「となりのトトロ」とヤングケアラーの意外な関係性
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共育LIBRARYりょーやん、元教師です。
令和になってからの学校現場では、ジブリ映画の話は「知っていて当たり前」のものではなくなりました。
「『風の谷のナウシカ』ね!それ見たことある!」
という子どももいれば、
「何それ?」
という子どももいて、子どもたちが見るエンターテイメントは、実に多様化しています。
その中でも、「となりのトトロ」は比較的認知度が高い。
「さんぽ」が音楽の教科書に載っているぐらいですし、「トトロ」のあのキャラクターは幼児期でも夢中になれるため、親としても安心して子どもに見せることができる映画の1つになっているからだと思います。
「となりのトトロ」は、可愛くて不思議な隣人との、ほのぼの・心温まる話として語られる物語。
一方で、教育的な観点で見ると、様々な「気付き」があります。
その1つがヤングケアラーの存在です。
この記事では、「となりのトトロ」の映画を通して、ヤングケアラーという問題の昔と今を比較し、考察していきたいと思います。
「となりのトトロ」を大人が楽しんで見る1つの視点になると思いますので、是非、最後までご覧ください。
ヤングケアラーとは?
「ヤングケアラー」とは、
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこと
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
を言います。
例えば、
家族の中に、身体に障害をもっている人がいる場合。
親が精神疾患を抱えている場合。
共働きにより親が家にいない状態で、長女・長男が弟・妹のお世話をしている場合。
などなどです。
周囲が友達と遊んでいる中、自分は家事や家族のお世話に時間を使わなくてはならない。
最も遊びたい年頃、友達と過ごしたい年頃にそれができない。
そして、抱えているその思いを吐き出す先もない。
さらに言えば、子どもは周囲の家庭の「常識」を知らないので、「どこの家もそのようなものだ」と思ってしまい、「周囲と違う」ことに気付くのは、ずっと後になってからになる。
以上のような問題が、近年、「ヤングケアラー」という名前が付けられ、社会問題として浮上してきているのです。
サツキとメイはヤングケアラー?
「となりのトトロ」は、埼玉県の所沢市にある閑静な一軒家に引っ越すところから始まります。
それは、サツキとメイのお母さんが近くの病院に入院しているからでしょう。
お母さん自身の病気が何だったのかは判明していません。
ただ、お母さんの退院を見越して、療養できる空気がきれいな土地に引っ越したという設定であることは、宮崎駿監督も認めているそうです。
「となりのトトロ」を教育者の目線で見てみると、現代で言えば「ヤングケアラーである」と判断できる要素が幾つもあります。
例えば、以下のシーンです。
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
◆お母さんは入院中で、お父さんは大学で働いているため帰りが遅い
◆隣のおばあちゃんの家に預けられているメイがサツキの学校に来てしまう
◆サツキがお風呂の薪入れなどの家事を行っている
◆お父さんに傘を届けるため、夜遅くにメイの面倒を見ながらバスに乗ろうとするサツキ
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
メイもそうですが、明らかにサツキに負担がかかっています。
本当はお母さんのことが心配なのですが、いつも気丈に振舞っている。
メイもいるため、しっかり者のお姉ちゃんでいなくてはいけない。
もし、周囲の誰にもケアされずに、サツキがこのままなら、サツキは誰にも言えない寂しさを胸の内に抱える子ども時代を過ごすことになります。
では、なぜ「となりのトトロ」の時代は大丈夫だったのでしょうか。
現代とは何が違うのでしょうか。
地域が機能しているかつての日本
「となりのトトロ」の時代設定は、テレビがまだない時代の1950年以前だと言われています。
電話は存在するが、電報も存在する時代であることが、「病院から電報を受け取るシーン」を見て分かります。
この作品の中の「主役一家以外で最も印象的なキャラクター」は、隣の家のおばあちゃんではないでしょうか。(人間の中で笑)
サツキとメイを実の娘のように可愛がってくれるおばあちゃん。
この時代では、隣人や地域内の人々が温かく、家族のような存在であったことがよく分かります。
具体的にこのおばあちゃんは、作品の中で以下のようなことをしています。
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
