球形!)を2本連結した6号機。ヘッドコーンは未だつけてない。

         *   *   *   *   *   *
子どもたちは創意工夫をして遊びます。集まった “部品” の山をながめては、「これ〇〇に使えないかなぁ」と話し合い、すぐに試作に取りかかる・・・・・ やってる間に、ああでもない、こうでもないという意見も出て “改良” していく毎日は楽しいものです。
【解説】探究の “学び” に必要な方略

科学クラブに頼まれて 小学部校舎の中庭で「水ロケット」を打ち上げた際、風に流されて3階建て校舎の屋根の頂に引かかり、雨どいまで転げ落ちて止まりました。
裏のパームヤシ畑(コブラがいます)に落下するはずなので、庭師ガーデナーに取ってきてくれるよう頼んでいたのですが、その庭師が「もう一機 飛ばしてくれたら、乗って行って 取ってくるよ」と冗談を言ったので、大笑いしました。
あの水ロケットは、今も 子どもたちを見降ろしているのでしょうか?
 
《参考文献ほか》
『水ロケットを飛ばそう』(日刊工業新聞社 1996年)
JAXA・OYAC 基本型水ロケット
※ 手作りが億劫な人には
ケニス「水ロケット製作キット
タカギ「ペットボトルロケット製作キットⅡ


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