音楽は再会するためにある|さよならポエジー4th ALBUM「SUNG LEGACY」Release Tour『NO』|ライブレポート
「音楽は再会するためにあるんじゃないか」
4月に高田馬場CULB PHASEで行われた、4thアルバム『SUNG LEGACY』リリースツアーにおける最初の東京でのライブ。
ボーカルのオサキアユさんがMCで放った言葉が、ずっと心に残っていた。
あのときの言葉の通り、全国を巡るツアーの最後、東京に戻ってきて魅せたライブは、いっそう研ぎ澄まされた”さよならポエジー”の音楽とまた出会わせてくれた。
音楽に揺られながら、言葉を見つめたくなる
前回の東京公演と同じく、最新アルバム『SUNG LEGACY』のトップナンバーである「ボーイング」で幕を開けたライブは、曇天の空を振りはらうように、会場に漂う空気を一変させる。
風を切るような疾走感とともに「頬」が披露されると、アユさんの口から「津々浦々をまわってきて。ファイナル、やるだけなんで。よろしく」と、これまで積み重ねてきたライブの集大成を、ここでぶつけるという熱が肌から伝わってきた。
最新アルバムの収録順をなぞるように「抜殻」のギターのイントロが響くと、軽妙な言葉の言い回しが、心地よく耳に抜けていく。
その後、タイトなドラムから曲入りする「ノースロート」「understood」が続けて演奏され、人生の旅先に淡々と想いを馳せる「眩しいのは」が、ミドルテンポにあわせて快活に歌いあげられる。
ここまで一貫して『SUNG LEGACY』の曲が繰り出されていることに驚いていると、「この勢いでやるとすぐにアルバム曲がなくなる」と笑いを誘う。もう半分以上、演奏済みだった。
そんな束の間のMCを挟みつつ、続けて演奏したのは、静かに熱を帯びていく音と、秘めた闘志が剥き出しになる瞬間が印象的な「その一閃」。
〈時代よ 僕を選んでくれないか〉と叫ぶ歌声には、微塵も焦りは感じられず、むしろ達観した自信をも伺わせる圧巻の演奏を、目の前で見せつけられる。
「pupa」は無気力を積み重ねている毎日に、一矢報いるためのきっかけをくれる。荷物を軽くするだけに時間を費やす日々に、確かな一撃を与えてくれる。
曲が流れた瞬間、背筋がスッと伸びた気がした。
オサキアユさんが放つ言葉を聴いていると、ただ、音楽に揺らされながらも、紡がれる歌詞を通して、しかと言葉を見つめたくなる。
2ndアルバム『遅くなる期間』から、久々に披露された「chills」。鬱屈した想いが強く漂っているアルバムにおいて、よりいっそう、その煮詰まった想いが凝縮された楽曲。
しかし、その後に演奏される「夜に訊く」で、そんな濃度が高まった想いをかなぐり捨てるように〈それを知って僕は走り出す まだ間に合う気がしてる〉と歌う姿からは、あくまでも未来を見据える意思を感じさせる。
台風の影響もあったなか1000人以上が集まったフロアで、あらためて集まったファンたちに感謝を述べつつ、魅せるべきは演奏という姿勢は何よりも変わらないように感じた。
原点とも言える1stアルバムから「觜崎橋東詰に月」と「邦楽のススメ」が立て続けに披露されると、フロアは見るからに熱を帯びていく。
さよならポエジーの楽曲では珍しく、ベースの和音から始まる「二月の中を/February」は、サビの爆発にかけて淡々と響くアルペジオもさることながら、どうしても繊細に紡がれる歌詞を追ってしまう。
同じ文章構造で連想される言葉が続くなか、サビで〈誰にも頷かなくていい〉と叫ぶ歌声にハッとさせられる。
人や物事との「距離感」に疲れたときに、聴いてほしい楽曲だとあらためて思った。
変わらない軸があるから、変わっていくものを受け入れられる
2024年は現在、さよならポエジーにとっても転換点となる年になっている。
サブスクの解禁に始まり、これまでとは異なるジャケットでリリースされたフルアルバム、全国を巡るワンマンツアー。
ただ、いろいろなことを試しながらも「(飯にたとえるなら)自分たちの音楽は、熱心にかきこむものではないから。食べた瞬間に『うま…』とつぶやいてしまうようなライブがしたかった」と話すように、噛めば噛むほど味が出るような、さよならポエジーの音楽の軸となる部分には、一切ブレを感じさせない。
〈でもそれなりの才能で 俺は俺を救ってやろう〉と逆接から始まる「二束三文」で不屈の精神を燻らされば、「その復元」では〈もう一部始終をも忘れては また描き出す〉と自らの生き方を肯定するように歌いあげる。
そして、イントロから怒涛の轟音で駆けぬける「拘束のすべて」が鳴らされると、そこかしこで拳を突き上げる観客の姿が目に映った。
次に演奏された「Nuts」は、昔から大好きな曲。
1stアルバム『前線に告ぐ』の一曲目に収録されているこの曲を聴いて、このバンドの音楽をいつまでも聴きつづけていたいと思ったのだ。
ようやく聴くことができたと感慨深くなっていると、ドラムを打ちつける音が響くなか、ギターを持ちかえて「半分になった俺たちへ」のイントロが鳴らされる。
希望を見出せる曲が並ぶ新アルバムのなかでも、過去と訣別しつつ、過去に背中を押される前向きな姿が、特に印象に残っている楽曲。以前、ライブで演奏されたときから、さらに骨太な音へと変貌していた。
「自分たちがやりたいこと、思いついたことをやりたい」と主張しながらも、「ツアータイトルの『NO』は恩返しの意味。ひっくり返すとON(恩)になるから」と、友人やスタッフへの感謝も含めて、ファンへの想いを体現したライブだと明らかにする。
その想いは、楽曲からもひしひしと伝わってくる。
すぐじゃなくても、死ぬまでの間に自分たちの音楽を見つけてくれればいいと想いを込めた「絶滅の途中で」は、成長を促されては急ぎすぎる人々の溢れ出す心を、そっと堰き止めてくれた。
〈君なんて何処にでも居るようで居ないさ〉と、さりげなく鼓舞してくれる歌詞が並ぶ「そう」は、何者にも成れないのではないかと自問自答する日々に、確かな火を宿してくれた。
そして、新しいアルバムの最後を結ぶ「きずかないまま」。この曲は、何も「築きあげてない」人の歌だと、オサキアユさんがインタビューで語っている。
それでも、これから築きあげるだろう、確かな輪郭をなぞるポジティブさをまとう曲は、ライブの最後に眩いほどの光をもたらしてくれた気がした。
アンコールで再び姿を現した3人。
「明日のあなたに向けて」と最後に演奏された曲は「前線に告ぐ」。
現在地から原点に戻ってきて、それでもなお新しく響くサウンドは、懐かしさのなかに潜む「変化」を露わにしているようだった。
けれど、さよならポエジーには変わらない軸がある。歌われた遺産を抱えながら、この先もずっと鳴らしつづけてくれる、確信のある軸。
また観られる日まで、他愛のない日常を、つつがなく過ごせますように。
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