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らいふいず…その3

【アイドル爆誕そして僕らに緊張が走る】

カランコロンカランコロン

良くあるこの音と共に新たな客が4人入ってきた

「あの…い、いらっしゃい…ませ…」

消え入りそうな声がその客を招き入れる

別の日のお話ではなく《おけいさん》のツレの女の子の可愛さにハートを撃ち抜かれて
(ついでに物理的攻撃を受けて)
ほとんど気絶状態の僕達に代わって急遽店番を任された 《おけいさん》のツレこと…

「せ…せ…せいこちゃん?」
「かっかっかっ可愛いー!」

店に入ってきた男1と男2は店の入口で立ち往生している

ばちーん!

お約束のカバンで脳天を直撃する音だ

しかしその音は《おけいさん》のそれではなく、男1と2と一緒に来店した
《西高世紀末伝説…北斗の長兄・次兄》と名高い…

もとい

《西高の危険姉妹かずたまデンジャラスシスターズ》が彼らの発言を耳にしてからの後ろから放たれた一撃だった

(馬鹿なヤツらだ…)

そして僕らと同じく死体の山の如くボックス席に追いやられた男1は《かずみ》の彼氏の《ユウ》そして男2は同じく《たまみ》の彼氏の《ハル》だ

女の子連れの男に有るまじき発言を、しかも《かずたま》の前でそれを口にするということは

「はいお好きなだけ殴って下さい」と言っているようなものだ

「お前ら相変わらずアホだな」

死体の山の下から2番目に積まれた《かず》は自分の事を棚にあげながら二人に声をかける

カウンターの中の彼女も

「皆さん大丈夫ですか?」

と、これまた小さな声で心配そうにこちらをうかがっている

可哀想に初めて見るスケバン達の狂乱ぶりにすっかり怯えているのだろう

「かずちゃん、たまちゃん…ダメよ?女の子がそんな乱暴しちゃ」

1番の乱暴者が至極真っ当な事を言う

「嫌だなぁセンパイ…アタシ等そんなこと…ねぇたまちゃん?」

「ホントどうしたのかしらこの人たち?かずみちゃん知ってる?」

二人も負けていないようだ

そしてカウンターの中にいる女の子のエプロンの中の赤いリボンを確認してから

「センパイのお友達ですか?」
「そう可愛い後輩ちゃん二人とも仲良くしてあげてね」
「そりゃもう、もちろんです」
「いやーん可愛いこの子♥」
「あ、いえそんな。こちらこそ」

などと女子トークに花を咲かせている

「そろそろどけろよ…」

死体の山の一番下にいる僕がそう言いかけた時だった

「あー!あの娘!」

と聖帝十字陵の上に寝そべっている《ハル》が声をあげた

「翔陽の附属中の小田のいち姫じゃん!」

「なんでお前がゾクチューの娘とか知ってんのよ」
「いや…退けて」
「お前付属違うだろアホのくせに」
「違う違う!うちのマンションに住んでるゾクチューのタメに卒アル見せて貰ったことあってさ」
「姫って何?本名?」
「だから…退いてお願いだから…」

