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4月の日記。

視界の端で何かがキラリと光った。

目をやるとそれは、気に入って買った革製の猫のバレッタだった。

そういえばこの間、鋲でできた目を金属磨きで磨いたのだった。
鋭く光る眼は、本物の猫を思い出させた。

この春は何だか変だ。
例年より早く暖かくなったかと思えば、急に冷え込んで芽を出したばかりのひまわりがダメになるのではと気を揉んだ。
ここ最近は雨が続いている。
庭の水遣りがいらない反面、盛りで咲いている花たちが気づいたころには花びらを散らしていた。
ひまわりは思ったよりも強く、今も元気にすくすくと空に向かって伸びている。


あとは、あれだ。
母がガンで入院することになった。

医者に診断されたのは2月のこと。当人は勿論のこと、私を含め家族も面を食らった。
年末に行った健康診断で異常が見つかり、その後の再検査で大きなポリープが見つかった。
母はその場でガンだと言われ、帰ってきた。

ショックではあったが、見つかってくれて良かったと思った。

その週の終わりに、父と母と私の3人で厄払いに行った。
ちょうど父も厄年だったからだ。

年に何度か行く大きな神社がある。
広い空間に大きな木々が立ち、澄んだ空気をまとった、まさに神聖な場といったところだ。

父は厄除け、母は病気平癒、私は除災招福とそれぞれの願いを神主さんを通して神様にご祈祷する。

実は厄除けをするのは今回が初めてだ。

いつも参拝のたびに見ていた本殿に、今自分がいるだなんて。
お祓いが始まると、重い太鼓の音が響きわたり、次いで祝詞を上げる太い声、シャンっと鳴る鈴の音。
後ろでは、先程から降り出した雨足が強くなった音もする。

冷たい風が横切る。

まるで神様がそこを通ったかのように。

不思議な体験だった。
何がどう変わったと口で説明は出来ないけれど、清められるとはこういったことなのだろうと思った。

何だか頭のもやが取れて、すっきりとした気分だ。


そうして迎えた翌週。

今度は会社から、リストラ要員であると宣告された。
業績悪化によりる人員整理だと言う。

思いもよらないことがこうも立て続けに起こるとは、人生とはつくづく面白いものだ。

まあ、解雇はすぐさま死に関わることでないし…。と何だか達観している自分がいた。

しかし、先日厄除けで除災招福を願ったばかりなのを考えると、
なるほど。会社が災いなのかもしれない。   

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そんな数ヶ月前のことを思い出しながら、長い休業をしている今の自分に戻る。

あれからもう2ヶ月が過ぎたのか。ついこの間のような気がしてならない。

母は3日前に入院した。
それまではバタバタと毎週のように医者に行っては検査をして、説明を聞いてとしていたのだが、それがパッタリと失くなってしまった。

父は別宅にいるので、家には私ひとり。
否、犬と猫がいる。
それでも1人不在の家には、寂しさやら虚しさやらが残る。

コロナの時代だから、手術も付き添いも1人のみ。見
舞いに行っても顔は見れず、看護師に荷物を預けるだけ。
インターネットのお陰で本人と連絡が取れることだけが幸いだ。 

あと何日こんな日々が続くのだろうか…。

窓からは、昨日まで手入れをしていた庭が見える。
花は雨に濡れ、花弁を閉じてしまっている。
その上の空は、灰色だ。
気づけば、時折降った雨で下は泥濘んで水溜りができている。

空色までもが、晴れ渡らないとは。
ここのところ、ずっと塞ぎ込みがちな心に拍車をかけてくれるなよ、と思う。

さてさて、これから犬1匹と猫2匹の我が家はどうなるやら。
兎角、母の無事な退院と予後を祈るばかりである。

2022.04

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