◆引っ越し時の挨拶やお手伝い
◆サツキが学校に行っている間はメイの面倒を見る
◆2人を畑に連れていき一緒に野菜の収穫を楽しむ
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
半分、親の役割を担ってくれています。
最も印象的なのは、お母さんの退院が伸びてしまった場面です。
メイは感情のままに「いやだ~!!」と駄々をこねて感情を表にしますが、サツキはメイの手前、気丈にふるまわなければいけません。
決して涙を見せなかったサツキですが、おばあちゃんと2人きりになった時だけ、
「お母さんが死んじゃったらどうしよう!」
とおばあちゃんの胸で泣き出してしまいます。
もし、このおばあちゃんがいなかったらどうなっていたでしょうか。
サツキはきっと、自分の胸に秘める寂しさを誰にも吐き出せなかったかもしれません。
このおばあちゃんだけではなく、地域が1つの大きな家族として機能しているシーンが、作品の中に幾つか見受けられます。
例えば、
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
◆メイが突然サツキの学校に来てしまっても、教室にいさせてくれる先生・学校
◆電話を無料でいつでも貸してくれる家
◆メイがいなくなったときに一緒に捜索してくれる地域の人々
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
などです。
メイが見つかったときは、涙を流して抱きしめるおばあちゃんの姿も、なんともいえない人間の愛おしさを感じてしまいます。
かつての日本は、このような地域が機能している姿が当たり前だったのでしょう。
それに加えて、映画内には、トトロや物の怪がいます笑
このような「物の怪」の存在は、「全てのモノに魂が宿る」という神道の考え方が反映されているような気がしてなりません。
そういった精神も、温かい地域のコミュニティを保ったり、自然を敬愛し、孤独感を和らげたりするために、少しは関係していたのではと思っています。
現代は「地域」という概念は消滅した
対して現代はどうでしょうか。
皆さんの中に、隣人の方々と頻繁に交流を行っているという方はどれぐらいいるでしょうか。
おすそ分け文化は残っているでしょうか。
何かあったとき、「子どもを預かるよ」と言ってくれる近隣の人々はどれぐらいいるでしょうか。
おそらく、「となりのトトロ」の中の地域の人たちのような存在は、周囲にいなくなってしまったのではと思います。
地方の村社会文化が残っている田舎なら、地域は機能しているかもしれませんが、都心部ではなかなか難しいでしょう。
結果として、
・いざとなったら頼れる近隣の人がいない
・地域みんなで子どもを育てるという文化がない
・自分の家のことは家庭内で完結しなければならない
・何でもない相談や悩みを気軽にできる相手がいない
といった状態が生まれ、「孤育て」という環境が生まれているのだと思います。
皆さんやお子さんの中にはトトロが見えるという人がいるかもしれませんが、筆者はトトロは見えません笑
普段はいたずらものでも、本当に困ったときは寄り添い助けてくれるトトロや物の怪たちのような存在がいればいいのですが・・・
そんなことを考えさせられます。
まとめ
こうして比較してみると、現代の子育てをしている親御さんたちが、如何に負担が大きく、如何に孤独であるかということが分かります。
二世帯住宅、もしくは、近くに自分たちの親がいて、いつでも子どものことを頼めるなら少しは負担を和らげることはできる。
しかし、どこの家庭も多忙で余裕がない中、近隣の家庭に頼み事をしたり、甘えたりすることは、なかなか難しいはずです。
その環境の変化と、加速度的な情報化社会による多忙化、そして家庭と地域の分断による家庭内不和への第3者の介入がなくなった状況が、ヤングケアラーという問題をつくり上げているのだと思います。
令和は、共生の時代の過渡期です。
いずれ、失われた地域文化を復活させるべく、民間のNPO団体などが共生地域が機能するために動き出していく時代の波が発生するのではないかと思っています。
まだまだ筆者に何ができるのかは分かりませんが、幅広く教育に関わり、自分の力と、人々が支援を求めているものがマッチングする分野に、自分の時間とエネルギーをいずれ使っていければよいなと思っています。
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明日の記事は
うんざり!「足並みを揃える文化」からの脱却!出る杭は打たれるならどうするか?
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