とこちらも負けずに男子トークが始まる

どうやら自分の事をピラミッドのツタンカーメン達が話しているのに気づいたのだろう
《小田のいち姫》はまた恥ずかしさにかおを赤らめて《おけいさん》に目で助けを求めた

「ほらほら、そろそろ起きて仕事しなさい。いつまでもお嬢様にこんな汚いお店の雑用させないの」

それから彼女にも「ありがとね、もう大丈夫みたい」と僕らと仕事を変わるように言う

「はい」

彼女はそういうと今まで自分がしていたエプロンを外す

「うおー!」

五体のツタンカーメンが一斉に立ち上がった

今まで彼女がしいていたエプロンを奪い合う

《思春期男子の変態バトル》

が始まろうとしていた

五人とは言ったものの《ハル》と《ゆう》はカウンターから送られてくる己が連れてきたメデューサ達のデンジャラスな視線にその場で石にされてしまった

ツタンカーメンは元々はミイラだから動かないんだけど

あとは重なった順番的に《へいじ》が再度雇われマスターの役にありついた

そしてひと段落(?)着いたところで初めて彼女のパーソナルデータが公表された

《小田いち香》

翔陽学園の2年生
僕達と同い年で既に生徒会副会長を務める才女
そしてもうひとつ

「小田の姫だってーーーーー!」

カウンターの奥の小部屋から大声と共にマスターが慌てふためきながら現れた

「すいませんすいません月末に…いや次の月曜日にはキチンと」

何を言ってるのかと思ったら

ここの建物のの名前が《ODAビル》であり
《ODA》と言えば《不動産・カラオケ・映画館・飲食店・スーパーマーケット…等々》この街に住んでいたら誰でも一度は聞いたことがある名前だ
彼女はその《ODAグループ》の社長令嬢

どうやらこの店の店賃を滞納していて、その金策のための《今日は仕事どころではない》なのだ

競馬でひと山当てて家賃…って

本当にダメな人だ

彼女は彼女でマスターの勢いに負けたのか
「はい、月末までにはお願いしますね」
などとすっかりこのビルのオーナーになっている

でもこれはこの店に通う僕らにとっても死活問題だ
万が一、マスターが競馬の予想を外して無一文になって夜逃げでもされたら…

「アンタは働かなくて良いから!しっかり予想しろ!」

ダメな大人にこの場の高校生達はそう言い放った
みんな思いは同じらしい

「はい。お世話になります」

マスターは小声でそういうと背中を丸めて再びカウンターの奥へと消えていった

きっとこの人をダメにしているは僕達なのかもしれない

「それよりも何で翔陽のお嬢様達がこんな店に?」

《かず》が素朴な疑問を投げかけた
それもそうだ…まさか本当に家賃の取り立てに来た訳でも無いだろう

その問に真っ先に反応したのは《いち香》だった
先程同様顔を真っ赤にさせてあたふたしだした

《おけいさん》はその動揺を楽しむように

「ここにいち香の会いたい人がいるんだよね」

「かっ、会長!ダメです!」

「えー?その人に今日はこの店に居るからって言われて、1人じゃ恥ずかしいからって付いてきてって言ったのいち香でしょ」

「………」

《おけいさん》は可愛い後輩ちゃんイジりを思いっきり楽しんでいる

でもこの店に会いたい人が居るとして、先程の対応からしてここの主では無さそうだ

ましてや雇われマスター組の僕達の誰かでもない

じゃあいったい?

お目当ての人間がここに来る常連客だとして…こんな可愛い子を《こんな店》に呼び出すだろうか?

《おけいさん》と《いち香》を除く全員がそれぞれ常連客の顔を思い浮かべている

いやでも…そんなキザなことを言うのはここに居る《かず》くらいしか思い浮かばない

「あー!もう判らない!誰なの?その素敵な人!」

恋愛脳を爆発させた《かずみ》は痺れを切らした
両手の指を組みながら視線を斜め上一点を見つめて恍惚の表情を浮かべている
まるで白馬に乗った王子様でも想像しているようだ

誰も《素敵な人》とは言っていないのだが…

「でもさぁ…今日って指定したわけでしょう?」

相棒の《たまみ》の方は割と冷静に分析を始めた

「今日ねぇ…」
「日付指定かぁ今日って何日だっけ?」
「あとは曜日か…」
「今日は土日でもないし…」

それぞれが自問自答している

「木曜日か!」

僕は大きい声でその単語を発した

そこにいる全員に緊張が走った

その光景を見た《おけいさん》が大笑いをしている
どうやら《木曜日》というキーワードが正解のようだ

時を同じくしてこの店のドアが開く

その先に僕達が緊張する理由が立っていた

らいふいず…げっと なーばす!(緊張する!)

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