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歌詞の世界観を創る情景描写

歌詞の世界観を形作るものは沢山あって
情景描写もその一つ。

曲を作る人にとって、歌における想いを言葉で表す部分が歌詞であり、その歌詞に自らが作る世界観を投影させる。

テーマを携えて曲が作り上げられる場合もあれば、音に合わせてリズム良く言葉を並ばせる曲も存在する。しかし、近年では小説や映画のような、歌にストーリーを忍ばせる曲も見かけることが多い。

そして、そう言った物語になぞらえて描かれる歌詞には、ストーリーとは別に情景が描写されるような言葉が差し込まれていて、その情景描写にこそ曲の世界観を形作る個性が詰め込まれていると自分は思っている。


ストーリー性の強い「BUMP OF CHICKEN」の楽曲たち

いわゆる物語を曲に投影する楽曲を作るパイオニアとも言えるのが、今もなお、第一線で活躍するロックバンド「BUMP OF CHICKEN」だ。

錆び付いた車輪 悲鳴を上げ
僕等の体を運んでいく 明け方の駅へと

車輪の唄

冒頭からストーリーの背景を繕うように、繊細に描写される世界観が現れる「車輪の唄」という楽曲。

電車に乗って旅立っていく「君」と、想いを伝えられず自転車で駅まで送っていく「僕」の離れ合う二人の関係を、たった二行の文章で描いている。

特に「錆び付いた車輪」という言葉は、この曲の世界観を司るがごとく何度も歌詞に登場しては、別れたくない「僕」の心情を代弁するように歌われる。

線路沿いの下り坂を 風よりも早く飛ばしていく 君に追いつけと
錆び付いた車輪 悲鳴を上げ 精一杯電車と並ぶけれど
ゆっくり離されてく

車輪の唄

最初に登場した「明け方の駅」という言葉で、彼らの別れ合う舞台を脳内に思い浮かべさせた上で、さりげなく添えられる情景描写がすんなりと世界観に溶け込んでいて、作詞作曲を手がけるGt.Voの藤原基央さんの巧みな描写が際立つ。

「BUMP OF CHICKEN」は他にも沢山、ストーリー性の強い楽曲を生み出しているので、気になった人は聴いてみて欲しい。

ボーカロイド曲の「非現実」を描く情景描写

また、ストーリー性の強い楽曲と聴いて思い浮かべるのが、いわゆる「ボカロ曲」として世間で浸透している楽曲たち。

自由自在な音楽性と独自の映像を通して紡がれるストーリーは、当時、若者の心を鷲掴みにし、空前の「ボカロ」ブームを巻き起こした。

もはや「音楽」「物語」の境目が曖昧となり、ストーリーありきとなってしまいがちな曲も散見される中で、特に独自な世界観を楽曲で創り上げていたのが、今は「米津玄師」として活動する「ハチ」さんが作る楽曲たちだった。

現在における活躍は言わずもがなではあるけど、「ハチ」名義で制作された楽曲たちからは、彼が想像する唯一無二の世界観が鮮明に写っている。

この「WORLD'S END UMBRELLA」という楽曲では、地を覆うように立てられた巨大な傘の下で、陽の光を浴びぬまま、永遠に降り続く雨に包まれた街から抜け出そうとする男女の逃避行が、綺麗なアニメーションとともに描かれる。

あのが騙した日 空が泣いていた
街は盲目で 疑わない
君はその傘に 向けて唾を吐き
雨に沈んでく サイレン

WORLD'S END UMBRELLA

Aメロとなる最初の言葉の羅列だけで、彼らが居る場所に抱く複雑な想いと歌の世界観を作る「雨に囚われた場所」を聴いている人にイメージさせているのが素晴らしい。

さらに、歌詞に登場する「盲目」「唾」「サイレン」と言った言葉は、どこか今の現状に対する反抗心を表しているような気がして、一つ一つの何気ない言葉に意図を感じられる。

白い影はもう追ってこなくて
とても悲しそうに消えた
錆びた匂い煤けた黒さえも
やがて色を淡く変え

何処からか声が聞こえた様な
気がした様な 忘れた様な
螺旋階段の突き当たりには
とても小さな扉が を纏い待っていた

WORLD'S END UMBRELLA

特に、Cメロにあたるこの歌詞には、現実離れした「傘に覆われた世界」のイメージを強固にするようなワードが沢山散りばめられていて、自分はいつの間にか物語の中に入り込んでいるような気分にさせられた。

米津さん「世界観を壊さない言葉」「違和感を持たせない言葉」の歌詞への入れ込み方が抜群にうまいので、ここまで「非現実的」な世界を音楽の中で構築できるのかもしれない。

二つのテーマを繋げて世界観を創る

先程の「ハチ」さんの楽曲よりも、さらに連続したストーリーを一連の楽曲に落とし込んで、「ボカロ」ブームを引っ張っていたのがじん(自然の敵)さんだった。

特に、この「カゲロウデイズ」という楽曲の人気は凄まじく、10年以上前に投稿されたにも関わらず、歌詞に登場する時間軸である8月15日には再生数が著しく伸びるという異常な現象まで起きている。

そんなこの曲では、茹だるような夏の日に起きてしまう悲劇的な出来事を何とか食い止めようと、繰り返し立ち向かう少年が主人公となって物語が紡がれる。

落下してきた鉄柱が 君を貫いて突き刺さる
劈く悲鳴風鈴の音が 木々の隙間で空廻り

カゲロウデイズ

曲がサビに入って衝撃的な描写が目立つ中でも、曲の世界観に違わないように綴られる言葉が自然と混ぜられているのが印象的。

トピックとして挙がっているのは
「茹だるような夏」「悲劇的な出来事」

この二つのテーマをリンクさせるように、キーワードとなる言葉が歌詞上にいくつも重なり合っている。

血飛沫の色、君の瞳と軋む体に乱反射して
文句ありげな陽炎に「ざまぁみろよ」って笑ったら

カゲロウデイズ

この歌詞では、真っ赤な血の色が鮮烈に広がっていく様子が鮮烈に描かれていて、一瞬で不快な暑さが纏わりつく夏に迷い込んだ気にさせられる。

割と難しい言葉が散見されるにも関わらず、ここまで物語の中に聴いている人を引きずり込むことができるのは、やはり情景描写の巧妙さと言葉の選別が素晴らしいんだろうな。

最後に

楽曲を聴いていると、時折、印象的な言葉が耳に残ることがある。

それは、曲の根幹となるテーマに関する歌詞であることもあれば、曲の本筋ではない脇に転がっているような言葉であることも。

むしろ、そっちの方が多いかもしれない。

もしかしたら、伝えたい想いや感情では無いのかもしれないけれど、そう言った一つ一つの言葉やワードを歌詞に登場させた理由を考える時間は、自分にとってはとても有意義な時間になっている。

そんな訳で、世界観を形作る情景描写は、小説を読んでいる時と同様に、物語に入り込む隙間を与えてくれるような気がしているので、これからも楽しみに歌詞を見ながら音楽を聴いていたいなと思う。

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