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読書日記・2022年の振り返り【小説編】

2022年も終わりますね。
今年は月に一本くらいは読書日記を書こうと思っていたのに……
実現できず!残念!

なので、ざざっとですが、今年の読書を振り返り。
読んだ本の中で、特に面白かったもの・印象に残っているものを読んだ順に挙げていきます。
まずは小説編。
怪奇幻想・ホラー系が多いですよ。

『高原英理恐怖譚集成』(高原英理/国書刊行会)
新年最初に読んだ本。
全くもってお正月にはふさわしくない、不吉で恐ろしい内容の本でしたが(笑)、とても良かった。
人体が破壊されたり切り刻まれたり、といった描写は実は苦手……なのに、高原英理さんの品格ある美しい文章で描かれると、思わず読み惚れてしまう。
ゾンビだらけになった世界で、やはりゾンビになってしまった恋人と暮らす「グレー・グレー」が特に好み。

高原英理恐怖譚集成 山本タカトさんの絵、いいですね


『妖花燦爛 赤江瀑アラベスク3』(東雅夫・編/創元推理文庫)
赤江瀑は昔から大好きなのだけど、お金のない学生時代に図書館で借りて読んでいたため、手元にはほとんど本がなく……。
最近はお求めやすい文庫で、こうした傑作選が出ているのでありがたい限りです。
「赤江瀑アラベスク」は全3巻、私はこの最終巻が特にお気に入り。
「平家の桜」「阿修羅花伝」「奏でる艀」あたり、何度読んでもうっとりしてしまいますね。
比較的読みやすい作品が多いので、赤江瀑を初めて読む方にもオススメしたい。

赤江瀑アラベスク 三冊並べて豪華絢爛

『変半身(かわりみ)』(村田沙耶香/ちくま文庫)
村田沙耶香を読んでいると、いつも、ある種の「気持ち悪さ」を感じる。
おそらく、普段は目をそらしているものを眼前に突きつけられる「気持ち悪さ」なのかな、と。
目を離さずに読み続けることを要求されるけれど、それは決して不快ではない。
「気持ち悪さ」の中にどっぷりつかってしまうことが、逆に心地良い。

変半身 表紙も怖い


『忘れられたワルツ』(絲山秋子/河出文庫)
再読。読書会の課題本として選びました。
東日本大震災後の不穏な空気を描いた短編集ですが、コロナ禍の今の世の中にもどこか通じるものがある気がして。
収録作品中「NR」「忘れられたワルツ」「神と増田喜十郎」を取り上げました。

『紙魚の手帖 vol.2』(東京創元社)所収の3作
「ウィッチクラフト≠マレフィキウム」(空木春宵)
「さいはての実るころ」(川野芽生)
「無常商店街」(酉島伝法)
2月に読書日記を書いています。よろしければご参照を。


『幻想と怪奇8 魔女の祝祭』(新紀元社)所収の4作
「理性が月の形を正確に描く」(西崎憲)
「海坊主」(井川俊彦)
「くらう」(中川マルカ)
「消える」(伴名練)
『幻想と怪奇』は基本的に海外作品メインで、私は自分ではあまり海外作品を読まないので、「ほー、こんな小説があるのか」といつも新たな世界を教えてもらっています。
でも、この巻では国内作家さんの短編が数多く載っていて、どれも印象的でした。
西崎憲さんの「理性が月の形を正確に描く」は「蕃東国年代記」シリーズの一編。
このシリーズ大好き。早く新しい巻が出るといいなあ。

幻想と怪奇8 装丁もいつも素敵



『盤上の向日葵』(柚木裕子/中公文庫)
将棋好きの甥っ子に影響され、たまにスマホアプリで将棋をたしなんでいます。
そんなわけで「将棋のお話かー、甥っ子との話題作りになるかな」と軽い気持ちで手に取ってみたら、重厚なサスペンスで大変読みごたえがありました。
そして話の内容が重すぎるので、まだ小学生の甥っ子にはオススメできなかった……。

