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MAD LIFE 228

16.姉弟と兄妹(1)

「あたし帰るわ」
 その日の夕方。
 会社から帰ってきた中西に真知はそういった。
「え……帰るって。家へかい?」
 中西は驚きの表情を真知に向ける。
「どうして急に?」
「だって、もうここにいる理由はないもの。須藤さんもその息子も逮捕されたから、結婚の話はオジャンだし。なによりパパのことが心配だもん」
「ああ……そうだな」
 俺の勤める会社はこの先どうなるのか?
 不安を覚えずにはいられない。
「君の親父さん……どうするつもりなんだろう?」
「自分の会社の社長さんを"君の親父さん"呼ばわりはないんじゃない?」
「そりゃあ、まあそのとおりなんだけど……。なあ、うちの会社は本当に倒産寸前なのか? そんな様子は今まで全然なかったぞ」
「そりゃ、そうよ。社員に迷惑がかからないよう、パパが全部埋め合わせてきたんだから。……でも、本当にどうなるのかしら? もう須藤さんをアテにはできないんだものね」
「おまえ、犯罪者をさんづけで呼ぶなよ」
 中西は呆れ顔でいった。
「だって、今まで須藤さんって呼んできたんだもん。急に呼び捨てになんてできないわ」
 真知は小さく肩をすくめたあと、静かに立ち上がった。
「じゃあ、あたし帰るね。三日間、どうもありがとう」
「おい、真知」
 中西は膝を立て、真知を呼び止める。
「なに?」
「 うちの会社は、いくらあれば倒産せずにすむんだ?」

 (1986年3月28日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

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