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ろんぐろんぐあごー

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デビュー以前に書いた素面では到底読めない作品をひっそりと公開。
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2023年12月の記事一覧

MAD LIFE 240

MAD LIFE 240

16.姉弟と兄妹(13)5(承前)

「びっくりしただろう?」
「え、ええ……」
「驚きついでにもうひとつ、いいことを教えてやろうか」
「……なに?」
 激しい胸騒ぎに不安が募る。
 江利子の反応を見て、浩次は嬉しそうに笑った。
「慌てて話す必要もないか。ひさしぶりに会ったんだし、ゆっくりさせてもらうよ」
 彼は急に態度を変え、ベッドに腰かけた。
 枕元に置かれたウィスキーのボトルを手に取る。

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MAD LIFE 239

MAD LIFE 239

16.姉弟と兄妹(12)5(承前)

「おまえも俺をもてあそんだだろう?」
 浩次の皮肉めいた言葉は、凶器となって江利子に襲いかかった。
「違う……私は――」
「なにが違うんだ? おまえは金を巻き上げるつもりで俺に近づいてきた。悪魔ってのはおまえみたいな女のことをいうんじゃないのか?」
「そうじゃない! 私は……本当にあなたのことを……」
 痛む胸を押さえ、浩次をじっと見つめる。
「なにをいまさら

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MAD LIFE 238

MAD LIFE 238

16.姉弟と兄妹(11)5(承前)

「どうした?」
 男が怪訝そうな表情で訊く。
「俺の顔になにかついているのか?」
 彼は濃いサングラスをかけていたが、江利子にはすぐにわかった。
 ……まさか。
 いや、そんなはずはない。
 彼がこんなところにいるわけが……
 ましてや、あの真面目を絵に描いたような男が、明らかに堅気の商売ではないとわかる格好をしているはずもない。
 でも、その姿……その声。

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MAD LIFE 237

MAD LIFE 237

16.姉弟と兄妹(10)5(承前)

 小さなベルが鳴り、エレベーターのドアが開く。
 江利子はいつもと同じように、にぎやかな夜の街を歩き出した。
 ショーウィンドウに映った己の姿にため息をつく。
 派手な化粧をすればするほど、自分が汚れているような……そんな気がしてならなかった。

「エリちゃん、お客さんよ」
 仕事着に着替えていた江利子に声をかけてきたのは、彼女よりずっと若く見えるのに、実はも

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MAD LIFE 236

MAD LIFE 236

16.姉弟と兄妹(9)5

 夜の八時を過ぎても晃は帰ってこなかった。
「もう……どこで遊んでるのかしら?」
 江利子は冷めきった味噌汁を前にそう呟く。
 カーペットの上に散らばっていた広告を一枚手に取り.晃に置手紙を残すことにした。

 八時まで待っても帰ってこないので姉さんは仕事に出かけます
 おみそ汁はもういちど温めてね
                     江利子

 書き終えてから、

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MAD LIFE 235

MAD LIFE 235

16.姉弟と兄妹(8)4(承前)

 瞳は晃を真正面から見据えた。
「私……あなたのお父さんに頼まれたの。お兄さんに〈フェザータッチオペレーション〉と伝えてくれって。でも、お兄さんの行方はわからないままだし……」
「瞳」
 晃も瞳を見つめ返す。
「どうして俺は東京に戻ってきたんだと思う?」
 瞳はその問いかけに、黙ってかぶりを振った。
「おまえに会うためだよ。どうしても話したいことがあったからさ」

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MAD LIFE 234

MAD LIFE 234

16.姉弟と兄妹(7)4(承前)

「やっぱり、なにか隠してるんだな?」
 瞳は黙って下を向いた。
「なにをためらってるんだ? ちゃんと話してくれよ」
 晃の手が肩に触れる。
「俺のいない間になにがあった?」
「あのね……」
 瞳は囁くように答えた。
「……死んじゃった」
「え?」
 肩から手が離れる。
「死んだ? 誰が?」
「あなたのお父さん」
 ようやくそのひとことを口にする。
 風鈴を鳴らし

