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キッズも楽しい!LGBTQ+イベント「グラデーションキャンパスin関東」に娘と行ってきた

※本稿は個人のプライバシーに配慮し画像に加工を施しています

小一の娘が、スキャンダルを報じてきた。
「この前ね、Tくんがね、学校でね、男の子にいきなり口にちゅーされたんだって」

ほほう。そりゃまた随分とトキメいちゃう公立小があったもんだ。笑いながら聞いている私に、彼女はこう続けた。
「男の子にだよ?」
おかしいでしょ?と、同意を求めてくるような表情だった。あ、そっちでしたか。

公教育の現場でちゅー。同意なしでちゅー。段階を踏まず本丸にぶちゅー。
ケシカランことのあるところに、ドラマあり。ラブストーリーはたいてい、いつも突然だ。

むしろ私が引っかかったのは、最後の一言だった。
「男の子同士でちゅーって、そんなにおかしいことかな」
私の一言で、娘はYouTubeへ視線を戻した。パパのリアクションが、思っていたのとは違かったのだろう。パパはいつもメンドクサイ。

「今度、イベント行ってみよっか。君より少しだけお姉さんとかお兄さんがやってるイベント」
「興味ない」
「わたあめ食べられるよ?」
「行く」
そうして私が誘い出したのは、グラデーションキャンパスin関東というイベントだった。9月最後の日曜日。そこで何を感じるかは、彼女の自由だ。

グラデーションキャンパスin関東の主催は、『わたプロ』という学生団体。
ジェンダーやセクシュアリティに関心のある大学生や院生などが集まり、その領域での地域活性化に取り組んでいるという。メンバーには中学生もいるらしい。スゲッ。

このイベントは彼らの取り組みである『わたがしプロジェクト』の一環で、団体名もそこから転じたもののようだ。
若いセクシュアルマイノリティーの居場所づくりや、情報発信を行うことを目的にしているらしく、これまで滋賀県や福岡県でも回を重ねていた。今回は神奈川県。象の鼻パークという、横浜観光といえばココ!での開催だった。

会場に着くと、元気な青空が広がった。遮るものが何もない。潮が香る秋風に、娘のTシャツがフワリと膨らんでいた。

驚いたのは、子ども連れの家族が多かったということだ。ほとんど、と言っていいかもしれない。これはかなりの予想外。

しかし、それもそのはず。イベントにはスタンプラリーが用意されていて、コンプリートすると綿菓子やカキ氷がもらえるのだ。
スタンプラリーとお菓子は、子どもレジャーのS極とN極。その磁力に抗えるキッズなどいない。しかも無料。保護者もこぞって引き寄せられるのは、ごく自然なことだった。

しかも集めるスタンプには、このイベントならではの工夫があった。すべてアルファベットなのだ。しかも10種類と、数もまあまあ多い。謎。私は、これらが何を意味しているのか、さっぱり見当がつかなかった。
「これは何のアルファベットですか?」
受付でうかがうと、担当の方がスタンプシートの裏を見せて教えてくれた。すべてSOGIE、つまり性自認や性的指向に関する用語の頭文字なのだという。あーなるほど。
しかも明るいイラストと平易な解説つき。小学高学年なら、おおよそ理解できるんじゃなかろうか。いろんな人がいることが、パッと視覚的に伝わってくるのもいい。

シートの末尾には
「 たくさんある「性」ですが、まだまだあるんです!そして、これからも増えていきます。でも、難しくとらえる必要はありません。スタンプラリーを通して、「たくさんあっておもしろい!」「私は?」と興味を感じていただき、「知らないなぁ」が「ちょっと知ってる!」になれば幸いです。 」
とあった。
トランスジェンダーの定義など、おいおい補足が必要になりそうなものもあるけれど、そこは入門編。厳密な理解は、意識や知識が備わってからでもよいのでは。まずはきっかけを、と考えれば、良心的な書き振りだとすら感じた。

良心的といえば、運営の学生さんたちがとにかく親切だった。最初こそドギマギしていた娘も、すぐに氷解した。
みなさんがくれるヒントを頼りに、宝探しよろしく隠されたスタンプをアチコチ探索。ゲットだぜ!と言わんばかりに、体重全のっけで力いっぱいシートを埋めていた。
「これで全部そろった!わたあめ行くよ!」
はい。S極とN極が今ひっつきました。

もちろん、イベントのお楽しみはスタンプラリーだけではなく。ステージでも、豊富なプログラムが用意されていた。
ビンゴ、クイズ、プロの歌やモノマネ、トークセッションなどなど。どれも、楽しいと正しいを両立させようという試行錯誤が見てとれた。そういえば私たちが到着した時も、アカペラグループのハモりが風にのって聴こえてきたっけ。

