くろしお出版

言語学・日本語学の専門書や、日本語テキストなどを刊行している出版社です。1948年創業…

くろしお出版

言語学・日本語学の専門書や、日本語テキストなどを刊行している出版社です。1948年創業。主な刊行物に、『象は鼻が長い』『日本語文型辞典』『上級へのとびら』『知へのステップ』など。

マガジン

  • 日本語研究夜話

    泉子・K・メイナード先生(ニュージャージー州立ラトガース大学栄誉教授)が、「本」についての個人的な思いを「夜話」として語る連載。日本語学の古典といわれる名著をとりあげる「本はインスパイアする」と、自身の著書について裏話を交えて回想する「本で冒険する」という視点から、ざっくばらんにお話しいただきます。

  • 日本語教育クイズ! 経験からデータへ

    「現場に役立つ日本語教育研究」全6巻の編者が日本語教育をデータで考えるためのクイズを出題。解答は2~3日後に公開します。日本語教育を、教師の勘や経験ではなく、科学的な「データ」として考えるヒントを掴んでみてください。

記事一覧

14. 本で冒険する! 『話者の言語哲学 ―日本語文化を彩るバリエーションとキャラクター』 くろしお出版 2017

日本語を出発点とする言語哲学 筆者は何冊か英語の学術書を、アメリカ、イギリス、オランダの出版社から出版していただいているが、それらの書物には、必ずJapaneseという…

2

13. 本はインスパイアする! 神尾昭雄 『情報のなわ張り理論 ―言語の機能的分析』 大修館書店1990

あくまで個人的な思い出 筆者は一度だけ、神尾氏にお会いしたことがある。1999年の春、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で催された学会でだった。その学会での講…

くろしお出版
1か月前
3

12. 本で冒険する! 『マルチジャンル談話論 ―間ジャンル性と意味の創造』 くろしお出版 2008

ビジュアル記号の分析という冒険 2000年代に入り、コミュニケーションは、バーバル記号だけでなく、むしろビジュアル記号が幅をきかせるようになっていた。従来、言語学で…

くろしお出版
2か月前
5

11. 本はインスパイアする! 永野賢『文章論総説 ―文法論的考察』 朝倉書店1986

学問的巡礼 その頃筆者は、談話分析という分野を日本語研究に応用するため、試行錯誤を繰り返していた。早い話(というか、ぶっちゃけ)、談話分析などというなにか新しい…

くろしお出版
3か月前
6

10. 本で冒険する! 『日本語教育の現場で使える 談話表現ハンドブック』 くろしお出版 2005

談話分析と日本語教育 筆者は、上級の日本語コースを受け持つようになって久しいが、日本語学習者の誤用で、特に気付かされる現象がある。指示表現についてで、その誤用は…

くろしお出版
4か月前
4

逆接の旧2級文法「ものの」と「にもかかわらず」(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 20[最終回])

問題 旧日本語能力試験2級文法の「ものの」「にもかかわらず」は、データ中の出現頻度が同じくらいです。「ものの」がよく使われるのは以下のどれでしょうか? a 白書 b…

くろしお出版
4か月前
2

否定的な「前置き」(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 19)

問題 日本語母語話者の説明では、「あー一番…良かった旅行ーかどうか分からんけど、なんか」のように、自分の経験を説明する場においても否定的な「前置き」が使われるこ…

くろしお出版
4か月前
4

9. 本はインスパイアする! 奥津敬一郎 『「ボクハウナギダ」の文法  ダとノ』  くろしお出版 1983 [1978]

やっかいな「ダ」 日本語の文型には、動詞で終わるいわゆる動詞文と、ダで終わる名詞述語文がある。ダ文は、「あの人はいつも元気だ」というような形容動詞文を含み、ダが…

くろしお出版
5か月前
4

作文での例・根拠・たとえの示し方(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 18)

問題 例・根拠・たとえの示し方を日本語学習者に教えるとき、初級→中級→上級のそれぞれのレベルでは、説明文・意見文・歴史文のどのジャンルで練習するのが良いでしょう…

くろしお出版
5か月前
1

日本語学習者にとって難しいカタカナ語(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 17)