『残月記』(小田雅久仁/双葉社)
月をめぐる不思議な物語、傑作です。
2月に読書日記を書いています。

『おばちゃんたちのいるところ』(松田青子/中公文庫)
再読。少人数でやっている読書会の課題本に選びました。
死んでいる人も生きている人もその中間の人も、みんな肩の力を抜いて楽しそうに働いている会社が魅力的。
収録作の中では「ひなちゃん」がもっとも良きです。
私もひなちゃんを釣り上げて一緒に暮らしたい……。

おばちゃんたちのいるところ 見るからに楽しい

『山の人魚と虚ろの王』(山尾悠子/国書刊行会)
異世界旅行に引き込まれ、翻弄され、本当に何があったのかはよくわからない。
けれど、読み終えた時には不思議な満足感がありました。

『桜 文豪怪談ライバルズ!』(東雅夫・編/ちくま文庫)
3月に読書日記を書いています。

『紙魚の手帖 vol.3』(東京創元社)所収の3作
「おうち」(倉田タカシ)
「私の性自認は攻撃ヘリ」(イザベル・フォール)
「自殺相談」(榊林銘)

『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子/ちくま文庫)
良い小説だよ、と聞いてはいたのに長年積読していました。
思い切って読んでみたら、本当に良い小説だった。
デビュー作でこんなん出されたら、本当かなわへんわあ、と思ってしまう。

『女が死ぬ』(松田青子/中公文庫)
掌編集。「女らしさ」を求められてしんどい、という方にぜひ読んでもらいたい。
生きづらい今の世の中を小気味よく殴ってくれます。

『小島』(小山田浩子/新潮社)
小山田浩子の作品は、日常の何気ない風景を描いているようで、どこか不穏。
気付けば、現実なのかそうでないのか、判別つきにくい世界に片足を突っ込んでしまっている感があり、そこがとても好きです。
この短編集では、特に「おおかみいぬ」が好みでした。

『ギフト 異形コレクション』(井上雅彦・監修/光文社文庫)
異形コレクション、宵闇色の贈り物を堪能しました。
最近の巻には斜線堂有紀さん、空木春宵さんがレギュラー登板なさっていて本当嬉しい。
この巻でも「痛妃婚姻譚」(斜線堂有紀)、「死にたがりの王子と人魚姫」(空木春宵)と、それぞれ甘く切なく残酷な物語を紡いでくださってます。

ほかにも以下の作品が印象的でした。
「贈り物」(深緑野分)
「鬼 または終わりの始まりの物語」(澤村伊智)
「二坪に満たない土」(木犀あこ)
「L'Heure Bleue」(黒木あるじ)

『京都宵 異形コレクション』(井上雅彦・監修/光文社文庫)
異形コレクション、過去作もちょびちょびと集めています。
「京都宵」をテーマにしたこの巻、特に好みだったのは以下の3作。
速瀬れいさんが好きで、彼女の作品が掲載されている巻を優先して蒐集中。
「くくり姫」(加門七海)
 「夢ちがえの姫君」(速瀬れい)
「水翁よ」(赤江瀑)

『2084年のSF』(ハヤカワ文庫JA)
ジョージ・オーウェルのディストピア小説「1984」からさらに100年後、世界はどうなっているのか?
というテーマで書かれたSFアンソロジー。
総勢23名の作家の競作、さまざまな形の未来を垣間見させてもらいました。
印象に残ったのは以下の作品。
「タイスケヒトリソラノナカ」(福田和代)
「Alisa」(青木和)
「目覚めよ、眠れ」(逢坂冬馬)
「男性撤廃」(久永実木彦)
「R_R_」(空木春宵)

2084年のSF 62年後は生きてないかも

『離陸』(絲山秋子/文春文庫)
絲山秋子さんは先に挙げた『忘れられたワルツ』と、いくつかの短編しか読んでいなくて。
こちらもおすすめだよ、と同人誌の仲間が貸してくれました。
謎めいていて、壮大で、すごく面白かった。
離陸、というタイトルの意味がわかった時、切なさがこみ上げてきた。

『魔偶の如き齎すもの』(三津田信三/講談社文庫)
探偵作家・刀城言耶シリーズの短編集。
長編に比べるとあっさりめのお話が多い分、気軽に楽しめました。
このシリーズは戦後間もない頃を舞台にしているので、その当時の雰囲気をしっかり味わわせてくれるところも良いです。

