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MAD LIFE 238

16.姉弟と兄妹(11)

5(承前)

「どうした?」
 男が怪訝そうな表情で訊く。
「俺の顔になにかついているのか?」
 彼は濃いサングラスをかけていたが、江利子にはすぐにわかった。
 ……まさか。
 いや、そんなはずはない。
 彼がこんなところにいるわけが……
 ましてや、あの真面目を絵に描いたような男が、明らかに堅気の商売ではないとわかる格好をしているはずもない。
 でも、その姿……その声。
 やっぱり……
「浩次さん……なの?」
 江利子の声は震えていた。
 男の表情が一変する。
「なぜ、俺の名を?」
 男はしげしげと江利子の顔を見て、ぎょっと目を見開いた。
「……江利子なのか?」
「やっぱり浩次さんなのね!」
「どうして、おまえがこんなところに……」
 懐かしい声に、自然と目頭が熱くなる。
「浩次さん……私……私……」
「どうして、おまえが泣く? 俺はおまえを憎んでいる。そのことを忘れるな。おまえには二度もひどい目に遭わされたんだからな」
「……二度?」
「おまえたち親子にまんまと騙されて人殺しをした上に大金を巻き上げられたこと。そして、俺の兄貴を殺したこと」
 江利子は涙を拭い、真正面から浩次を見据えた。
「あなたの……お兄さん?」
「ああ。おまえが殺した立澤栄は俺の血の繋がった兄貴だ」
「え――」
「どうして兄貴を殺した?」
「だって……だってあいつは、私の身体をもてあそんだ悪魔みたいな奴だったんだもの。死んで当然だわ」

 (1986年4月7日執筆)

つづく

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