ゆきぐもり

書いて、歩いて、読んで。京都、水湧くところ。

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鉄から土へ。十三年ぶりの尾鷲

当時はたしか大宮大台で高速をおろされ、そこからひたすら国道四十二号線の峠道がつづいた。まだ運転が不慣れだったので、カーブがつづく山道やすれ違う車に気をつかい、そうとう疲れていたと思う。そうして最後の馬越峠をこえて下り道にさしかかったころ、とつぜん、木立に閉ざされていた視界が一気に開け、急に、建物が密集する巨大な町が目の前に現れた。火力発電所の鉄塔が天を突き、オセロの駒を積み重ねたような形をした石油タンクが並び、遠くに海がひろがっていた。 もう十六年前、赴任地が尾鷲に決まり、

    • 3行日記 #217(クロケット、福笑い、双眼鏡)

      九月九日(月)、晴れ 午前、青春18切符が二回分余っていたので、姫路に行くことにした。ひとつ手前の東姫路駅で下車し、十分ほど歩いたところにあるコロッケの店へ。店の入口の上に張りだしたテント地の屋根に、おかし屋ミルトスの木、と薄っすら文字が残っていた。妻は牛すじとジャーマンポテト、私は牛タンとジャーマンポテトのコロッケが入ったランチを注文した。揚げたてでカリッとした表面を齧ると、中からほくほくした具材の味がしっかり感じられておいしかった。途中、妻が、わたしらの、ソースかかって

      • 3行日記 #216(鼻に息、パフパフ、CoCo壱)

        九月八日(日)、晴れ 白露、草露白、くさのつゆしろし、草の露が白く見える。 白露、胡枝悉乱、こしことごとくみだる、萩の花は乱れ咲き、あっち向きこっち向き。 昼、妻の実家でうどん、みたらし団子。家につくとおばあちゃんが、ご馳走ですねー、お手間入りですねー。鍋の底に白玉団子がひっついていた。新聞の数独を問いた。チャックとおもちゃをの引っ張り合い。妻が鼻先にふうっと息を吹きかけると、おもちゃを咥えていた口もとがゆるんでいたので、私も真似してみたら、それまで飛び跳ねながらはしゃいで

        • 3行日記 #215(おゆまる、探求の余白、おちんちん)

          九月六日(土)、晴れ 処暑、禾乃登、こくものすなわちみのる、穀物が実る 処暑、赤卒群飛、せきそつむれとぶ、赤とんぼがいっぱい飛んでいる。 熱帯夜が少なくなり、少しずつ寝苦しさも解消されてきたように思う。窓を開けて寝ると、日によるが、朝方、通り抜ける風が涼しく感じるほどだ。 つくるまなぶで働きはじめてから、四日がたった。先日はさまざまな素材の紐を三つ編みにして、初めて縄を編んだ。また、今日は初めて3D CADのデータをつくり、初めて3Dプリンターで出力し、初めて「おゆまる」

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          3行日記 #214(デアゴスティーニ、不器用なカマキリ、盆踊り)

          八月十八日(日)、晴れ 立秋、蒙霧升降、ふかききりまとう、濃い霧が立ち込め始める。 立秋、桔梗漸開、ききょうようやくひらく、桔梗がしだいに開いてきた。 午前、新しいMacBookを買いに家電量販店へ。だが、いつ届くかわからないとのことで、その足でアップルストアへ向かった。でも、そこでも在庫がなく、ウェブで注文することになった。 午後、妻の実家で焼きそば、クッキー、りんご。岡崎の京都市美術館へ。金色のでっかい像が嫌だった。グッズ売り場も混んでいたので、すぐに退散。来週の旅行

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          3行日記 #213(つるつる、目頭、故障)