問題 日本語学習者にとってカタカナ語は実は難しいという話を聞いたことがあるかもしれません。下記のうち、外国人にとって難しいと思われるカタカナ語はどれでしょうか?…

くろしお出版
5か月前
1

8. 本で冒険する! 『談話言語学 ―日本語のディスコースにおける構成・レトリック・ストラテジーの研究』 くろしお出版 2004

文法から談話法へ 日本語研究では、まず、文法が重視される。しかし、筆者は、談話法とも呼べる談話現象に見られる規則のようなものを発見するのも、不可欠だと思っている…

くろしお出版
6か月前
3

低頻度使用文法「にしたがって」を考える(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 16)

問題 「にしたがって」は他の2級文法と比べて出現頻度が非常に低いほうです。「に○○○」という形の2級文法は多いため、他の形式とまとめて勉強する学習者もおられると思…

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6か月前
7

高頻度使用文法「において」を考える(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 15)

問題 「Nにおいて」は他の2級文法と比べて出現頻度が非常に高いものです。コーパスで調べてみると、その出現レジスター(言語使用域)が偏っていることがわかっています。…

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6か月前
4

7. 本はインスパイアする! 中村雄二郎 『パトスの知 ―共通感覚的人間像の展開』 筑摩書房 1982

あくまで個人的な事情 筆者は日本語研究を進めるにあたって、日本語学、国語学、言語学、社会言語学などの分野だけでなく、隣接する知的領域にヒントを求めることがある。…

くろしお出版
7か月前
3

「について」「に関して」の使い分け(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 14)

問題 2級文法の「Nについて」「Nに関して」はNに入る名詞の硬さが違う(「に関して」の方が硬い)と言われています。そのほかに、この両者の違いは何でしょうか? a 連…

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7か月前
8

話題と話題の相性を科学する(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 13)

問題 ある話題について話すには、そこで使われる語彙を知らねばなりません。つまり話題と語彙はセットで存在します。話題Aに所属する語彙と話題Bに所属する語彙の重なりを…

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7か月前
2
14. 本で冒険する! 『話者の言語哲学 ―日本語文化を彩るバリエーションとキャラクター』 くろしお出版 2017

14. 本で冒険する! 『話者の言語哲学 ―日本語文化を彩るバリエーションとキャラクター』 くろしお出版 2017

日本語を出発点とする言語哲学

筆者は何冊か英語の学術書を、アメリカ、イギリス、オランダの出版社から出版していただいているが、それらの書物には、必ずJapaneseという表現がタイトルに付く。これは、原稿の査読者がしばしば提案する点であり、出版社の要望でもある。しかし、英語についての学術書には、Englishという表現は使われないことが多く、それが当然のこととしてまかり通っている。これはなぜだろう

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13. 本はインスパイアする! 神尾昭雄 『情報のなわ張り理論 ―言語の機能的分析』 大修館書店1990

13. 本はインスパイアする! 神尾昭雄 『情報のなわ張り理論 ―言語の機能的分析』 大修館書店1990

あくまで個人的な思い出

筆者は一度だけ、神尾氏にお会いしたことがある。1999年の春、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で催された学会でだった。その学会での講演を頼まれ、確か2泊3日の旅をしたように覚えている。キャンパス内のゲストハウスに泊まっていたのだが、そこに神尾氏も投宿されていた。二日目の朝だったか、かなり距離のある学会会場まで、そぞろ歩きながらご一緒させていただいたのである。

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12. 本で冒険する! 『マルチジャンル談話論 ―間ジャンル性と意味の創造』 くろしお出版 2008

12. 本で冒険する! 『マルチジャンル談話論 ―間ジャンル性と意味の創造』 くろしお出版 2008

ビジュアル記号の分析という冒険

2000年代に入り、コミュニケーションは、バーバル記号だけでなく、むしろビジュアル記号が幅をきかせるようになっていた。従来、言語学で言うノンバーバル記号とは、発話に伴うジェスチャーを指すことが多かった。しかし、現在もそうであるが、広範囲のビジュアル情報を含むコミュニケーション(SNS, ブログ、メール、YouTubeなど)が日常的になってきていた。さらに、日本語文

