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MAD LIFE 239

16.姉弟と兄妹(12)

5(承前)

「おまえも俺をもてあそんだだろう?」
 浩次の皮肉めいた言葉は、凶器となって江利子に襲いかかった。
「違う……私は――」
「なにが違うんだ? おまえは金を巻き上げるつもりで俺に近づいてきた。悪魔ってのはおまえみたいな女のことをいうんじゃないのか?」
「そうじゃない! 私は……本当にあなたのことを……」
 痛む胸を押さえ、浩次をじっと見つめる。
「なにをいまさらと思うかもしれないけど……私はあなたを愛していたのよ」
「よくいうよ。俺はおまえを助けようと思って、人殺しまでやったというのに」
 浩次が自嘲気味に笑う。
「おまえに裏切られたと知ったあの日、俺の人生は変わっちまったんだよ!」
 彼はいきなり大声で怒鳴ると、近くに置かれていた花瓶をつかんで叩き割った。
「嘘じゃない。私はあなたを愛していた。でも、仕方なかったの。私が長崎の娘だと知ったときのあなたの軽蔑のまなざし……これ以上、あなたのそばにいることはできないと思った。だから……あなたを利用していたと嘘をついて……。あなたと同じ。私もあの日から人生が狂ってしまったわ。そうじゃなきゃ、こんな仕事をやっているわけないでしょう?」
「おたがいずいぶんと変わっちまったな」
 浩次がいう。
「……俺が今、なんの仕事をやっているか教えてやろうか? 立澤組の組長だ」
「え――」
 江利子の驚きの表情を見て、浩次は満足そうに口元を緩めた。

 (1986年4月8日執筆)

つづく

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