偕老同穴

短歌と小説、TRPG、音楽性、サブカルチャーなど興味のままに発信していきます。

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マガジン

  • 手の鳴る方へ

    「手のなる方へ」をまとめました。

最近の記事

上海ハミングレモネード①

悪夢でも君の笑顔を見ていたい 失われた世界にて人類の記憶を再生する装置とかした私が言葉を吐き出す。 移動中の車両の中で、掌サイズの情報端末を熱心に見つめている。 彼らは人間だった。 1を知って10を知る能力に長けた彼らは、このように移動中の数分であろうとも情報を得るための学習を絶やさない。 ある者は会話と同時に、リアルタイムなメッセージのやりとりを行っている。 また、別の彼は動画学習を行ったりシュミレーションを繰り返している。 衛星との通信で、現在地の痕跡を絶えず残しなが

    • すべての感情に名前がついても

      すべての感情に名前がついても遠くの山を見つめる 誰かの死も日常の中に溶けていく 薄く引き伸ばされていく生も たしかにそこに残る カレンダーの印を見るたびに 思いだせない記憶をたどる ないはずなのに、そこにあるもの あるはずなのに、確かめようがないもの アドラー先生が「すべては主観ですよ」と言った これは誰に向けて発する感情なのか

      • 骸骨花束砂時計

        • あいつら全員同級生

          オリジナル隠匿系ゲーム『あいつら全員同級生』を企画中。 導入 あなた達は同窓会に来ている。 急に届いた招待状には、懐かしい名前が記されていた『蛸島まひろ』か。 あいつってどんな顔をしてたっけ? 招待された同級生の顔をみても名前はおろか、仲が良かったエピソードの一つも思い浮かばない。 とりあえず、適当に話を合わせながら思い出してみようかな。 この同窓会に来た本当の目的を果たすためにも、情報は集めておきたいからな。

        上海ハミングレモネード①

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        • 手の鳴る方へ
          2本

        記事

          なんでもない記念日にひとりでカレーを煮込む夜

          縁側のパキラ、丸みをおび祖母のハサミを箱からとりだす薬品の茶焦げの瓶に花が咲く。ビルの日陰に春迷い込む。日焼けした畳を返すと現れる隠しておいたテストの花丸 公園の遊具が撤去された日に残されていた歯車の花 平仮名の「ぬ」の字が書けたその日まで 犬が「いぬ」だと私は知らない 火傷にはアロエの葉だよと母が言う。チラシの裏に春を描いて なくなった実家の跡地の駐車場。あれが風呂場で、あれが床の間。 綴じ紐の祖父の詩集は達筆で、金剛力士の眼光鋭し

          なんでもない記念日にひとりでカレーを煮込む夜

          手の鳴る方へ 二

          祠にあった紙切れを元に戻した際に、もう一つ気づいた事がある。 地面に子供の靴の足跡が残されていたのだ。 さっきの少年よりも、さらに小さな足跡。 辺りが暗く、貴方のものかどうかは判別できなかったが、その可能性は高い。 スマホのライトで照らしてみると、その足跡は祠で立ち止まったあと、引き返すことなく奥に進んでいるようだった。 奥といっても、細い畦道が続いていくだけでその先に何かある訳ではない。 あまり気は進まないが、行けるところまで足跡をたどってみよう。 そのようなことを考え

          手の鳴る方へ 二

          手の鳴る方へ 一◯

          私は、今歩いてきた道を引き返すことにした。 貴方が居なくなった原因がどこにあるのか知らなければならない。 振り返るのは少し怖いが、後から後悔するぐらいならば、試せる事は試しておきたい。 振り返るとそこには、狐面少年が立っていた。 貴方よりも、背が高く、印象としては6年生くらいの体格をしていた。 「な、なんですか。私の息子に何かようですか?」 一呼吸おいてから、大人の威厳を保とうと勇気を振り絞って声をかける。 少年は答えずに首をふる。 「じゃあ、私に何か伝えたいことがある?」

          手の鳴る方へ 一◯

          手の鳴る方へ 一

          もう一歩も動けないと 貴方は両手を伸ばす その手に花束を握らせる それから私も両手を伸ばす 大事なものは決して 手放してはならない 夕闇の中で、貴方を見失う。 とても見晴らしのいい場所だった。 低い野山と、見渡す限りの田園が広がっている。 電柱すら少ない畦道では、これ以上暗くなると足下すら見えなくなる。 貴方は、基本的には、人見知り。 けれど人以外には興味を抱く。 虫であれ野うさぎであれ、動くものに心を動かされる。 そして、また人ではないものといえばこの世ならざる者との相

          手の鳴る方へ 一

          旧世界のティーパーティー

          良いところしか見ない君は優しい。一人のためにお茶を淹れる。 そのひとは全人類に好かれたいだけなんだわ。と妹はいふ。 歴史には残らない今を記憶する。春がくるたびに欠伸をしよう。 滅びゆく世界にすらも愛はあり、ビニールシートに横たわる朝。

          旧世界のティーパーティー

          花さか童子

          ちりぢりになったくも はんぶんうめられた とーますのひたい おうだんするありのむれ ゆびさきで すなをはらって えがかれる さくらのはなびらもよう そして にどともどらない じかんのなかで わたしによくにていた あのこはもう もどらないだろう あの日全知全能であった私が砂を撒くたびに桜の花が開いていった 陽光に目を細めて、見上げた雲がものすごいスピードで過ぎ去っていく 蟻達の歩みは相変わらず遅く、今やっと山脈の麓にたどり着いたようだ 一瞬が永遠のように引き伸ばされていく ま

          花さか童子

          漂流

          コントロールを失った船のように、私は自分が今どこに向かっているのかも分からないまま歩いている。 時には人の流れに身を任せながら、あるいは逆らいながら宛もなく彷徨っている。 サンダルのまま、アパートを飛び出して、荷物はいつもの小さなポーチに財布とハンカチと携帯電話。 けれど、家の鍵は持って出なかった。 なぜなら、今日から私の住む家では無くなったのだから。 最初から、住民票を移さなかったのはどこかで、私の居場所ではないという事が解っていたからかもしれない。 二人で買ったものは、大

          アスパラガスの焼ける音

          恋人と親友を同時に失った。 河原のBBQの帰り道で、二人が一緒にいるところを目撃した。 身体を密着させながら、口元に手をやる姿を見て、そういえば、親友はこういう仕草をする人だったなと冷静に思い出していた。 心より身体から繋ぎ止めていく術に長けていて、あたしには真似できない事だと感じていた。 恋人はといえば、どちらかというと女性経験には疎いほうで、真面目でうぶな性格をしている。 軟派な所はないが、隙はあるらしく、相手のペースに呑まれることが多い。 過去の恋愛遍歴について、問いた

          アスパラガスの焼ける音