『女のいない男たち』(村上春樹/文春文庫)
昔はハルキストだったものの、最近は良い読者ではなく……。
この短編集にもそこまでのめり込めなかったのですが、「木野」という一編はとても好みでした。
目立たない場所にある店、謎めいたカミタという人物、消える猫、そして怪談めいた展開。
そうそう、こういう現実と非現実がシームレスな顔してつながっているお話が好きなのだった、ハルキの、と思い出す。羊男ややみくろが懐かしくなってきた。

『小狐たちの災園』(三津田信三/角川ホラー文庫)
再文庫化なので以前読んだことはあるけれど、表紙のイラストがこちらのほうが良くて買ってしまいました。
廃屋となった「廻り家」で展開するミステリ&ホラー。
こういう独特な形状の建物での謎解き物語、大好物です。
(自力で謎が解けた試しはないけれど)

小狐たちの災園 狐さん可愛い


『川端康成異相短編集』(高原英理・編/中公文庫)
川端康成の作品では「片腕」が一番好きでして。
ああいった作風の作品だけを集めた本としては『川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選』(東雅夫・編/ちくま文庫)がありますが、こちらは高原英理さんが「異相」をテーマに集めています。
「弓浦市」「めずらしい人」は何度読んでも不穏な空気が良いですね。
「死体紹介人」は強烈。

『おはしさま』(三津田信三・他/光文社)
三津田信三さんを皮切りに、香港・台湾、計五人の作家さんがリレー形式で書かれた怪談…というより、ミステリ色強めのホラー。
箸を使った呪いの儀式を共通モチーフに、最終ランナーですべてがつながる。面白かった。
女性の生きづらさ、ままならさを土台にやるせない事件を描いた第四作「鰐の夢」(潚湘神、台湾の作家さん)が特に良かった。

表紙の絵は、先頃亡くなられたイラストレーター・もの久保さん。
全部読み終わってから見てみると、作中に出てきた主要モチーフが全部ちゃんと入っている(ミントキャンディまで!)のが素晴らしい。

おはしさま 不気味さ満載

『紙魚の手帖 vol.6』(東京創元社)所収の4作
「古池町綺譚」(小田雅久仁)
「紹興庵」(南條竹則)
「わたしたちの怪獣」(久永実木彦)
「ホロウ・ダンス」(雛倉さりえ)
中でも、「ホロウ・ダンス」が良かった。
現代に生きる吸血鬼と吸血鬼狩りの奇妙な同居生活、シスターフッドの物語。

『紙魚の手帖』ではいろいろなジャンルの良作を掲載してくれていて、読んでいてとても楽しい。今後も定期購読していくと思います。

『マリア・ビートル』(伊坂幸太郎/角川文庫
秋に東北へ旅行に行きまして。飛行機ではなく東海道新幹線、東北新幹線と乗り継いでいきました。時間はかかったけれど、楽しかったなー。
と、そこへ、東北新幹線を舞台にしたこのお話が目に飛び込んできてさっそく読了。
新幹線の中だけでどうやったらこんなに面白くできるのか、と思うほど面白かったです。
伊坂幸太郎は「死神」シリーズくらいしか読んでいなかったけれど、この「殺し屋」シリーズも読んでいこう。

『赤虫村の怪談』(大島清昭/東京創元社)
実話怪談×クトゥルフ神話×ミステリ、という力業。
ごったまぜの面白さだけでなく、ちゃんと怖いしちゃんと謎解きもあるのが凄い。

『家守綺譚』(梨木香歩/新潮文庫)
再読。何度読んでも味わい深い。掛け軸の中からボートを漕いで高堂が現れるところは、現実と異界がふわりとつながる名場面。近藤ようこさんが漫画化されていて(現在、雑誌連載中)、単行本にまとまるのを首を長くして待っています。

『名もなき王国』(倉数茂/ポプラ文庫)
初めて読んだ作家さん。
物語の洪水に流され、巻き込まれ、ようやく岸に上がったと思ったら、その場所は現実なのか、まだ物語の中なのか……。
ほかの作品も読んでみたくなった。

