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憤ったりびっくりしたりしながらナンパについて考えてみたお話。

道を歩いていると、ときどき声をかけられることがある。ナンパと言うやつだ。時々、ナンパされるのは美人だけだと思っている人がいるが、全くそんなことはない。現に私はごく平々凡々な容姿だし、別におしゃれでもない(前付き合っていた人(イケメン)に、『Kumikoの容姿偏差値は49』と言われたことをまだ根に持っている)。女性なら誰でも声をかけられるものだ。ナンパされるかどうかは、容姿より、声をかけやすい雰囲気を持ってるか、どこを歩くかによって大きく変わる。東京の渋谷とか、大阪の梅田~なんばとか、福岡市の天神と博多駅とか、海外だったらパリの地下鉄とか、そういうところを女一人でゆるゆる歩いてたらわりと声を掛けられる(「どんな人にナンパされるか」は、ひょっとしたら女性の容姿で変わってくるのかもしれないけど。美人の見るナンパの世界を私は知らないので、ここでは置いておこう)。

私は潔癖なタイプなのか知らんが、ナンパというのは割と不愉快なものだ。道にでも迷っているのかなとわざわざ立ち止まって話を聞いたら、その20も年上だろう、薄らハゲのくたびれたスーツのオッサンが、やたらニヤニヤしながら「ちょっと一緒に食事でも行かない?ご馳走するからさ」とかぬかすのだ。親切に足を止めたら変なオッサンからの食事の誘いだったということも気分のいいものでもないし、たかだか2~3000円程度のご飯にホイホイ釣られる女だと思われているのも実に不愉快である。胸倉をひっ掴んで「お前なんかの誘いについていく女に見えたのかよ?!」と啖呵を切ってやりたい衝動に駆られる。不躾にも突然見知らぬ女性を食事に誘うのならば、正装してバラの花束を持って、「こんにちは。素敵な方ですね。私は〇〇と言うもので、今晩ディナーをご一緒してくれる人を探しております。あちらのレストランで、美味しいフレンチのコースを二人分予約しており、シェフも待機しております。ぜひ一緒にいらっしゃいませんか?ご馳走いたします。」ぐらい言ってくれというものだ。そもそも食事代を餌にそこらへんで声をかけないと女性に相手してもらえないなんて男、どうせ仕事も冴えないモテないやつに違いない。女性にとって、ナンパ男についていくメリットなど一切ないのだ。

大阪市という大都会にはわりとこんなオッサンが棲息していて、九州ののんびりした平和な地方都市から引越して大阪で一人暮らしを始めたころは、街中に出るたびによく声をかけられた。つまり、「素敵な女性だからなんとかお近づきになりたい」ではなく、「世間知らずそうなイモくさい若い田舎娘だから、適当に丸め込めるだろう」と思われているのだ。田舎から出てすぐの子がやたらキャッチなんかに声をかけられるのもこれが理由だ。実に不愉快である。「いいものだから」でなく「安そうだから」という理由で選ぶなんて無礼千万である。そもそも安く売った覚えなどない。断固とした拒否のやり方がよくわからない純朴な田舎娘だった私は、駅で30分くらい「電話番号を教えてくれ」とオッサンに手を掴まれて離してもらえない(意地でも教えなかった)なんてこともあったし、まあ、いい思い出はない。単純に怖いし、やめてほしい。

他にも、通りすがりにボソボソッと何か呟くのでわざわざ立ち止まって「なんですか?」ときいたらやっぱり蚊の鳴くような声で食事に誘ってくる、ヨレヨレシャツの全然冴えない男性(この一年で福岡と東京で少なくとも計3回遭遇した。全国的に分布しているようである)とか、いきなり「おー!さっきも〇〇で会ったよね?何してんの?」みたいに馴れ馴れしくタメ口で話しかけてくる不躾な若いリーマンとか、まあいろいろだ。だいたいニヤニヤしたその笑顔がなんか生理的に気持ち悪い。見知らぬ人にいきなり話しかけるんだから、せめて、身なりを整えて、かつ礼儀正しく接したほうがうまくいくんじゃないかと思うんだが、どうなんでしょう。もし私がそこらへんで男性をナンパするならそこらへん気を付けるぞ。せんけど。

だからといって、声をかけてくるのはすべてキャッチかナンパだと決めつけて冷たくあしらってたら実は道を聞かれていたとか、「知り合いの〇〇さんですか…?」と聞かれていた(違ったけど)とか、よく見たら昔の知り合いだったとかもわりとあって、その場合は実に申し訳ない。いつの間にか私は、おそらく都市部に住む多くの女性がそうなるように、話しかけにくいように常に前を向いて速めに歩き、目の端に入る人の視線や動きでナンパしようとしていることがわかるようになり、基本無視するようになった。

そしてここのところは、コロナ禍になってからナンパされる回数が増えている。そんなに街中に出ないし、せいぜい2、3ヶ月に1度ではあるが。マスク効果で女性が良く見えるのか、飲み会がなくなり出会いに飢えた男どもが増えているのか、不思議なところである。

