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手の鳴る方へ 二

祠にあった紙切れを元に戻した際に、もう一つ気づいた事がある。
地面に子供の靴の足跡が残されていたのだ。
さっきの少年よりも、さらに小さな足跡。
辺りが暗く、貴方のものかどうかは判別できなかったが、その可能性は高い。
スマホのライトで照らしてみると、その足跡は祠で立ち止まったあと、引き返すことなく奥に進んでいるようだった。
奥といっても、細い畦道が続いていくだけでその先に何かある訳ではない。

あまり気は進まないが、行けるところまで足跡をたどってみよう。

そのようなことを考えていると、どこからか音がした。

パチパチと一定の間隔で手を叩いているような奇妙な音がする。

耳を澄ますと、私がこれから進もうとしている方角から聞こえているような気がした。

不気味な現象に、少し恐怖を感じるが迷わず進むことにした。

畦道は小さな小川に突き当たり、橋というにはあまりにも心許ない木の板をつたって向こう側にたどり着く。

そこからまたしばらく、一本道が続いていくと木材とトタンで作られた資材置場のような小屋が見えてきた。

扉などはないようで、覗きこめば中の様子をみることはできそうだ。

①中を覗き込む

②まずは周りの様子を見る






周囲の様子を伺うと先ほど歩いてきた祠の方から叫ぶ声が聞こえた。
「気をつけて!」
私はとっさに身構えたが、その声に驚いて走り去る後ろ姿が見えただけだった。
性別は分からないが異様に背の高い人物で、バスケットボール選手のようだなと感じた。

それからすぐ、資材置場から探していた息子がひょっこりと顔を出す。
「なにやってるの!探したのよ」
駆け寄って抱きしめるが特に怪我などをしている様子はない。
「ごめんなさい」
「急に居なくなるから心配したんだよ」
「助けてって声が聞こえたから」
「そう、それでついていったの?」
首を降る。
その表情は険しいままだ。
「ずっと聞こえてた。最初は大丈夫だよって声をかけてたんだけど、急に声がしなくなった」
「それは、あの祠の所?」
「うん、迷子になって帰れなくなったって」
「さっきの大きな人は?」 
「分からない。あの人はちゃんと人間だった」
「喋ったの?」
「隠れてた」
霊よりも、今は生身の人間のほうが怖い。
こんなところで、何をしていたのか。
迷子の霊と関係はあるのか。
何も解らなかったが、とにかく息子が無事に見つかったことに安堵した。
「迷子の子は、ここにいるの?」
「いるよ」
「わかった。さっきは助けてくれてありがとう」
息子の視線の先に向かって声をかける。
「あの祠がお家じゃないの?」
「違うみたい。あれは山の神様を祀っているんだよ。だから、神様にこの子を助けてくださいってお願いしたんだ」
「今度は山の神様まで出てくるわけね。とにかくあまり危ない事はなしないで」
「うん」
迷子の霊と、山の神様、長身の人影、どれも私が生きている平穏な日常とはかけはなれ過ぎている。
「帰ろう。ハンバーグは間に合わないけど」
「この子を連れて帰ってもいいかな」
「それはちょっと、問題あるんじゃないかな」
犬や猫ならまだしも、見知らぬ霊を連れて帰るのはどうかと思う。
「お願い。明日かならず送り届けるから。今日はもう遅いし」


①「たしかに、今から夜中に出歩くよりはそのほうがいいか」

②「霊を連れて帰るなんてあり得ない」









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