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気づかないような隙間に咲いた花 来年も会いましょう~読書note-28(2024年7月)~

フェスに行きたいが、そんなお金も余裕もなく(行こうと思ってたロッキン25周年のひたちなか9月開催のチケットも申し込まず)、今年も家でフジロックのアマプラ配信を見た。大好きなくるりの岸田がMCで「今日は友達や恋人や家族とここに来たかもしれないけど、元来、人は皆孤独で、それに寄り添い、一緒に走ってくれるのがROCKだと思う」と話してた。

東京でTV番組のADとして孤軍奮闘しているくるりファンの次男と、日々資金繰りに追われ独りで苦しむ吾へのエールかよと、思わず、涙がこぼれた。また、次男とフェスに行きたいな。

7月も前半にEUROとコパアメリカがあったので、3冊止まり。今年の盆休みは長くなりそうなので、たくさん本読もう。



1.笑うマトリョーシカ / 早見和真(著)

読みたいと思っていた作品が映像化される時は、原作を先に読むというのがマイルールだ。5月に本屋で早見さんの「新!店長がバカすぎて」を買った際、これが7月にドラマ化されると知ったので、ドラマは録画しといて、原作読み終わったら見ようと思ってた。しかし、すっかり録画予約し忘れてしまい、慌ててTverで第1話を見て、急いで原作を読む。

47歳で官房長官となった若き政治家・清家一郎、それを陰で操っていると言われる高校時代からの親友で秘書の鈴木俊哉、その二人の関係性と背後の闇を暴こうと取材する東都新聞の女性記者・道上香苗が主人公で、主に鈴木と道上の視点で物語は描かれる。ドラマでは水川あさみ演じる道上が主人公として、物語が進んで行くが。そして、そこに清家の母や元恋人ら清家を陰で操っていると思しき他の人物達も絡んでくる。

政治家は表向きの姿と実際の中身は違うものだとは、自分も何人もの政治家と会ってきているのでよく分かる。その「政治家を演じる才能」がズバ抜けている人物と出会ったなら、誰もがそのシナリオを書きたくなるものなのか。ほんの少し前、世間を騒がしていた都知事選の候補者達もそうなのかなと思えてくる、ちょっと怖いミステリー。

でも、実際の政治家って、秘書と離れて出席する会議(委員会等)や会合も多いので、全ての言動を指示通りに実行させるのは難しいだろう。政治家自身にも考えや思いがある訳だし。この小説の清家一郎も、己の意志が無さそうに見えて、実は...。誰かを思い通りに操るって、出来そうで出来ないものなのだよ。


2.黒牢城 / 米澤穂信(著)

3年前の受賞時にめっちゃ読みたいと思った直木賞受賞作が文庫化されたので速攻で購入。米澤さんの著書は初めて。戦国時代が舞台の小説は、大河「麒麟が来る」が凄く良かったので明智光秀に興味を持って3年前に読んだ、真保裕一さんの「覇王の番人」以来か。

天下統一へと破竹の勢いで突き進む織田信長に反旗を翻した荒木村重が主人公。村重は有岡城に立て籠もり、信長に下るよう説得に来た黒田官兵衛を幽閉する。そんな信長と対峙し危機的状況の村重の元(有岡城内)で、次々と難事件が起こり、牢にいる官兵衛の知恵を借りながら解決していく。

この二人の武将には何となく「知将」というイメージを持っていたが、何をなした人物なのか詳しくは知らない。でも、戦国時代屈指の切れ者である二人の謎解きが、籠城戦の最中という場違いな状況であるはずなのに、それが家臣たちの求心力や信長への対抗力に繋がっていくのが面白い。最初は歴史小説特有の読み進め辛さを感じていたが、途中からこの二人だからこそ分かり合える世界にグッと引き込まれて、一気に読み進めた。

主君である村重を取り巻く妻や家臣たちにも、それぞれのお家の事情、歴史的背景があり、ましてや牢の中の官兵衛にも。幾重にも絡み合う戦国歴史小説のドラマティックな所が、単純なミステリーに輝きを増してくれる傑作だったなぁ。これが、歴史小説と本格ミステリの融合ってわけか。

それにしても、6月に再来年の大河が「豊臣秀長」に決まった時、「また戦国かよ!!(去年、家康やったばっかじゃん)」って思ったけど、三英傑だけでなく村重や官兵衛のように魅力的な脇役も多数いた時代だったので止むを得んなぁと。


3.重力ピエロ / 伊坂幸太郎(著)

伊坂作品は5月の「ゴールデンスランバー」に続いて2作目。あの躍動感がたまらなかったので、本作も期待したが、まぁ、とにかく設定がとんでもなく重いんだよなぁ、東野圭吾作品ばりに。

遺伝子情報を扱う会社勤務の兄・泉水、街の落書きの清掃業を営む弟・春、どちらも英語にすると「Spring」の兄弟の物語で、兄・泉水の目線で描かれている。春は母がレイプ犯に襲われた時の子どもという、辛い宿命を背負って生まれてきた。春を産むという選択をした父と母、春を弟として受け入れた泉水、家族皆が何の罪もない春を温かく支えて生きてきたのだった。

二人が住む仙台市内に連続放火事件が起き、火災現場の近くには謎のグラフィックアートが描かれていることを春が突き止める。癌で入院中のミステリー好きの父もその謎解きに加わろうとするが、兄弟は本格的に事件の解明と未然に防ぐための行動に移す。放火とグラフィックアートの場所には、遺伝子のルール(法則性)と関連があるのだった。

最後の展開は、まぁ途中から想像していたものだったので、少し拍子抜けの感あり。ガンジーの言葉始め、数々の引用をすんなりと受け容れられるかどうかが、この小説(著者)を好きになるか嫌いになるかの分かれ道かも。自分がもし小説を書くとしたら、こんなスタイリッシュな文体と洒落た引用を書きたいと思うので、多分好きなんだろうなぁ。


ひとりぼっちの俺には、本とROCKがある。すぎてゆく退屈な毎日の中に、ちょっとした幸せを見つけ生きてゆくよ。


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