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#2 エジプト珍道中 飴玉少年

一枚の写真を見てほしい。

注目してもらいたいのは、年季のはいった赤と黄色のパラソルでも、その下で買い手を待つ鶏でもなく、左端にいるバイクにまたがった少年だ。満面の笑みをうかべているが、ほんの数秒後、この少年は大号泣することになる。

この写真は、「靴を瞬時に記憶する男」が門番をつとめるモスクから、観光客を相手にした土産物屋が集まるハンハリーリ市場へと抜ける通りにある、地元の人が多く集まる市場を歩いているときに撮った一枚だ。じゃがいも、トマト、茄子などの野菜や、バナナ、オレンジ、すももなどの果物、エジプトでよく見る平たくてまあるいパンなどが、次々と山盛りに積まれていて、眺めているだけでも飽きない。

先ほどの少年をもう一度見てみよう。足を大きく開いてバイクにまたがった少年の、意気揚々と掲げられた右手には、両端をくるくるとねじったオレンジ色のビニール袋に入った飴玉が握られている。どうやら、誰からかはわからないが、少年はこの飴玉をもらって、白い歯を見せているらしい。

シャッターを切ったときはそれほど気に留めていなかったのだが、いったん通り過ぎた後、なんか騒がしい気配を感じて振り返ると、つい先ほどまであれほどごきげんだった少年が、バイクから引きずり降ろされ、顔をくしゃくしゃにして泣き叫んでいた。周りの人たちがいったい何事かと振り向くくらい、大きな声をあげながら。

少年のとなりには、肉付きのいいがっしりした体格の母親らしき女性がいて、堅く結んだげんこつで少年の頭をひっぱたいている。ごつん! という衝撃がこちらに伝わってきて、思わず目をつむってしまうくらい、思いっきり。

誰かから勝手に飴玉をもらったことを、怒られているのだろうか。殴られているくわしい経緯はわからないが、それくらいのことでそこまでしなくても……と少年に同情しつつも、エジプトの”肝っ玉母ちゃん”の勢いの凄さに気圧され、少年を襲った急展開のあまりの落差に、ついつい笑ってしまった。

エジプトの母は強し。

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