          八月十五日(木)、晴れ 昼、恒例のつるつるへ。お盆で混んでいるので、十一時の開店と同時に店に入った。コロナ後に配膳ロボットが導入されたのだが、運んでくるときに音楽を鳴らしながら移動する。その音楽がしばらくは耳に残るが、店をでて半日もすると、すっかり思い出せなくなってしまった。おろし蕎麦と天ぷらのセットを食べた。 実家をでる前に、妻と二人でおばあちゃんの手を握った。すると、おばあちゃんの目頭に涙がたまったように見えた。堰き止められたダム湖みたいに、目頭に涙がたまったが、流れ

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          3行日記 #212(黄緑色の液体、猫寺、秋吉)

          八月十四日(水)、晴れ 昼、8番ラーメンに行ったが行列ができていて、ヨーロッパ軒に逃げたがそこでも待ち列ができていた。お盆なのでどこも混んでいる。仕方なく、すぐ隣にあったモスバーガーをドライブスルーで持ち帰って家で食べた。久しぶりに食べるとおいしいな、と父は満足そうだった。 午後、母の車を借りて武生へ。裏道の広域農道をひたすらにまっすぐ進む。武生の市街地を抜けて田んぼの道を進んだところにある、越前打刃物の施設に行った。包丁や鎌をつくる工房を改修してできた伝統産業の技術を伝

          3行日記 #212(黄緑色の液体、猫寺、秋吉)

          3行日記 #211(墓参り、無花果、まじんのランプ)

          八月十三日(火)、晴れ 立秋、寒蝉鳴、ひぐらしなく、ヒグラシが鳴き始める。 立秋、荷花艶絶、かかはなはだえん、蓮の花はすばらしく艶やか。 午前、墓参りへ。バケツに水を満たして、ひしゃくと一緒に持っていく。墓の頭上に水をかける。持ってきた歯ブラシで、角の黒ずんだところをごしごし磨く。乾いたタオルで拭き取った。風が強く吹いていたが、昨日とちがって雲がなく、日差しが強かった。 午後、バスで駅前を経由して、路面電車で田原町へ。きれいな待合室があったので入ってみたが、クーラーがなく

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          3行日記 #210(うっせーわ事件、キリン、祝福の鐘)

          八月十二日(月)、くもり お盆で故郷に帰っている。 父親の話まとめ。台所の壁にメモが貼ってある。ひとつは「うっせーわ事件」。ドラッグストアで買い物をしているときに、人混みが通路を塞いでいたので、どいてと言ったら、二十代の女性に、うっせーわ、と怒鳴り返されたらしい。父は若者が怖くなって違う通路に逃げたらしい。もうひとつは近所とのトラブル。お隣さんが土地の境目近くでプチトマトを育てているのだが、通りがけに、父がトマトの育て方を指摘したら、うちにはうちのやり方があるんです、放っ

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          3行日記 #209(オバァ列伝、両面テープ、鵜飼)

          七月二十八日(日)、晴れ 大暑、土潤溽暑、つちうるおうてむしあつし、土が湿り蒸し暑くなる。 大暑、槿花朝開、きんかあさひらく、木槿が朝開いた。 午前、久しぶりに青春18切符を利用し、鈍行を乗り継いで岐阜へ。 昼、商店街の沖縄料理屋でタコライスとソーキそば。クーラーが壊れていた。本棚に『沖縄オバァ列伝』という本があった。 午後、エジプト珍道中の展示の設営。今年も銀次(壁にあてるだけで、展示する紙の間隔を割り出す道具)を使って、ああでもないこうでもないと言いながら、紙を壁に

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          3行日記 #208(選手村、ヤカーリング、巴投げ)

          七月二十七日(土)、晴れ 朝、パリ五輪の開会式の録画放送をテレビで見る。私と妻も昨晩から選手村にいる。選手村のきょうの朝食は雑炊だった。 午前、選手村から向かった先は、パリではなく三津屋商店街のヤカーリング世界大会の会場だ。タイヤを装着したやかんをカーリングのように滑らせて的の中心をねらう、という遊びだった。早めのお昼で讃岐うどんと鶏天を食べた。 午後、大会受付を済ませただけで、駄菓子、商店街で使える金券、うちわなどをもらえた。待ち時間に商店街を散策し、和菓子屋さんが蜜