さて先日私は、知人と2杯ほどお酒を飲んで別れた後、店でマッサージを受けて、ほろよいのいい気分でひとり、真夜中の道を家に向かって歩いていた。すると中心街を通るあたりで、何やらついてきて話しかけてくる人がいる。見た目はいかにも20代のホスト。茶髪にピアス。顔は美形で黒いコートと細身のパンツがおしゃれ。スタイルもいい。「かわいい顔してどこいくの。なんか飲もうよ」。間違いない。ナンパかキャッチである。せいぜい、近くにある(のかしらないが)ホストクラブか働いているバーに誘っているのだろう。

まあ普段だったら一瞥してガン無視のところだが、今晩は気分もいいし、身なりと顔がちゃんとしていることとマスクなしで笑顔を見せる透明性、また一言目に「かわいい顔」と(マスクで顔が隠れているのに)具体的に褒めてくれる紳士的な態度、適度な物理的距離感を評価し、中心街過ぎるまでの数百mくらい、歩きながら相手をしてやろうという気になった。というか、道端でナンパしてくる人の気が知れないので、この際聞いてみようと思ったのであった。全くの気まぐれに。30代半ばにもなると女は神経が太くなる。

「今日は何人声かけてんの」「え、初めてだよ!」「嘘でしょ?いつもここで声かけてんの?本当は何人目?」「えーと、じゃあ二人目!」「嘘じゃん。もっと多いでしょ。何?店に誘われてるの私?」「違う違う、店じゃない」

話を聞いていると、キャッチではなく、何やらこのあとの用事まで1時間ほど空いていて遊んでくれる人を探しているらしい。大阪から出張でしばらくこの街に滞在しているそうだ。関東の某県出身で、大学から今に至るまで関西に住んでいると言う。大学出てるのか。進学せずお遊び気分で水商売業界に就職したホストかと思ったわ(※ホストにもRolandさんみたいに本気で仕事に取り組んでいる方がたくさんいらっしゃるのは知っています!)。まあ全部嘘かもしれんけど。

10分ほど歩きながらやいやい適当にしゃべって、ひたすら誘いには乗らず、LINEだけ交換しようと粘られて、素性もバレないしいざとなったらブロックもできるし、何より話もうまくてそんなに嫌な感じがしなかったので、気まぐれに承諾したのであった。

そして後日。気が向いたので、一緒に食事に行った。話をしていると、彼はずっと個人事業主としてある仕事をしていて、会社に属した経験はないと言う。今も会社命令の出張ではなく、自分の判断でここに来ていると。京都の大学に在学中に始めた事業を今も続けていると。そして若作りしているが本当は30代半ば、私と同年代と言うことであった。

京都の大学。これは私にとって甘美な響きである。私は大阪の大学に通っていたが、第一志望は西日本の大学の雄、京都大学なのであった。入試難易度の高い学部を背伸びして受けて玉砕し、後期試験で(国立大学は1年に2回受けられる)隣の大阪大学の同じような学部に滑り込んだのである。

京都大学と大阪大学、手前味噌で恐縮だがいずれも由緒正しい国立の総合大で、日本では東京大学に次いで入試難易度が高い。特に京都大学は入試問題が独特で本質的な理解を問い、対策が難しい部分があり、ある意味東大と同等の相当な難関だ。関西では京大にギリギリ受からない・届かない人は阪大に入る、といった感じでちょうどワンランク違いの関係である(さらにワンランク下に、こちらも国立の神戸大学が君臨し、さらに大阪市立大や有名私立などがひしめく)が、大学生活は大きく異なる。京都大学は京都市内のど真ん中に位置し、同じく市内には同志社大学や立命館大学、龍谷大学、京都産業大、京都薬科大などなどたくさんの大学が密集している。インカレ(複数の大学の生徒が在籍する)サークルはたくさんあるし、中心街の河原町に行くと大学生の姿が目立つし、学生向けの飲食店やカラオケなどもたくさんある。京都の大学生たちは、活気のある学生街で、いかにも大学生らしい生活を送れるのである(と、当時、京都にて京大や薬科大の友達と遊ぶたびに思っていた)。

対して私の大阪大学は大阪市からさらに北の外れに位置し、近くに学生が集う街もなく、広大な土地に設立された閑散とした研究所と言った感じで、今一つ「ワイワイ活気のあるキャンパスライフ」感に欠ける。私はやたら活動範囲の広いアウトドア系サークルに所属していたので、近くの関西大学のほか京都や鳥取その他全国の大学生とも交流があったが、大学自体が他大と交流の盛んな活気のある大学だったかと言うと、どうかなというところである(研究には向いていたかもしれない)。校風も、天才肌が群雄割拠し学生運動も盛んな京大に比べ、阪大は地元出身ののんびりした堅実な子が多くて、良くも悪くもマッタリとしていた。

