九色 妙

ロシア語の講師をするかたわら趣味でエッセーや短編小説を書いています。ロシアがソ連と言わ…

九色 妙

ロシア語の講師をするかたわら趣味でエッセーや短編小説を書いています。ロシアがソ連と言われた時代に住んでいました。食べる飲むが好きすぎて体重増加に悩む日々。基本インドア派です。

最近の記事

レッスン部屋以外の世界を知らない

 ズームという便利なツールの爆発的ヒットは、語学教師の人生を一変させた。世の中のオンラインレッスンブームでスカイプ、チームズ、ズームいろんなプラットフォームがレッスンツールとして登場した。  千冬はパラジソ語の講師だ。パラジソ語を習おうという生徒は多くはない。パラジソ国と取引がある企業や団体もそうたくさんはない。よほどの要件がない限り習う人がいないので、オンラインレッスンが主流でなかった頃は千冬は企業へ出かけていって研修を請け負っていた。  しかし、今は都内の語学学校が会

    • ホームレスの恩返し

       新宿駅の構内に暮らす男の一人に知る人ぞ知る『勉鬼』がいた。その男はリュックサックひとつとブルーシートしか持っていないが、いつも手には「NKH ロシア語講座」のテキストが握られていた。むさくるしく伸びた髪の毛が肩にかかり、前髪は帽子の中に収まっている。カーキ色のジャンパーが彼の一張羅なのだろう、古びてはいるがよく洗濯され清潔に保たれていた。  ホームレスはその風体から年齢を推察するのがちょっと難しい。だが、よくよく観れば、50才前後に見える。  麻子にとっては新宿駅構内は通

      • 次点!惜しい!

        敗者復活文学賞 第10回 作品ページ (info409082.wixsite.com) この文学賞で次点を取りました。 応募者が他作品を全部読んで1票入れる形式です。次点でした。 129番です。是非読んでください。

        • ハネムーン

          蜜月旅行  札幌中央図書館の裏庭のベンチに腰掛け、俺は、お父さんと小さな息子が楽し気にキャッチボールをしているのを眺めていた。ふと、藻岩山の頂きに目をやると、山肌を覆う青々とした新緑と空が溶け合う境い目には暗雲が垂れ込めている。  涙がとめどなく流れた。なんでだよ! 思わず、口にしたその時、スマホが鳴った。それは、俺が前日ツイッターに流したつぶやきにコメントがついたことを告げる通知音だった。 俺は北海道札幌生まれの20歳。大学の工学部でシステムエンジニアを目指す平凡な男

        レッスン部屋以外の世界を知らない

           スィートアリッサム

          たけしのお母さんは家を出ていった。お父さんは無口で、お母さんと会話がなかった。お母さんはうんざりしたのだ。たけしはお父さんとの会話のない生活を我慢していた。 むしゃくしゃして学校に行くと、どうしても同級生と上手くいかない。今日も女子にやり込められた。お母さんのこともあるから、女子が大嫌いだ。 その日もむかついて下校したら、五年生の男子が前を歩いていた。見たことはあるし、名前はヒロシだ。足が半ズボンからスラっと伸びている。背中のランドセルが小さい。たけしは気まぐれで彼のあと

           スィートアリッサム

          『阿寒に果つ』

           渡辺淳一の『阿寒に果つ』を読み返してみた。随分昔に読んだこの小説がもう一度読んでみたくなって取り寄せた。  中公文庫から出ているこの小説はけっこう分厚いけど、あっという間に読める。  渡辺淳一氏の初恋の女性がモデルになっている私小説であるが、主人公の田辺俊一が、当時は一面しか見ていなかったからと、水晶の六面を完全にしていこうと純子が関わった男達に話を聞きにいくという話。実際に札幌の美術界に鮮烈にデビューしてからのこの純子という女性が多くの大人の男達に残した爪跡というのは

          『阿寒に果つ』

          Фестиваль Танабата

          Зазвенел телефон. Юки поняла, что пришло смс сообщение. Прочитав его, она улыбнулась. - Юки Сенсей! Здравствуйте!! Как дела? Сегодня я поставлю бамбуковые ветки на «Танабата (Фестиваль двойной семёрки)» вместе с бумажками-пожеланиями. А у в

          Фестиваль Танабата

          チェーホフをフィーチャーしたい!