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MAD LIFE 233

MAD LIFE 233

16.姉弟と兄妹(6)3(承前)

「それで? ブツはどれだけほしいんだ?」
 いや、あるいは無能なフリをしているだけなのかもしれない。
 中部は慎重に尋ねた。
『……あんたたちは本当に信用できるんだろな?』
 Mがいう。
「信用できると思ったから、こうやって電話をかけてきたんだろう?」
『ああ。あんたたちの噂は大阪にまで届いている』
「そりゃ、どうも」
 電話の相手に気づかれぬよう、中部はほくそ

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MAD LIFE 232

MAD LIFE 232

16.姉弟と兄妹(5)2(承前)

 ――瞳……大きくなったな。
 私の……もうひとりのお兄さん。
 彼を撃ったのは江利子だった。
 なぜ、江利子は立澤を狙ったのか?
 瞳は振り返って晃の背中を見た。
 いえない。あなたのお姉さんのこと。
 そして――
「はい、クッキー」
「ああ、ありがとう」
 そして――殺されてしまったあなたのお父さんのこと。



 電話が鳴る。
 来た!
 中部は煙草の火

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MAD LIFE 231

MAD LIFE 231

16.姉弟と兄妹(4)2(承前)

 立澤組が末木力を殺したのだと勘違いした西龍組は立澤組の事務所を襲撃した。
 瞳は立澤組の経営する会社で兄、浩次と再会する。
 そして、立澤の死。
 兄との別れ。
「立澤栄は死んだのか?」
 晃が目を大きく見開く。
「うん……撃たれてから一週間、重体のまま生きていたらしいんだけど、昨日の朝、亡くなったって」
「西龍組の誰がやったんだ?」
「立澤を撃ったのは西龍組

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MAD LIFE 230

MAD LIFE 230

16.姉弟と兄妹(3)2(承前)

「……ごめんなさい」
 晃に頭を下げる。
「いや、瞳が謝ることじゃない。昔から親父のことは大嫌いだったんだから」
 晃はそういうと、空になったティーカップにもう一度口をつけた。
「正直にいうとさ――」
 視線を窓の外に移し、ひとりごとでも呟くようにしゃべり始める。
「瞳があのとき、電話で告げた言葉……ショックだったよ」
 瞳には返す言葉がなかった。
 沈黙が続く

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MAD LIFE 229

MAD LIFE 229

16.姉弟と兄妹(2)1(承前)

「八億」
 中西に背を向けたまま、真知が答える。
「…………」
 想像を超える大金に中西は絶句した。
「じゃあね」
 真知はいつもと同じ明るい声を出したが、中西のほうを振り返ろうとはしなかった。
「さようなら……中西さん」
「真知――」
 あとを追いかけようとして、家の外へ出る。
 真知の後ろ姿を目にしたところで、中西は動きを止めた。
 今の俺になにができる?

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MAD LIFE 228

MAD LIFE 228

16.姉弟と兄妹(1)1

「あたし帰るわ」
 その日の夕方。
 会社から帰ってきた中西に真知はそういった。
「え……帰るって。家へかい?」
 中西は驚きの表情を真知に向ける。
「どうして急に?」
「だって、もうここにいる理由はないもの。須藤さんもその息子も逮捕されたから、結婚の話はオジャンだし。なによりパパのことが心配だもん」
「ああ……そうだな」
 俺の勤める会社はこの先どうなるのか?
 不安

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MAD LIFE 227

MAD LIFE 227

15.戻ってきた少年(16)5(承前)

 アパートの前にひとりの少年が立っていた。
 その端正な横顔は、瞳のよく知っている人物だ。
「……晃君」
 少年のそばに駆け寄る。
 晃はゆっくりと瞳のほうを振り返った。
「ひさしぶりだな」
 照れくさそうに彼はいう。
 瞳は晃と気まずく別れたときのことを思い出した。
 ――あなたにはなんの罪もないけど、私、以前のようにあなたとつきあうことなんてできない。

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