そんななので、行きたかった学校のある京都は私にとって憧れの街であり、「京都の大学に通っていた」と聞くと、「いいなあ~!私も大学生活を京都で過ごしてみたかったなあ!」と、妙にテンションが上がるのである。今目の前にいる、ナンパして女をひっかけているチャラいホスト風の男は、入試も易しく勉強もゆるい、チャラい私立大学(申し訳ないが、実際にこういう見た目の人の多い私立がいくつかあるのだ、もちろん全員ではないが。なお阪大など国立は地味なのが多い、今は変わってるかもしれないけど)出身だろうと思うが、それでも京都の大学出身というのは「いいなー!」となる。

そして、大学生の時から事業を始めて今でも一人で仕事をしているというのも、とてもすごいことだ。私はずっと雇われの身でヒラで仕事をしているが、本当に楽ができる立場である。いざとなったら「会社が悪い」「上司が悪い」と人のせいにできる。会社の業績が悪いのは経営陣の責任だし、自分のモチベーションが上がらないのは管理職の責任だし、仕事が嫌になったら辞めて他の会社に移ればいい。自分で会社を持っていたり個人事業だったりであれば、そうは行かない。お客さんを獲得するのもサービスを作るのも事業を継続するのも、すべて自分の責任だ。私は世の中の仕事をする人すべてに感謝して生きていきたいと思っているが、自分の事業をやっている人には、業種・規模問わず特に敬意を持つ。私はやったことないし、やれる気が今のところしないから。ホスト風だろうがナンパ男だろうがチャラ大出身だろうが学歴なしだろうが、自分の事業を継続して世の中のためになり続けているのは、精神的に自立している証でありすごいことだ。

この人は話をしているととても頭のいい人で、聞き上手でとても理解力があるし、いいところでいろんな誉め言葉をくれる。下心が見えて気持ち悪いと感じることもない。チャラくて女性経験が豊富だからコミュ力があるんだなあ。都会に住んでる人はやっぱりスマートで話を盛り上げるのがうまいなあ。事業をやってるというのも口から出まかせでなく本当だろうなあ。まあそんなことを思いながら過ごした後、別れた。

下の名前しか聞いてなかったが、持ち物に書いてある名字が目に入ったので、フルネームを知った。ふと、家に帰ってからネットで検索してみた。facebookとかやってんのかな。友達申請はしないけど、話していたことが本当か確かめてみよう。事業をやってるのが本当であれば、WEBサイトも持っているかもしれない。実は偽名かもしれないし、大阪から来たとか嘘で実はこの街に住んでるナンパ師だったりして。

読みしかわからないのでひらがなで名前を入れたら、Googleの検索機能が漢字を提案してくれた。お、もしやこの人?もしかして有名人なの?まさかね。選択すると、プロフィールがでてきた。


本「〇〇〇」の著者紹介。198X年生まれ。関東の某県出身。京都大学〇学部卒業。


まさかの京大かよ。


しかも出版歴のある著名人かよ。



某県出身も年代も一致するし、在学中に事業を始めたとあるし、間違いない。写真も見づらいけれどあのチャラいあいつである。個人用WEBサイトも持っていて、住んでる場所などすべて一致する(似た顔の別人の名前を騙っているのでなければ…可能性はごく低い)。本の内容もノウハウ系でおかしくはない。なお割と売れているらしい。天才肌の多い京大でこの経歴は、普通に有り得る。

なお、私が勝手に検索しただけなので、本人には何も言ってない。本はメルカリでさっそく入手してみた。非常にわかりやすく堅実で、私にも役に立つ内容である。

それにしても彼の素性には本当に驚いた。「ナンパしてくるようなやつは冴えないモテない男」と決めつけて見くびっていたけれど、改めたほうがいいのかもしれない。例えば彼のように個人で事業をやってる人は業種によって出会いは多くないだろうから、ナンパは自然な選択肢なのかもしれない。東大から単身渡米し現地の大学で教鞭をとった数学者藤原正彦先生も、アメリカで出会いがなさ過ぎて寂しかった時期は、フットボール観戦券を握りしめ道行くアメリカンギャルに片っ端から声をかけたとエッセイで書いていたし、私の友人の天才系デキる実業家モテメンも、カワイイと思った子には片っ端から声をかけていた時期があったといっていた。「ナンパするようなやつ=仕事も恋愛もイケてないやつ」は、そんなに正しくないかもしれない。ちょっとゴメン。決めつけて軽蔑してました。ナンパ男たちも出会いが欲しくて必死に頑張っているのだ、きっと。

というわけで、案外ナンパも、普段出会えないスゴイ人と出会える機会なのかもしれない。もちろん、遊ばれて傷ついたとか、犯罪に巻き込まれたとかいうことがないように、相手を選び、最終的に自分の身を守れることが前提だが。出会い方に拘るのはいいことでないかもしれない。男女に限った話ではなく、人との出会いで大事なのは常に、出会えたその相手だ。その相手の価値観や性格であり、どれだけ実のある出会いにできるかだ。

なので、コロナで出会いが減って困ってる大人の女性は、ナンパについていくのもいいのかもしれないですよ。積極的には薦めませんが。

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