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11. 本はインスパイアする! 永野賢『文章論総説 ―文法論的考察』 朝倉書店1986

11. 本はインスパイアする! 永野賢『文章論総説 ―文法論的考察』 朝倉書店1986

学問的巡礼

その頃筆者は、談話分析という分野を日本語研究に応用するため、試行錯誤を繰り返していた。早い話(というか、ぶっちゃけ)、談話分析などというなにか新しい名前の分野を考えていたものの、そんな用語が使われる前に、日本語の文章に関連した伝統的な学問が存在しないはずもなく、それはどうなっているのか、と疑問に思っていた。そのプロセスで時枝誠記の文章論に出会い、続いて永野賢の文章研究があることを知っ

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10. 本で冒険する! 『日本語教育の現場で使える 談話表現ハンドブック』 くろしお出版 2005

10. 本で冒険する! 『日本語教育の現場で使える 談話表現ハンドブック』 くろしお出版 2005

談話分析と日本語教育

筆者は、上級の日本語コースを受け持つようになって久しいが、日本語学習者の誤用で、特に気付かされる現象がある。指示表現についてで、その誤用は一人や二人の学生ではなく、何年にもわたって何回も繰り返されている。指示表現は初級の段階で登場し、真面目な学生は教師の説明を納得してよく覚えているのだが、中・上級に進むにつれて、初級の説明では十分でないため、誤用を繰り返すのである。

指示

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逆接の旧2級文法「ものの」と「にもかかわらず」(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 20[最終回])

逆接の旧2級文法「ものの」と「にもかかわらず」(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 20[最終回])

問題

旧日本語能力試験2級文法の「ものの」「にもかかわらず」は、データ中の出現頻度が同じくらいです。「ものの」がよく使われるのは以下のどれでしょうか?

a 白書
b ブログ
c 教科書

正解は……




正解 a 白書

「ものの」は白書に非常に多く出現します。白書のお役所言葉と相性がいいようです。一方の「にもかかわらず」は社会科学の書籍や国会会議録に現れます。硬い文章に使われる点は

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否定的な「前置き」(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 19)

否定的な「前置き」(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 19)

問題

日本語母語話者の説明では、「あー一番…良かった旅行ーかどうか分からんけど、なんか」のように、自分の経験を説明する場においても否定的な「前置き」が使われることがあります。この否定的な「前置き」を使う理由は次のうちのどれでしょうか?

a 自分の経験は相手には興味がないと予想するため
b 自分の経験の価値に十分な自信が持てないため
c 自分の経験が自慢と取られないようにするため

正解は……

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9. 本はインスパイアする! 奥津敬一郎 『「ボクハウナギダ」の文法  ダとノ』  くろしお出版 1983 [1978]

9. 本はインスパイアする! 奥津敬一郎 『「ボクハウナギダ」の文法  ダとノ』  くろしお出版 1983 [1978]

やっかいな「ダ」

日本語の文型には、動詞で終わるいわゆる動詞文と、ダで終わる名詞述語文がある。ダ文は、「あの人はいつも元気だ」というような形容動詞文を含み、ダが省略される場合もあるが、さしあたり、次のタイプが思い浮かぶ。
(1)人間は感情の動物だ。(判断文、主題導入文、コピュラ文)
(2)今日の当番は僕だ。(分裂文)
(3)(今日は何定食にする?)僕は、魚だ。
(4)どうせのろまだよぅ……だ。

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作文での例・根拠・たとえの示し方(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 18)

作文での例・根拠・たとえの示し方(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 18)

問題

例・根拠・たとえの示し方を日本語学習者に教えるとき、初級→中級→上級のそれぞれのレベルでは、説明文・意見文・歴史文のどのジャンルで練習するのが良いでしょうか?

a 意見文→説明文→歴史文
b 説明文→歴史文→意見文
c 歴史文→説明文→意見文

正解は……




正解 b 説明文→歴史文→意見文

まず初級では説明文で客観的な例を挙げる練習をします。次に中級において過去の事実の根

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日本語学習者にとって難しいカタカナ語(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 17)

日本語学習者にとって難しいカタカナ語(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 17)

