MAD LIFE 232
16.姉弟と兄妹(5)
2(承前)
――瞳……大きくなったな。
私の……もうひとりのお兄さん。
彼を撃ったのは江利子だった。
なぜ、江利子は立澤を狙ったのか?
瞳は振り返って晃の背中を見た。
いえない。あなたのお姉さんのこと。
そして――
「はい、クッキー」
「ああ、ありがとう」
そして――殺されてしまったあなたのお父さんのこと。
3
電話が鳴る。
来た!
中部は煙草の火をもみ消すと、受話器に手を伸ばした。
「もしもし」
慎重に対処しなければならない。
中部は生唾を呑み込んだ。
『〈フェザータッチオペレーション〉かい?』
警戒した様子の声が聞こえてくる。
Mだ!
中部は胸を押さえ、大きく息を吸った。
「ああ、そうだ」
冷静に応答できたはずだ。
『俺は――』
「わかっている。そろそろ連絡してくる頃だろうと思っていたよ」
『まったく……いい迷惑だぜ。須藤が逮捕されちまうとはな』
「ああ、そうだな」
『ゆうべ、 須藤から電話をもらったんだ。明日の朝、二十歳くらいの若い女が赤いスポーツバッグを持って大阪駅へブツを届けに行くから、赤い背広を着て待ってろって』
「…………」
『合言葉は「ライター持ってますか?」「バーのマッチなら」。……須藤もいろんなことをよく考えるぜ。結局、俺はすっぽかされちまったわけだけどな』
ぺらぺらとよくしゃべる男だ。
有能ではないのかもしれない。
(1986年4月1日執筆)
つづく
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