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短歌と文「 せぼね 」


女子という記号からはみだすゆるふわカール

履き初むるハイヒールの下まだ硬い ヒール部にわたくし性を隠す

サークルの勧誘の列をかき分けながらまあたらしいヒールの下に隠しているもの

笑ってるきみのまなこのその奥のかすかな硬い鉱物のひかり

王子さま糸つむぎ上手い姫をもとむそれ意味あるのかい トムチットトット

unconditional loveがほしいといいだせば姫のしあわせ崩るる音のす

(当てられるものなら当ててみよ)うっかりものの悪魔の名前のその奥の名など 

トムチットトットならぬ身なれば教えざる ヒールの中身はわたくしの背骨



         ・・・・・・



トムチットトットという昔話がある。

むかしむかし、ある国の王子が、
美しく、ちょっとそそっかしく、糸つむぎが上手いという娘を見初めて、お后にむかえた。

勤労をよしとする国民性の模範となると考えたのだ。

じつはその娘はそんなに糸つむぎが上手くはないが、軽い気持ちで見栄を張ったのだ。

王子さまとの結婚後、お后となった娘は、
民の手本となるように、塔にこもって、糸つむぎをするよう言い渡される。王子は別に悪気があるわけではない。糸つむぎが得意という娘の言ったことを頭から信じたまでだ。

さあ大変、大量の糸が出来上がるまで、娘、もとい、后は塔からは出られない。

娘が大量の糸紬ぎのノルマに困っていると、悪魔があらわれる。俺の名前を当てられたら、糸を全部紡いでやる、と誘惑する。ただし名を当てるチャンスは3回だけ。当てられなかったらお前の魂をもらうというのだ。

ふかく考えないところのある娘は、3回もチャンスがあれば、1回くらい当たるだろうと、その危険な約束をしてしまった。

さて、2回悪魔がやってきて、名前を当てるチャンスは2度あったのに、当たらない。
のんきな娘もさすがに焦り始めた。

最後の1回を前にした夜、娘はおびえていたが、偶然、目撃した。悪魔がすごい速さで糸を紡ぎながら、おれの名前はトム・チット・トットさと歌っているところを。なんと運がよいのでしょう。これで助かった、と娘。

翌日、邪悪な期待に満ちた悪魔がやってきたが、悪魔の名を当てることができ、事なきを得て、悪魔は悔しがりながら退散した。

娘は国民に愛され、王子様とともに幸せにくらしましたとさ。

というおはなし。


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