問題

日本語学習者にとってカタカナ語は実は難しいという話を聞いたことがあるかもしれません。下記のうち、外国人にとって難しいと思われるカタカナ語はどれでしょうか?

a ストレス
b ダイジェスト
c キャンセル

正解は……




正解 b ダイジェスト

「日本語教育語彙表」によると、「ストレス」と「キャンセル」は中級前半ですが、「ダイジェスト」は上級前半です。また、「ダイジェスト」は

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8. 本で冒険する! 『談話言語学 ―日本語のディスコースにおける構成・レトリック・ストラテジーの研究』 くろしお出版 2004

8. 本で冒険する! 『談話言語学 ―日本語のディスコースにおける構成・レトリック・ストラテジーの研究』 くろしお出版 2004

文法から談話法へ

日本語研究では、まず、文法が重視される。しかし、筆者は、談話法とも呼べる談話現象に見られる規則のようなものを発見するのも、不可欠だと思っている。もっとも、談話法と言ってもその範囲は広く、該当する研究項目を網羅することは簡単ではない。しかし、本書の執筆にとりかかっていた頃、談話現象の全体像がイメージできる本をまとめることができるのでは、と感じていた。『談話言語学 ー日本語のディス

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低頻度使用文法「にしたがって」を考える(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 16)

低頻度使用文法「にしたがって」を考える(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 16)

問題

「にしたがって」は他の2級文法と比べて出現頻度が非常に低いほうです。「に○○○」という形の2級文法は多いため、他の形式とまとめて勉強する学習者もおられると思います。それでは、第15問で出てきた「において」と比べてみましょう。「において」は「にしたがって」の何倍出現するでしょうか?

a 2倍
b 10倍
c 100倍

正解は……




正解 c 100倍

「において」はコーパス

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高頻度使用文法「において」を考える(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 15)

高頻度使用文法「において」を考える(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 15)

問題

「Nにおいて」は他の2級文法と比べて出現頻度が非常に高いものです。コーパスで調べてみると、その出現レジスター(言語使用域)が偏っていることがわかっています。この文法形式がたくさん出現するレジスターは、以下のどれでしょうか?

a 教科書
b 新聞
c 法律

正解は……




正解 c 法律

「Nにおいて」は法律でたくさん使われています。その他、国会議事録、白書などフォーマリティ

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7. 本はインスパイアする! 中村雄二郎  『パトスの知 ―共通感覚的人間像の展開』 筑摩書房 1982

7. 本はインスパイアする! 中村雄二郎 『パトスの知 ―共通感覚的人間像の展開』 筑摩書房 1982

あくまで個人的な事情

筆者は日本語研究を進めるにあたって、日本語学、国語学、言語学、社会言語学などの分野だけでなく、隣接する知的領域にヒントを求めることがある。日本語の情意というテーマを追っていた頃、筆者は哲学者中村雄二郎氏の「パトスの知」、「共通感覚」という概念にめぐり逢った。中村氏は全集としてまとめられている作品を含む膨大な著作で独自の哲学思想の世界を描いており、筆者はなるべく多くを読ませて

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「について」「に関して」の使い分け(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 14)

「について」「に関して」の使い分け(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 14)

問題

2級文法の「Nについて」「Nに関して」はNに入る名詞の硬さが違う(「に関して」の方が硬い)と言われています。そのほかに、この両者の違いは何でしょうか?

a 連体修飾形の使用頻度
b 後続文脈に来る動詞の種類
c Nという名詞に対する話者の態度

正解は……




正解 a 連体修飾形の使用頻度

「Nについて」は「Nについての」という連体修飾形がありますが、全体の9%程度を占める

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話題と話題の相性を科学する(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 13)

話題と話題の相性を科学する(日本語教育クイズ! 経験からデータへ 13)

問題

ある話題について話すには、そこで使われる語彙を知らねばなりません。つまり話題と語彙はセットで存在します。話題Aに所属する語彙と話題Bに所属する語彙の重なりを計算すれば、話題Aと話題Bの距離が数値化できます。以下の中で、旅行という話題に一番近い話題は何でしょうか?

a 食
b 交通
c 思い出

正解は……




正解 b 交通

旅行の話題では交通に関する語がかなり使われているの

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