          チェーホフを知ってほしい!が為の小説です。ロシアの作家アントン・パーブロヴィチ・チェーホフの生涯は44年でしたが、多くの作品を残しています。 優れた劇作家として認識されていますが、私は、彼の短編が好きです。 あらすじ 北海道生まれの北海道育ちの男子と鹿児島生まれ鹿児島育ちの女子がSNSで知り合った。二人の共通点はロシアのある作家が好きだって言うこと。 文学談義はどんどん二人の恋心に火をつけてゆく。 顔も見たことがない二人が真剣にお互いを好きになっていった。 でも、お互

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          ゼロ線

          В июне этого года я познакомилась с одной семьей из Латвии. Я сопровождала их во время экскурсии по Токио. Но, в Токио в этот день был дождь.... Они меня попросили: «Йоко сан, давайте поедем в военный музей» Речь шла о музее «Юсю-кан» в св

          長崎の鐘

          皆さん、こんにちは! 今日は日本語を学ぶ皆さんとご一緒できて大変嬉しいです。今日の交流会へご参加くださりありがとうございます。 Здравствуйте, дорогие друзья!! Мы так рады тому, что мы собрались вместе с украинскими японистами. Огромное спасибо за то, что вы приняли приглашение на сегодняшнюю дружеску

          私の長崎紀行

          こんにちは!  皆さんは長崎というと何を思い浮かべますか?原爆ですか?出島、カステラでしょうか?  一番の観光地はグラバー邸です。グラバーはスコットランドの商人で、明治維新にある種の影響を与えた人物です。彼は横浜にもゆかりがあります。グラバーは岩崎弥太郎のキリンビール創設を助けたと言われているのです。  長崎に最も人が訪れるのはおくんちという蛇踊り祭りが行われる時だそうです。この祭りはかなり政治的な理由で発生しました。長崎にはキリスト教が広まったので現地政府は鎖国政策をとる

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          ロシア語のことを語りました。

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          もっと緑茶を飲みましょう。

          Здравствуйте, дорогие друзья! Какие напитки вы предпочитаете? Чай или кофе? Или может быть зеленый чай? Сегодня хочу с вами поговорить о японском чае. Сбор чая начинается в мае спустя 88 ночей после весеннего равноденствия, как поётся в п

          もっと緑茶を飲みましょう。

          エンドレスゲーム

           連城三喜彦の『飾り火』(新潮文庫)を読んだ。  山下達郎の『エンドレスゲーム』をたまたまYouTubeで聞いた時、この切ない世界観を表現させたテレビドラマはなんというドラマだと調べてみると、昔々、紺野美沙子がテレビドラマで悪女役をすると話題になっていたあのドラマと思い当たった。篠ひろ子、林隆三、TMNetwork の宇都宮隆が出ていた『誘惑』の主題歌だった。私もOL時代だったろうか、観たことがある。当世風に言えばダブル不倫の話だ。  そして、その原作が、『飾り火』だ。不

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          銀杏物語

          #私の作品紹介 あるイチョウの木がありました。今は少し年をとってしまったけれど、昔は、それはそれは輝いていて、大きく豊かな枝ぶりをしていました。    みあげる人たちを優しく見おろす立派な大木だったのです。 イチョウが輝いている秘密はひときわ大きな1枚の葉にありました。それはイチョウの女王と謳われたとても美しい一枚の葉でした。   心優しい女王は、従えるイチョウの葉たちに慕われていました。自分の下に連なる葉たちをいつも励まし、心の温かくなる言葉をかけるのが、女王自身大好

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          珈琲と語学講師

          #私のコーヒー時間  「ブレンドお願いします」、そう言って、私はその珈琲ショップで一番安い珈琲を頼んで席に陣取る。珈琲ショップで待ち合わせて私は、生徒にロシア語を教えるのである。  珈琲好きの私だが、喋りっぱなしで美味しい珈琲を楽しむ余裕がない。珈琲はいつも冷めてしまい美味しくも感じないので一番安い珈琲で済ませてしまうのだ。  中学生にロシア語を教えていたことがあった。その子との待ち合わせはいつも駅ナカの珈琲ショップだった。その子は珈琲さえ頼まず、「先生、こんにちは

          珈琲と語学講師