『満月と近鉄』(前野ひろみち/角川文庫)
読書会で読みました。自分ではまず選ばない本を読む機会を得られるのが読書会の良いところ。
奈良に行ってみたくなるなあ、こんな不思議な出来事は起こらないとわかってはいても。

『青木きららのちょっとした冒険』(藤野可織/講談社)
同人誌『カム』では、メンバー同士で「今年読んで一番良かった本」を年末に発表しています。
そこでの一冊に選びました。


『紙魚の手帖 vol.7』(東京創元社)所収の3作
「ファインダー越しの、」(秋永真琴)
「『昭和ふしぎ探訪』愛蔵版に寄せて」(榊林銘)
榊林銘さん、かなり好みのミステリ。
単著も買ってみようかな、という気持ちになってきました。

『月面文字翻刻一例』(川野芽生/書肆侃々房)
掌編集。一編一編が磨き抜かれた宝石のように美しく、かつ残酷で恐ろしいものを内に秘めている。

月面文字翻刻一例 円城塔さん、いいこと書くな

『みみそぎ』(三津田信三/KADOKAWA)
三津田信三さんのホラーに外れはない。
今作も、序盤から怒濤のごとく怪談が繰り広げられ、抜け出せなくなってしまった。
夜中に読むとより怖くなる、とわかっていながら夜中に読んでしまうんですよね……ああ恐ろしかった。

『墓地を見おろす家』(小池真理子/角川ホラー文庫)
再読。おそらく3回目か4回目くらい。
これだけ読んでいたらそろそろ怖くなくなるかと思いきや、やっぱり怖かった。凄い作品だな。
小池真理子さん、2022年の新作『アナベル・リイ』も読んだけれど、そちらは恐怖感はさほど。
どちらかというと、切なさと寂しさが残る作品でした。

『超常気象 異形コレクション』(井上雅彦・監修/光文社文庫)
いつも大好き異形コレクション。
特にこの巻はどれもこれも面白くて怖かった。
テーマが「超常気象」なので、「空から何かが降ってくる」話が多かったのだけど、決して「似たような話」ではなく、一つ一つ個性が際立っている。
絶望感が半端ないお話が多かったのだけれど、絶望の底にほんの少しだけ希望が残っているお話も。
(その希望が本物なのかどうかはわからないけれど……それもまた良き)

特に好きだった作品は以下の通り。

「件の天気予報」(宮沢伊織)
駆け出し怪談師のふーこと、やたら怪奇現象に遭遇する愛実。
夜中に勝手に流れてくる謎の天気予報から発生する怪異を、二人で解決していく。
解決方法がいかにも現代的で、「そうきたか!」と面白かった。
宮沢伊織さんは「裏世界ピクニック」シリーズもとても良いのだけど、こちらの二人組もぜひシリーズ化してほしい!

「『金魚姫の物語』」(斜線堂有紀)
特定の人間にだけ雨が降り続ける異常な現象。
雨に濡らされ続けた人間は、生きながら水死体になっていく。
救われる方法は見つかっていない。
そんな雨に降られ始めた少女を、主人公が写真に収めていく。
絶望しかない物語。ラストはあまりに切ない。
主人公の撮った写真は、ほんのわずかでも少女の救いになったのだろうか。

「堕天児(おとしご)すくい」(空木春宵)
いずことも知れない街、そこには<稚児雨>(ちごさめ)が降ってくる。
文字通り、少年少女たち。
いったいなぜ降ってくるのか、彼ら彼女らは何なのか、そしてこの街は、この街に住む者たちは?
謎めいた世界で、完全な異世界物語かと思いきや、現実世界と実はつながっている。
ここはどこなのか、という問いに、ラスト一行でさらりと解答しているところが心憎い。
絶望の淵に沈んだ少年少女たちが、いつか救われることを願うばかり。

ほかに以下の作品が印象に残りました。
「星の降る村」(大島清昭)
「地獄の長い午後」(田中啓文)
「千年雪」(黒木あるじ)
「いつか やさしい首が……」(平山夢明)

超常気象 コウモリさん可愛い

以上になります。
次は漫画編、ノンフィクション編とまとめていきたいと思います!
(了)

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