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らいふいず……その1
【おーぷにんぐあくと】
6月の初旬
「何やってんだよ!お前ら」全くと言っていいほど着こなせていないスーツに身を包んだ《へいじ》が口火を切る
学生時代は「三度の飯よりケンカ好き・ケンカは飲み物」と豪語していたコイツも
あの頃の自慢のリーゼントを今ではぺっちゃんこの横分けにして少なからず更生したようである
もとい…更生したように見えているだけである
「お前が言うかね?」そう切り返したのは《かず
ちょうどいい幸せ ⑦
【あくびをしながら…】
「今日こそは」
彼女の固い決意にボクは頷く
彼女と付き合うことになって3ヶ月になる
仕事場で毎日顔を合わせている上に、今ではほとんどお互いどちらかのの家で食事をする関係になっている
つまり…彼女には車と部屋の合鍵を《強奪》された形になっている
日々、彼女の私物が増えていき、カーテンや小物も彼女の趣味に合わせた色になっている
今では彼女の宝物である「石原裕次郎映画」全
ちょうどいい幸せ ⑥
【3つのノート】
彼女が旅立って10日が過ぎた
その間、たくさんの人がひっきりなしに出入りしていたこの部屋に今はひとりきり…
胸が苦しい
ボクはここで彼女が亡くなってから、ずっと胸の奥にしまっていた《彼女と過した日々》を思い出すことになる
喉の奥でずっと我慢していた
瞳の奥でずっと我慢していた
一人になる…そんな事で簡単に堰は切れる
呼んだ
君の名前だけを何度も何度も
叫んだ
ちょうどいい幸せ ⑤
【これは黒歴史的な罰ゲーム】
そろそろ彼女の誕生日だ
「欲しいカーディガンがあるんだよ」
ここ最近の彼女の口癖だ
(女の人の服はべらぼうに高い)
勝手にそう思っているボクには彼女の顔が福沢諭吉以外の誰にも見えなくなっている
事前に値段を確かめたくて「どこのお店?」とか「どこのブランド?」と何度もリサーチをかけたのだが、この《諭吉》さんは頑として口を割らない
既に《白のプレリュード》を
ちょうどいい幸せ ④
【街のケーキ屋さん】
「んー!どうしよう」
ボウリング対決から二日たった日曜日、ボクは彼女の家にいた
彼氏ヅラしてという訳ではなく、あくまでも修理工場から電話があってここに来ている
「いちおう動くけど、こりゃもうダメだな」
兄から譲り受けたポンコツに戦力外通告が受けた瞬間だった
そう告げた監督…ここの社長である彼女の父親は先日の《赤鬼》の影は微塵もない
そしてボクの放つであろう言葉を
ちょうどいい幸せ ③
【デート・デート!・デート?】
『 おはようございます!』
何時もの時間に何時もの元気な声が聞こえる
しかし、その声とは裏腹に明らかに不機嫌そうな顔をしているのは判る
およその予想はついているが、あえて知らない顔をして彼女に近づく
『 昨日は本当にありがとう。助かったよ…』
『 私のプレリュード』
『 はっ?』
『 私のプレリュード擦ったりしてないよね?』
やはり気になるのはそこ
ちょうどいい幸せ ②
【針のむしろ】
『かおりー!手伝いなさい』
キッチンの方から彼女の母親の声が聞こえる
人様の家をジロジロ見るのは大変失礼なのだが、コチラとしては半分拉致された形になるので目線だけを動かして内装を確認する
《小さな自動車修理工場》とは言ったものの、どうやら中古車販売も手掛けているらしく、いたる所に車のオークション等の写真がかざられている
コチラにお邪魔してからというもの《元気印》の娘の質問
ちょうどいい幸せ ①
【それはイカンよキミ!】
『お早うございます!』
毎日同じ時間になると扉を開けてこの声が聴こえてくる
事務所の入り口の真ん前に席があるボクは、この元気過ぎる女の子の声に驚き何度か椅子から滑り落ちそうになった
その度にまた一段と大きな声で『大丈夫ですか!』と言ってきてオフィス中の注目を浴びることになるため、近頃は彼女来る時間には自然と椅子に深く腰を掛ける習慣が出来た
彼女は取引先の写真の現
キミの掌に握られたもの《ちょうどいい幸せプロローグ》
【はじめに…】
『赤ちゃんは掌に自分の食い扶持を握って産まれてくる。だからいつもこぶしを握っているんだよ』
母親だか婆ちゃんだかがよく言っていた言葉
だとしたら…産まれて来る時にキミの掌には何が握られていたのだろう
【ある夏の日のこと】
北海道帯広の夏は十勝川のせさらぎが心地よく、それを眺めているだけで一日の仕事の疲れや嫌なことを忘れさせてくれる
花火大会ともなれば大勢の人がここに集ま
君の知っている僕と、僕だけが知らない君 END
雨に微笑みをStrolling along country roads with my baby
It starts to rain, it begins to pour君と二人で歩く田舎道。突然の雨襲われる
Without an umbrella we’re soaked to the skin
I feel a shiver run up my spine傘なんか無かったからずぶ濡れになった
君が知っている僕と、僕だけが知らない君 ⑤
君が知っていた僕の思いと僕が知らなかった君の思い(終わるな終わるな終わるな終わるな終わるな)
頭の中で一生懸命願う。その思いと裏腹に同時進行で終わりに向けてハーモニカを吹きつづける唇、呼吸、心臓
『お誕生日おめでとう。はいこれ』
夏休み中にも拘わらず、遠野ゆかりと上川由美が訪ねてきた。手渡されたピンク色の包装紙に包まれた手のひらサイズの小箱
『二人からだからね』と由美が言葉を続ける
『う
君が知っている僕と、僕だけが知らない君 ④
君に出会えた日【6年前】
『はいはい。みんな席についてー。今日は新しいお友達を紹介します』
冬休み明けの初日、始業式後の教室に担任の横谷先生が転校生を連れてきた
『…さんは、お父さんのお仕事の都合で札幌からお母さんと妹さんと3人しばらくこの町で暮らすことになりました』
クラス中から歓声が上がった。人口10,000人程度の小さな漁師町に転校生が来るだけでも珍しいのに、それが札幌という都会から