マガジンのカバー画像

連載小説・海のなか

53
とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。
運営しているクリエイター

2023年5月の記事一覧

小説・海のなか(41)

小説・海のなか(41)

***

 あの日から毎日気がつけば境内に腰を下ろしていた。なぜかそうしているだけで息をするのが楽になる。不思議な心地だった。相変わらずすることはなかったけれど、心は穏やかだった。わたしの目は気がつくと石段の方を眺めている。そこから聞こえてくるはずの足音はいつでもはっきりと蘇ってきた。息遣いまで聞こえてきそうなほど…。
 なぜここまで夕暮れを心待ちにしているのだろう。待つのは辛くなかった。なぜか彼

もっとみる
小説・「海のなか」(40)

小説・「海のなか」(40)

***

 あの夜から毎晩夕凪に会いに行った。特にこれといった心境の変化が自分の中で起こった訳ではない。ただ、気がつくと足が神社へと向かうのだった。夕凪もまた日没の境内に毎日いた。俺を待っているのか、それとも単に他に行くあてもないだけなのか。それは定かではなかったが。顔を合わせる頻度が増したからといって、幼馴染の心の内がはっきりと読めるようになるわけでもない。そうわかっているはずなのに不安や疑念に

もっとみる