言うまでもなく、観客は「これ何のイベント?」な一見さんばかり。赤の他人をノセるのは想像以上に難しく、結婚式の余興とはわけが違う。
しかし、あれほど綿菓子にご執心だった娘が
「お父さんは並んどいて」
と、景品引き換えの列をあっさり離れ、ひとり観客席へ向かっていった。小一が親そっちのけで観たくなるステージだったということだ。

とくに娘は、モノマネショーで手を打って笑っていた。パフォーマーは、自身もマイノリティ当事者だと挨拶していた。運営の学生さんたち中にもおそらく、いたんじゃなかろうか。
子どもは最恐の観客。秒で場の真贋を見極め、分でシラケる。剥き出しのリアクションは演者のみならず、裏方まで無差別に切り裂く。Honest is beast.
だから、娘があれほどテンションを上げたということは、演者・裏方一丸となった本気が勝利した、ということだ。みなさん、ありがとうございます!

私は帰りの電車で、娘の様子をうかがった。
「さっきのモノマネのお兄さん、面白かったよね」
「うん。面白かった」
「ね。あの人、男の子のことも好きになるって言ってたね。ちゅーしたりするかもよ」
「ふーん。でもバイキンマンのマネは似てたよね」
娘は私にニコっと笑いかけた。私も笑い返した。何を感じたかは、彼女の自由だ。しかしとりあえずは、彼女の「それもアリ」が一つ増えたらしい。薄皮を剥ぐように、しかし確実に、彼女の世界は広がったことが嬉しかった。それにしても、でも、の使い方が斬新。

ジェンダーやセクシュアリティは、長い人生の中で移ろう。性に関することに限らず、生きている限りはどこかで必ずなんらかのマイノリティになる。すでに、の可能性だってある。彼女は何のマイノリティなのだろう。あるいは、彼女の友だちは?

その時「それもアリ」だという実例を、子ども自身が、メディアからではなく経験として知っているかどうか。
大人が「それもアリ」「そういう人、たくさんいるよ」と言えるのは、死活問題といえるほど重要ではあるけれど、保護者や先生よりも自分に近い歳の人たち、つまり先輩の存在は別格な気がする。

イベントにいた彼らは、娘の教材ではない。承知しているつもりだ。
しかし小一といえど、学生であることに変わりなく。彼女があそこで生きた視点を獲得するのは、イベントの主旨にも合っているはずだった。
そして生きた視点は、出会いによってもたらされる。できれば、楽しかったり、未来の自分に重なるような人との記憶とセットがいい。
そして、いた。あそこには、たくさんいた。想像以上だった。

私たちは、去年今年と東京レインボープライドに行った。そこで感じたのは、やはり大人向けのイベントだな、ということだった。
本当は、子どもにこそ知ってほしいことがたくさんあるのに、だ。
その点、このグラデーションキャンパスはファミリーフレンドリーで、キッズフレンドリー。テンション高めで、ハードル低め。

そもそもこの『わたがしプロジェクト』。レインボーカラーの綿菓子とご一緒に、LGBTQ+に関心のなかった人にも性の多様さを考えるきっかけを、ということで始まったものだという。
なんで綿菓子?と思っていたけれど、そういうことか。そのポップさがいいのだと納得した。綿菓子食べながらSOGIE学んだっていいじゃない。

だから私は行ってよかった。間違いなく。
「氷なくなった!」
「スプーンきれた!!」
「綿菓子マシーンが過労死状態!!!」
運営のみなさんはテンテコマイだったみたいだけど、それだけ盛況だったということでもある。お祭りはそうこなくっちゃ、でしょ。お客だって怒りゃしないさ。

ということで、来年も続けてくれないかな。きっと私たちは行くだろう。もしかすると、娘が進学を検討する年頃になるまで恒例行事になったりして。多様性を知ることは、いろんな人のリアルを知ること。そして、未来の選択肢を増やしておく、ということでもある。ジェンダーやセクシャリティに限らないけれど、「それもアリ」は多いほうが楽しいに決まってる。
そんなことを早くも考えながら、電車に揺られていた。娘は、祭り疲れで爆睡していた。

帰宅後、会場でもらったパンフレットを開いた。そこには、こんな団体代表のメッセージがあった。
「私たちが取り組んでいるのは、LGBTQ+というマイノリティの問題ではなく、孤独や不安に苦しむ若者の命の問題です。SOGIEを理由に命を絶つ若者をゼロにします」

私が会場で『わたプロ』のロゴを撮らせてもらっていた時。
スタッフの方が
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と繰り返し言ってくれたことを思い出した。
こちらこそ、ありがとうございます。私は彼の目を見て、ちゃんとお礼を言えていただろうか。

あの笑顔を、私はきっと一生忘れない。

(終わり)




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