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          3行日記 #207(散髪、怪しい男、院長先生)

          七月二十六日(金)、晴れ 朝、八時から髪を切った。 最近あったことを詰め合わせで。チャックの散歩で遭遇した奇妙なできごと。一昨日、図書館のほうから妻の実家のほうに歩いているとき、私鉄の陸橋の柱のしたに、何かがある。最初はごみが捨てられているのかなと思ったが、動いたような気がした。風で揺れたのか、そう思いながら近づいてゆくと、捨てられたごみのように見えたそれは、道路のアスファルトのうえに横たわっているひとだった。酔っ払っているのだろうか。何かの事件や急病人かもしれないので、

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          3行日記 #206(横断幕、迷い犬、エレベーターの争い)

          七月十九日(金)、晴れのちくもり 小暑、鷹乃学習、たかすなわちわざをならう、今年生まれた鷹が飛翔の練習を始める。 小暑、甜瓜黄也、てんかはきなり、マクワウリは黄色。 少し前に、地元の商店街にとある横断幕が掲げられた。近くの小学校の卒業生がオリンピックに出場するから、みんなで応援しよう、という報せだった。聞いたことのない名前の選手だったが、せっかくだから応援しよう、オリンピックを観るたのしみも増えるなと思っていた矢先、どたばたとその選手の出場がとりやめになってしまった。思い返

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          3行日記 #205(掃除、メロンパンお、短冊)

          七月十四日(日)、くもり時々雨 午前、妻の高校生のときの同級生が午後に遊びにくるので、掃除した。 昼、元田中の金網の前を久しぶりに通る。あきらかに数が増えている。今年も蝉の抜け殻がくっついていた。新入りで目を惹かれたのは、メロンパンに胴体がついた黄緑色のぬいぐるみで、おなかに「メロンパンお」と黒い文字が刺繍されていた。隣には七夕の笹が飾られ、願いをこめた短冊が揺れていた。一〇〇才まで 元気で行こう。今日元気 明日も元気 それで良し。明日も又 ビールが 私を待っている。近く

          3行日記 #205(掃除、メロンパンお、短冊)

          3行日記 #204(水筒、鹿の親子、見誤る)

          七月十三日(土)、くもり 午前、出町から高野へ川沿いを歩く。陸上部の中学生が土手を走っている。しばらく行くと、監督らしき女性のもとに集まっていた。その先の土手のコンクリートの壁に、大容量の水筒がいくつも並んでいた。 昼、高野から一乗寺へ。高野の交差点。もう辛夷のもふもふの蕾が形成されていた。表面は緑色だが。 夕方、一乗寺から出町まで歩く。鹿の親子が高野川につかって、葦の葉に齧りついていた。 夜、昨日の野菜スープの残り、トマト。チャックの散歩、左右左、京阪の踏切の前を左

          3行日記 #204(水筒、鹿の親子、見誤る)

          3行日記 #203(チクる、牛蛙、いきいきと)

          七月十二日(金)、雨のちくもり 小暑、蓮始開、はすはじめてひらく、ハスの花が咲き始める。 小暑、茅蜩夕鳴、ぼうちょうゆうになく、ヒグラシが夕方に鳴く。 最近のできごとを詰め合わせで。 最近、仕事でとある小学校に行く機会が増えているのだが、そのときの出来事。せんせい!女王アリ、ふまれた! 男の子が鬼気迫る表情で叫びながら訴える。男の子の奥に視線をやると、同級生くらいの女の子がこちらを振り向いていた。眼には怯えが漂っている。すると、先生がこう言った。今すぐだったら食べるはず、

          3行日記 #203(チクる、牛蛙、いきいきと)